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九、ジョンとお支度







「ジェイミー様。お誕生日おめでとうございます」


「おめでとうございます」


 いよいよ迎えた、ぼくの誕生日当日。


 まずは、朝起きてすぐに、使用人のみんながお祝いの言葉を笑顔と共にくれた。


「う!あーと!」


 ぼくもそれに笑顔で答え、両手を挙げる。


 そして、いつものように、未だ数本しかない、しかもちっこい歯を丁寧に磨いてもらい、顔を洗って・・というか、拭いてもらって、着替えて朝ごはん・・・なんだけど。


「あーうえ、ちーうえ、かぁにいに、くぅにいに、いぃにいに」


 朝食の席にはぼく以外誰も居なくて、ぼくはいつも家族が座っている席を指さしながら、いつもぼくのお世話をしてくれる侍従さん・・ジョンに聞いてみた。


「今日は、皆様お支度がありますので、別々なのです。お寂しいかもしれませんが、このジョンが傍におりますからね」


「う」


 お支度、というのが何やらよく分からなかったけど、忙しいのだろうということは分かったので、誕生日なのに家族におめでとうを言ってもらえない寂しさは感じつつ、仕方ないとも納得して、ぼくは朝ごはんを食べた。


 余談だが、ぼくは大分スプーンを上手に扱えるようになった。


 まあ、最初に比べれば、という文言が必須ではあるが。


「いい子で召し上がれましたね。流石です。さあ、ではジェイミー様も、準備をしましょう」


「う?」


 ごちそうさまをしたぼくの口元を拭いてくれて。


 そして、再び歯を磨いてくれたジョンが、ぼくをだっこしたまま部屋へと戻る。




 ん?


 今日は、遊び部屋に行かないのか?


 まあ、ぼくの部屋の一角にも絨毯が敷いてあるから、問題ないけど。


 ・・・準備、って何の?




「ジェイミー様。今日は、こちらのお衣装を着るのですよ」


 ぼくが部屋に戻ると、朝ごはんの前には無かった衣装や宝飾の類が用意されていて、幾人かの侍従さんが働いていた。




 あ!


 準備って、ぼくの誕生日会の!


 なんか『今から!?もう!?未だ朝だけど!?誕生日会って午後からだよね!?』って感じはするけど。


 兄様達と、お揃いの衣装か。


 楽しみだな。




 全員が美少年の兄様達が、夜会用の衣装を身に着けたらどれほど素敵か。


 ぼくは、楽しみなあまり両手両足を動かして、感情を表現してしまう。


「絶対、お似合いになりますよ。とても楽しみです・・・あ、そろそろいいようですね」


 調子にのって、ばたばたと動くぼくが落ちないよう、優しくだっこしてくれているジョンが、そう言って歩き出した方向に、ぼくは首を傾げた。




 え?


 なんで、朝から風呂に向かってんの?




「今日はジェイミー様のお誕生日会、パーティですからね。念入りに洗いましょう」




 ええええ。


 そのために風呂入んの?


 朝から?


 夕べも入ったのに?


 ・・・いやでも。


 記憶でも、姉ちゃんが夏祭りに行く前、三時ごろ風呂入って、それから髪結って、浴衣着て、って大騒ぎしてたな。




「はい、ジェイミー様、ばんざいしてくださいねー、はい、ばんざーい」


「じゃーい」


 ジョンの声に合わせて両手をあげれば、ジョンがするりと下着を脱がせてくれて、ぼくはすっぽんぽんになる。




 ああ、最初の頃は、これも恥ずかしかったよなあ。




 今は慣れたもの、と、ぼくは、記憶が戻り始めた頃のことを懐かしく思い出した。


 しかし、それは最早過去のこと。


 いい香りのシャンプーで髪を丁寧に洗ってもらうのは、すっごく気持ちがいいし、ジョンは体も手早く丁寧に洗ってくれるから、すっきり感が半端ない。


 しかもちゃんと、さらっとしたクリームも塗ってくれるから、しっとりすべすべ。


 赤ん坊だから、もちもちだし。


 みんなが、ぼくに触りたがるのも無理はないって思うし、何よりぼくが快適だ。




「じょ・・あーと」


 だから、そんなジョンには、しっかりと感謝を伝える。


「ジェイミー様のお世話が出来て、ジョンはとても幸せです」


 髪と体を洗い終わったら、湯冷めしないようにしっかり体を拭いてもらって、髪を乾かしてもらうんだけど、実は、ここで魔法を使う。 


 ぼくの記憶にも、似たようなものがあるけど、ここでは別に媒介する物は必要ない。


 ただジョンが手を翳して、ぼくの髪を乾かしていくのは、いつ見ても面白く、ぼくはじいっと、前にある大きな鏡を見つめるのが日課だった。


「大きくなったら、ジェイミー様も扱えるようになりますよ。でも、そうなってもジョンにお世話させてくださいね」


 


 いやいや、自分で出来るようになったら流石に・・・って。


 もしかして、貴族だったら、やってもらって当たり前なのか?


 今度、誰かに聞いてみないとだな。




 貴族の常識というものを、欠片も知らないぼくは、そんなことを思いつつ、器用に動くジョンの手を見つめていた。










「はい、ジェイミー様。完成しましたよ。本当に、よくお似合いです。とおおっても、可愛いですよ!世界一です!」


「うぅ」


 時折テンションがおかしくなるジョンが、小躍りしながらぼくの周りを回っている。


 いつもなら、それに合わせてぼくも動きまわるのだけど、今はもう、そんな気力はどこにどこにもない。




 疲れた。


 着替えただけなのに、すっごく疲れた。




 いや、風呂にも入ったし、髪も乾かして整えたし、衣装だって、いつも着ているものよりずっと豪華で、複雑な作りだけど!


 でも凄いのは、これだけ凝った作りなのにもかかわらず、動くのに支障が無く、釦が当たって痛いとかの障りが無いことだと思い、ぼくは腕を動かし、足を動かししてみる。


「気に入りましたか?さあ、鏡を見てみましょうね」


「うぉ!」




 おお、これがぼくか! 


 なかなか、似合っているじゃないか!


 ぼくでこれなら、兄様達は、さぞかし素晴らしいだろうな。




「じょ・・かぁにいに、くぅにいに、いぃにいに!」


「ふふふ。ジェイミー様は、本当にお兄様方がお好きですよね。もちろんお兄様方も、お早くジェイミー様のそのお姿を見たいと思っていらっしゃるでしょうが、もう少し待ってくださいね。パーティが始まる前には、お会いできますから」


「う」


 そっか、兄様達もお支度か、と、ぼくは素直に頷き、きれいに整えてもらった髪を、ちょんちょんと引っ張ってみる。


「ジェイミー様なら、長く伸ばしてもお似合いになると思いますよ。その時は、このジョンがきれいに編みこんで差し上げますね」


 きらっきらと輝く瞳で言うジョンは、見えないしっぽをふりふりしているみたいで可愛い。




 長髪か。


 確かに、母様は似合っているよな。




 どちらかというと母様に似ているぼくもいけるかもしれない、ぼくは、鏡に映る自分を見て思った。



いいね、ブクマ、ありがとうございます。

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