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12コ目 「からさ!」なトコ(後編)

 前編から続かれます。

 藤宮のことは元々知ってはいた。そもそも同じクラスで、頭がすごく良いということが、ともだ…クラスメイトとの会話の中で度々(たびたび)出てきた。けれどいつ見ても彼女は、教室の隅で机に突っ伏していて顔を上げない。

 だから顔を見たのはこれが初めてだった。

 「んん、なに?」

 ふわぁと欠伸(あくび)をして右手の甲で右目をこする藤宮。

 そんなほぼ初対面の彼女は、思わずはっとしてしまうほど整った顔立ちで、まさに「美少女」という言葉が合う生徒だった。

 (しばら)く彼女を見つめていたが、倒れたままだったことに気付いて慌てて起き上がる。

 「な、なんでこんなところで」

 姿勢を正してから思わず口を出たのは素朴(そぼく)な疑問だった。

 「ん、なんか今日、クラスの中がザワザワしてて、それだけならまだいいんだけど、なんかこの前来た転校生?が、やれ男だ、やれ女だ、みたいな話だったから、ちょっと腹が立って。」

 急に自分の話が出てきたことに戸惑って、俺は何も言えないまま固まる。

 「だから眠れなくてここで寝てた。」

 つまりこの人は、クラスがうるさいからではなく、俺の話題が、俺が実は女だという(うわさ)が気に食わなくてここに居たのだ。でも、なんで―

 「なんで、そんな、」

 そんなことに腹が立つの。

 最後まで言いきらなかったけれど伝わったようで、藤宮は少し(いら)()った様子で言った。

 「だってそうじゃん。なんで、男か女かで騒ぐ必要があるの。男でも女でも、今まで接してきた『その人』が変わらないんだったら、性別なんて些細(ささい)なものだよ。」

 ガツンと、俺の細胞の全て、その一つ一つに伝わったと思うほど強い衝撃が体を(つらぬ)いた。

 「皆、同じ人間ってだけでいいじゃん。性別なんて関係なく、その人はその人なんだから。」

 皆、同じ人間ってだけ。その人はその人。

 その言葉だけで、俺の中にあったモノというモノが、全て吹き飛ばされたような気が、いわば俺の今までを気持ちよく否定されたような、

 そんな心地がした。隠す筈だった涙はどこかにいってしまった。

 「ああ、イライラしたら眠くなるんだよね。私はもう少し寝て行くから、君、先生に伝えといて。」

 どう伝えればいいんだよ。

 「ところで、君、名前は?」

 目を拭って俺は言う。

 「髙階桜。その―さっき君が言った、転校生。」

 「ああ、君が。…あれ、私、悪いこと言っちゃった?」

 「いや。(むし)ろ逆で。…ありがとう。」

 藤宮は不思議そうに首をかしげて「?どういたしまして」

 彼女にとってさっきの言葉は本音そのものなんだろう。俺がその転校生だと知らずに、素で、あんなことを言ってのける性格なのだろう。

 「よく分からないけど、そう。君は君なんだから、周りの言うことに気にせず、『なんとでも言ってくださーい!』って顔しとけば良いの。そうしていつか、『桜』として接してくれる人がいつかきっと現れる。」

 「…もし現れなかったら?」

 「大丈夫。その日まで私がそばにいるからさ、桜!」



 「結局毎回俺から会いに行ってるし、詞月、ろくに喋ることもなく寝てることが多いんだけどな。ま、あいつにとってそれが『いつも通り』で、あいつ自身が、俺を特別視せず、変な気をつかわず、俺を『桜』として接してくれてる人第一号なんだよな。」

 サンドイッチを再び口に運ぶ。

 「これが俺の、詞月が大切な理由(わけ)だ。」

 しゃべったら喉乾いたなー、ちょっと飲みもん買ってくるわ。と、桜は中庭に併設された自販機に向かった。

 長い独白から桜の辛さは酷く伝わってきた。けど、これだけで理解(わか)って良い辛さではないことだって分かる。きっと、この話に出てこなかった部分にも、耐え難い苦悩と苦痛があったのだろう。

 もし僕がその場にいたらどうだったろう。すこしだけ想像してみたが、きっと桜から見た僕も仮面を着けていただろうな。と

 改めて自分の愚かさを思う。

 「ただいまーなあ聞いてよ桃ジュース売り切れだってひどくね?」

 けど、

 努力するって決めたんだ。

 「あのさ、」

 ん?と僕を見つめる桜

 「僕も、この前藤宮にカードゲーム付き合わされたらハマっちゃって、たからだいぶ強くなってると思うんだ。だから、その、今度一緒にカードゲームやろう!」

 ふ、と少し笑って桜はさっきと同じ場所に腰を下ろす。

 「俺さ、実は恭介のこと嫌いだったんだ。」

 「えっ」

 「初めて会った時、俺が女だって言って、恭介の反応を見た時、『ああ、こいつもか。』ってなった。」

 やっぱり、傷つけてた。そりゃそうだ。分かってはいたけど実際聞くとやっぱり罪悪感がより一層重くのしかかってくる。

 「そうだよね。ほんとにごめ―」

 「けど」

 下を向いた僕の(ほほ)に冷たいものが当てられ、思わずひゃっと声をあげて横を見る。

 「嬉しかった。詞月の言った、『俺として接してくれる人』とはまた違ったけれど、『そうしようと努力してくれる人』もいるんだと知った。知って、嬉しかった。だから―」

 二缶あるりんごジュースの一つを僕に差し出して、桜は言った。

 「恭介も、俺の大事な友達だ。」

 昼休み終了を告げるチャイムが鳴り、じゃあ行くか、と桜が腰を上げる。僕も慌てて弁当箱をしまって立ち上がった。風が一吹き、僕たちを送り出すように走りぬけていった。

 「ところで詞月には勝てたのか?カードゲーム」

 「…まだゼロ勝。」

 「はっはっは。あいつめっぽう強いもんな。ちな俺もまだ勝ったことない。」

 「僕も成長してる筈なんだけどなぁ…」

 「じゃあ二人で特訓しようぜ。そしていつかあいつをギャフンと言わしめてやるんだ。」

 差し出された手をがっちり握って熱い握手を交わした。

 その流れで藤宮のことを考える。

 いつも寝てて何考えてるか分からない彼女が、怒りを覚える場面。それを知った。

 藤宮の色んな一面を知る度、僕の中の彼女のイメージはガラリと変わる。そして彼女との距離、その遠さも知る。僕なんかまだまだだと。

 知る度に落ち込むけど、それでも、隣の席の住人として、彼女と会話してて恥ずかしくないと思えるような人になろうと、とにかく意識して努力するしかないのだ。

 そのためには、藤宮のことをもっともっと知る必要がある。けどそんな必要なくても、知れば知るほど、自然と彼女のことをもっと知りたいと思うんだ。

 まあ次は取り敢えず、ぎゃふんと言う藤宮を見るため、カードゲームの腕をを鍛えようと決めた。

 最後まで読んでくださってありがとうございます。

 あそこに藤宮が居なかったら、桜はどうなっていたか…ね。

 まあバッドエンドは好きじゃないので。

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