15コ目 「なんでやねん!」なトコ
あけましておめでとうございます(2月最終日)。
あとすみません、一年ぐらい投稿出来なくなるかもです。休載…なんてそんな立派なものじゃないのですが。
一年後に書ける状況になったら再開したいです。
「おはよう恭介」
教室に入ると、後ろ角の席―僕の隣の席で突っ伏している藤宮と、その机に座る桜がいた。もうだいぶ明るい8時過ぎのクラス内にはほとんどの生徒が登校してきていて、朝から友達と喋って盛り上がっていたり、机に向かって真面目にシャープペンシルを働かせていたり、これからまた始まる一日を憂いてボーッとしていたりしていた。
そんなクラスの様子を横目に、僕も後ろ角へ向かう。
「おはよう、桜。」
最近はこんな風に、桜がちょくちょくと僕たちのクラスに来ることが増えた。SHL が始まるまでの時間、たわいの無いことを駄弁ったりして、チャイムが鳴ったら自分のクラスに帰る。
桜のクラスは少し離れている筈なのに、こうわざわざ訪れてもらって。少し申し訳ない気持ちはあるが、地元から離れたかった僕がこの学校に通うためには、片道の移動時間に2時間掛ける必要がある。だから桜より先に学校に着こうとするのは中々難しいんだよな。
それに、と僕は隣に目を遣る。
こいつは絶対ここから動かないだろうし―と思ったところで僕は気づいた。こいつ、俺と桜が話しているこの時間、一度も起きたことねぇ。
思えば、ほぼ風景と化している、この突っ伏して寝ている姿しか見たこと、ねぇ。
…じゃあ明日、電車の時間少し早めてみるか。
呆れてそう決断した後、ふと、自分の教室での桜ってどんな感じなんだろう、と桜に視線を戻して考える。
トランスジェンダーであることは高校ではオープンにしているようだけど。クラス内でも僕たちと話しているように、明るく振る舞っているのか。それとも…
「どうした?」
…いや、クラスでの桜なんて僕には関係ないこと。それを知ったところで変わるもの、変わっていいものは何もない。今、接している『桜』ってだけで、いいのだ。
「なんでもない。」
藤宮だったらこんなこと考えもしないんだろうなと、やっぱり少しだけ自己の嫌悪をしながら椅子を引いて座った。
そして今日もいつも通り二人でゆっくりテキトーに過ごそうかと思った時、
「あれ、中谷くん来てたんだ。おはよう。」
起きた。
「お、おはよう」
半分しか開いてない瞼をコスコスと擦る彼女を見て驚いていると、
「なに言ってんの。今日俺が来たとき詞月、すぐ起きて『中谷くんおはよう』って言った癖に」
「―っ!桜!それは言わない約束でしょ?!」
そうなの?と茶化すように笑う桜に、藤宮はもう寝る!と言ってまた顔を伏せた。髪の隙間から見える耳はほんのり赤く染まっていた。
カメラの時もそうだったけど、藤宮にもちゃんと恥ずかしいって感情はプログラムされてたんだな。とぼんやり考えていると、
「はいはい、ごめんって。―なにか話したいことがあったんじゃないの?恭介と。」
話したいこと。
そのなんか含みを持ったワードに僕は思わずドキッとする。
話したいこと…なんだ?もしかして…もしかするのか?僕はまだ経験はないけど、身の回りにカップルはよく見かけるし。藤宮が、僕に告白を…
いやいや落ち着け中谷恭介。藤宮に限ってそんな筈はない。そもそも藤宮は恋愛なんて全く興味なさそうだし、ましてやこんな陰キャでぼっちの僕のどこに好きになる要素なんか…
顔を上げて、上目遣いで僕を見る藤宮。
そんな筈が…
「中谷くん。私と…」
ゴクリ
「私と一緒に、漫才やってくれない?」
「…はい?」
拍子抜けする僕に構わず藤宮は「最近、女子高生が漫才に挑戦する小説を読んで、私もやってみたいなーと思って」
そんなことかよ!とまるで大声が売りの漫才師のように心の中でツッコんだ。
いつもと変わらず藤宮は藤宮だった。期待して損した…と思い、ん?期待?
僕は、藤宮に告白されることに期待してたのか?だったとしたら、僕はいったい、なんて返事を…
…いや、きっと告白されるっていう状況に憧れていただけ。きっとそうだ。だから、返事をどうしようなんてこと考えたって意味はない。うん。
「で?やってくれる?」
「けど僕、漫才なんてできる気しないよ?話し方とか」
すると桜が
「いつもの感じでいいんじゃない?」
「え?」
「ほら、二人の会話って最早漫才みたいになってるからさ。詞月がボケで、恭介がツッコミで」
ちょっと思い返してみる。…た、確かに。
というか単に藤宮の言動がツッコミどころが多すぎるだけなんだけど
藤宮は「えー私ボケてるつもりないけど」と、それもボケか分からん発言。「まあいいけど」と言って何故か少し不服そうに承諾した。
「よしっ、そうと決まったら昼休み、ここに集合ね!私それまでに台本考えとくから!」
藤宮が声高々と授業は真面目に受けない宣言をしてその朝は解散となった。
こう昼休みまで藤宮に付き合わされるのは何回目だろうか。
僕にとって昼休みは、いつも一人で弁当を食べるだけの時間だった。しかし最近はもう、それだけではなくなってきている。
桜がいて、藤宮がいて、僕がいる。
蓮も―いたらいいな。今度呼んで紹介してみようかな、と思った。
「はいはい、みんな集まったー?―中谷くんが最後だね」
「いやずっと横にいただろ。」
なんか口に出すと恥ずかしいセリフだったので、「席隣だし」と付け加える。
藤宮は何とも思っていない様子で、なんか嬉しそうに「ツッコミだー」
「それで?台本は書けたの?」
桜が聞くと、藤宮はふっふっふとテンプレな
「私はSUSHIだったなー」
「今妖怪ウ○ッチの話してないし、テンプラじゃなくてテンプレだから」
「天ぷらは何が好き?私は強火かな」
「揚げ方じゃねえか!」
呆れてる僕とは対照的に、楽しそうに笑って「ごめんねさっきまで漫才考えてたからボケが止まらなくて」
いや全然いつもどおりでしたよ…
「いつもどおりじゃない?」
ナイスツッコミ、桜。
桜に向かって親指を立てると桜もその長い親指を立て返した。
藤宮はようやく、「さて、冗談は取って置いて、」と、後々また冗談がまた繰り出されることを示唆しながら藤宮は話を戻した。
「これが私の書いた漫才です!」
突き付けられたルーズリーフを二人で覗き込む。
そこには交互に鉤括弧が連なっており、セリフの役割分担の印だろうか、それぞれの前に(私)と(中)が書かれていた。
そして、(私)の後の鍵括弧にはセリフがよく書かれているのだが、問題は…
「詞月、これ、ツッコミは?」
そう、ツッコミの部分―(中)の後のセリフだけ、ほとんど書かれていなかったのだ。
「いやぁね、考えてはみたんだけど、どうしても思いつかなくって。だから中谷くんはさ、アドリブでお願いしてもらっていい?」
あどりぶ?
「おい!それじゃあ僕の難易度だけ爆上がりじゃねえか!」
「えー、だって桜も『いつもの感じでいい』って言ってたし」
いやそれはもっとさ、話し方とか、声の大きさってとこで腑に落ちてたのに
救いの眼差しを向けても、桜まで「楽しみだなー」って
くそ…もうどうなっても知らないからな!
「じゃあやるから、中谷くん、エレベーターいこ。そしてエムワン決勝やろ!よかったねうちの高校にエレベーターあって」
「そのためにあるわけじゃないし、そもそも使用禁止だし!」
発音良く「ちえー。」と悔しそうな藤宮。「じゃあ桜、採点よろしくね。」
桜がまた親指を立てて、とうとう僕と藤宮のアドリブ漫才が始まった。以下、その漫才の冒頭部分である。
藤「私、将来就きたい職業があるんですよ」
中「今絶賛漫才師やってんのになにゆうとんの」
藤「もう一つあって」
中「おん」
藤「実は私、小説家になりたいんですよ。」
中「ああ、まあ最近、芸人さんだったり芸能人が書いた小説が話題になっていたりしはりますもんね」
藤「だから今日、中谷くんに読み聞かせる為に私の書いた小説持ってきてるんですよね」
中「あっ、もう書いてん」
藤「『むかしむかし在るところに、お爺さんと、そのお爺さんのお婆さんがいました。』」
中「ご長寿」
藤「『彼は小説家として名を馳せていましたが、彼にはもう一つの夢がありました。それは漫才師になることです』」
中「ちょちょちょ待って、え、お前自身は小説家になりたい漫才師で、お前の書いた物語の主人公は漫才師になりたい小説家なん?」
藤「うん」
中「ややこしなるわ!どっちがどっちやねん。筆者の背景知識持って逆に分かりにくくなることあるんや」
「どうも、ありがとうございました。」
二人で言う。観客(一名)が拍手してくれた。
「いやー、楽しかったね!」
確かに楽しかったけど、またも藤宮にまんまと楽しまされたことがちょっと癪で「ま、まあまあだったな」
「それにしても恭介、関西弁上手くない?」
桜が言うと藤宮も「そうそう、私最初、中谷くんが関西弁で返してきたからびっくりしちゃって。」
褒められ慣れていない僕はどう返せばいいのか、どう照れればいいのか少し戸惑ったけど、悪い気はしなかった。
「けど関西なんて行ったことないから、ノリで出ただけだし、間違ってるかもしれないし」
漫才をしようと思ったら自然に関西弁になっただけだから、と言うと藤宮は目を輝かせて「じゃああれだ!」
「エア関西弁!」
「勝手に口パクにしないでくれる?!頑張ってツッコミしてたんだから!」
やっぱいいツッコミだねーと笑う藤宮。
やっぱ漫才でも漫才じゃなくても一緒だな。
「ところでこの漫才、面白かったか?」
素人の作った漫才だし、と軽い気持ちで聞くと、藤宮は自信満々に言った。
「私が面白いと思ったら、それでいいの!」
その言葉が、なぜか僕の心に矢のように突き刺さってきた。
いや、『なぜか』じゃない。だって僕は…
「どうした?」
急に黙り込んだ僕に桜が声を掛ける。
「あ、ああ…」
やべ、二人がこっち見てる。ここは何か、何かごまかせることを…
「ああ、もし僕たちが本当にエムワン優勝したらどうしようかって、考えて…た」
やべ、ごまかしきれない変なこと言っちまった。絶対引かれるか愛想笑いで困らせてしま…
「なんでやねん!」
「ぐぉふぉ?!」
強烈なツッコミを叩き込んでから
「一度やってみたかったんだよね!」
「相方もたねえわ!」
楽しそうな藤宮の笑顔は、相変わらず心地いいものだったけど、
そのツッコミが入った部位には、さっきの矢が刺さっていたり。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
おもしろい漫才を書ける気がしなかったので、またいつか完全版が出るかもしれません。
そしてなんか含みを持たせた終わり方したのに、すみません、一年更新止まります。




