13コ目 「はい、かんらく!」なトコ
ちょっと、シリ(知り)アスな話が続いたんでね
登校して席に着くと、いつも通り机に伏していた藤宮が目を覚ました。
「あっ、ごめん起こした?」
そこまで音を立てたつもりじゃなかったけどな、と思いながら謝ると、彼女は右目を擦りながらよわよわな声で言った。
「いや、大丈夫。中谷くんを待ってた。」
待ってた?
聞き慣れない言葉に思わず鞄から教科書を取り出す手が止まる。
藤宮はふわぁと欠伸を一つ噛むと、切り替えも早く、いそいそと足元の鞄をがさごそ。そしてなにか掴んだようだったが取り出さず、手を鞄に突っ込んだまま僕の方へ首だけ向けた。
「中谷くん、チーズって漢字で表すと何ていうか、知ってる?」
チーズ?急になんだ?
「まさかその鞄からチーズが出てくるんじゃないだろうな」
「流石にそれはないよ。安心して。」
チーズじゃなくても別に安心は出来ないんだが…ドローン、カードゲーム、等々。前科ならたくさんある。
それはひとまず置いといて、んー、チーズ…
「分からん。降参」
「答えはねー、『乾酪』っていうんだよ。そもそも酪農家とかの『酪』が乳製品を表す言葉で、それを発酵させて『乾』かしたのがチーズ、つまり乾酪ってことなのさ!」
へぇー。普通にためになった。けど、
「それで?それと何が関係あるんだ?」
すると藤宮はふっふっふとテンプレに含み笑い、そしてとうとうその手を鞄から引っこ抜いて、言った。
「テッテレー!デージーカーメー」
無駄に上手いドラ○もんの声真似とともに現れたのは、キラキラと黒く光るデジタルカメラだった。
片手でも持てるけれど両手で持った方が安心、ぐらいな大きさの四角を、綺麗にくりぬいた円がその真ん中に堂々と位置する。現代ではもうあまり見かけなくなった、いかにもというデジカメだった。
見かけなくなったとはいえ、子供の頃、まだスマホがそこまで普及していなかった頃に、このカメラを向けられたときに感じたワクワク感を、思い出さなかったと言えば嘘になる。嘘にはなるが…
「だからなんでこんなもの学校に持ってくるんだよ!」
「えー。デジカメぐらいならきっと先生も許してくれるんじゃない?黒板の写真を撮ったりすれば便利だし」
「いや、絶対遊びにしか使わないだろ…」
そこで僕は気付く
「ん?おまえさっき、デジカメ『ぐらいなら』って言ったか?それはつまり、今までの音楽プレーヤーとかカードゲームには、なんか色々こじつけて言い訳してたけど、校則違反してるって自覚があったってことだよな?」
「ぎく。」
「ぎくって実際言う奴始めて見たぞ」
「それは…てへ。」
「てへじゃねーよ!僕が今までどれだけそのせいでひやひやしてたか!」
「まぁまぁ。過ぎたことを嘆いても仕方無い。」
「おまえに言われるのは違うんだよ…」
藤宮はもう一回「てへ」と言う。不覚にもこれに動揺してしまうのだから余計悔しい。
「まぁ、ということで今から『はい、チーズ』は『はい、乾酪』にしてもらいます。」
そこに繋がってくるのか…
「絶望的に言いにくいだろ」
「だってほら、せっかく言葉があるのに、使って貰えないとその子可哀想でしょ?」
「言葉に可哀想とか思ってる人も始めて見たぞって。」
しかも子ってなんだ子って。
「とにかく、一回やってみよう!ほら、百聞は一見にピ〇チュウって言うし」
「ふざけてんだろ」
はいはい、撮るよーとそのカメラを向けられた瞬間、僕は思わずドキッとした。写真というのはいわば記録だ。消したり壊したりしない限りデータは残り続ける。僕の写真を撮るということは、藤宮の持ち物の中に僕の姿が残るということで。それはつまり、藤宮は僕のいないところで僕のことを思い出す可能性があるということ。
…なんてのは考えすぎかな。
「ほら、中谷くん、ピースしてピース、そうそう、じゃあいくよー。」
藤宮はカメラを構えた。
「はい、かんりゃっ」
パシャッ、は鳴らなかった。
藤宮の顔はカメラに隠れていて見えない。
「はい、かんりゃっ、きゃんらっ、きゃんりゃ」
「…」
「はい、チーズ。」
パシャッ
「あー!、お、お前、逃げやがったな!お前が、お前が始めた物語だろ!」
顔を隠していたそのカメラ奪うと、そこには顔を真っ赤にした藤宮がいた。
恥ずかしそうに少し俯く、初めて見るその姿は、なんかもう破壊力がすごかった。手に持ったカメラを向けかけて踏みとどまった僕を褒めて欲しい。
藤宮と接していると時々、『美少女』ということを実感させられるのだから、こう、怒るに怒れなくなってしまうのだ。
「あー、恥ずかしい。」
藤宮は顔を手で覆って呻いている。
「…じゃあ撮るときは『はい、チーズ』のままということで。」
僕が言うと藤宮は顔を隠したまま「うう…賛成。」と唸る。
カメラを返してやるとようやく手を外して受け取り、その液晶モニターを覗き込んで、そして急に吹き出した。
「あはは!中谷くん半目!」
肩を震わしながら差し出してきたそこには、無表情で、ピースしていて、見事に半目で間抜けな僕の姿が写っていた。
藤宮は目に涙を浮かべてゲラゲラと笑っている。
このやろう、さっきまで恥ずかしそうにしてた癖に。むかつくぐらい切り替えが早い。
まじでそろそろいっぺん、しばく必要があるか、本気で悩んでいたら担任の先生が教室に入ってきた。
「ほらほら、皆席に着けー。ショートホームはじめるぞー。」
「先生!はい、チーズ!」
なんと藤宮は入ってきた先生にもカメラを向けた。
「こら、勝手にそんなもの持ってくるな。」
「えー、だって黒板の写真撮ったりすれば復習する時に便利じゃないですか」
「じゃあ使うのはその時だけにしろ。」
はーい、と返事をすると、僕に「ね、校則違反じゃないでしょ?」と言う顔を向けた。いや、今明確に「それで遊ぶな」って言われたからな?
溜め息を吐いて椅子に座り直した時、僕は気が付いた。
クラスのみんなが、誰一人として藤宮のことを見ていないのだ。
僕たちは一番後ろの席だから藤宮に背を向けるのは当たり前だが、なんというか、雰囲気というか。
無視、拒絶、
言葉にするならこんなところか。
真面目に授業も受けず、問題行動も多い彼女が、テストでは軽々と学年一位を掻っ攫っていく。それがヘイトを買い、彼女を悪く言う声もよく聞く。
けれど桜と以外まともに喋っている人を見かけないことや、クラス内でもこの状況であることを見ると、みんなの中の彼女のイメージは、思っているより良くないのかもしれない。
しかもこの雰囲気は、僕だってよく知っている。すごく、よく。
…
目だけを動かして隣を見る。
滑らかで上質そうな布でカメラレンズをウキウキで拭く姿を見ながら、藤宮はどう考えているんだろうな、と思った。
言われた通り、毎授業の最後にきちんと黒板の写真を撮った藤宮は、昼休みに入ると開口一番言った。
「よし!遊ぼう!」
「もう遊ぶって言っちゃってるし」
「細かいなあ中谷くんは。で?何して遊ぶ?」
僕に拒否権なんてなかったみたいだった。
「写真にらめっこ対決でもする?変顔の写真を撮って見せ合うの。あっ、でも」
声を震わせて言う
「さっきの中谷くんの顔には私勝てる気しないわ」
よし。しばこう。
笑いすぎて流れる涙を指で拭く藤宮を見ながら決心だけした。
「あっ!桜ー!」
そのとき、教室の前を通りかかった桜を見つけて藤宮が声を掛ける。桜はおー、と言いながら教室に入ってきた。
「今中谷くんとカメラで遊んでたの!」
「それ、校則違反じゃない?」
ほらな。僕は桜に「だよねぇ?」
「もー、二人とも厳しいなぁ。じゃあほら!写真撮ろ写真!三人で!」
じゃあの繋がりが分からないけど僕と桜は藤宮に流されるまま。けど桜は幾分か慣れた様子だった。
「その前に、恭介と詞月はもう撮ったの?」
『もう』?なんで僕たちがツーショットを撮る必要が?
「え、私たち?撮ってないけど、なんで?」
「最近仲良くなったんだから、その記念に、的な。せっかくだから撮ってあげようか」
いやいやいや、わざわざわざ、そんなそんなそんな。三人で十分だし、藤宮だって僕となんか撮りたいはずな…
「いいね!撮ろう!」
そう言うや否や藤宮はカメラを桜に渡して僕の隣に立つ。
「ほら、中谷くん、もっと近づいて」
カメラを向けられた僕は、完全にテンパってた。女子とツーショット撮るなんて初めてだし藤宮がこれまでで一番近いしなんかいい匂いするし、女子とツーショット撮るなんて初めてだし(テンパってる)
「二人ともピース、うん。じゃあ撮るよー」
よし、この緊張を紛らわせるためにチーズを全力で言おう。藤宮とのツーショットまで間抜けな顔で映る訳にはいかないんだ。
「はい、チー…」
「はい、かんらく!」
「ええええええ?!」
自信満々な藤宮の笑顔と驚いて横をみる僕の間抜けな顔のツーショットが撮れた。
カメラのモニターに映る写真を繰る。
私の持ち物に中谷くんが加わった。
これでいつでも、中谷くんのことを思い出せることが出来るだろう。
私はもう一度二人の写真を眺めると、カメラの電源を切って、そっと鞄にしまった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
気付けば、ぼくトコ、一年書いたんですね。
一年間で13話って…
もうちょっと書くスピード上げたいなと思います。




