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八十七、拗ね野郎ジェイミー、置いて行かれる







「はあ。どうちよ」


 カルヴィンとカシムと市に出掛けた翌日。


 朝食を摂った後、ぼくはひとり、遊ぼうと広げたかるたを前にため息を吐いた。


 何故なら、あの拗ねてみせた時から、カルヴィンだけでなく、カシムとも国交断絶状態にしてしまったから。




 はあ。


 あの時は、なんか悔しいっていうか、もどかしくて仕方なかったけど。


 もう少し、冷静に、大人の対応しろよな、ぼく。




「はあ。ほんちょ、どうちよ」


 本当にどうしようと、ぐるぐる考えるぼくは、これまでの経緯を振り返って、またため息を吐いた。


『ジェイ!俺が、ジェイを捨てるなんてことは、絶対にない。そういう意味じゃない』


『そうだよ、ジェイミー。今のは、クロフォード公爵子息がジェイミーを捨てるのではなく、将来的にジェイミーがクロフォード公爵子息を切り捨てるために必要な措置なんだよ』


『じぇいみぃ、しょんなこと、ちない!ヴぃ、じぇいみぃ、ちんじて、にゃい!」


 ふたりに言われて、ぼくは、かっとなってカルヴィンの背を思い切り叩いてしまった。


 そしてそこから、ふたりに何を言われても海の沈黙・・というよりは、拗ねまくった態度を貫き、それは王城に戻り、お風呂に一緒に入った時もその後も、夕食の時もその後も続き。


『おやすみ、ジェイミー』


『お休み、ジェイ。可愛い顔を見せて?』


『ふんっ』


 挙句、ぼくの顔を覗き込もうとしたカルヴィンを避けるため、ばふんと思い切り布団に顔を埋めた。


 それで、暫くはその体勢でいた筈なんだけど、布団が気持ち良すぎて、ぼくはいつのまにか寝てしまっていた。


『おはよう、ジェイミー。よく眠れた?』


『ジェイ。おはよう』


 それなのに、朝になって目が覚めた時には、いつも通りカルヴィンとカシムの間に寝ていたから、ふたりがちゃんと寝かせてくれたんだと思う。


 拗ね野郎に寛大な対処、頭が下がる。


 それなのに、朝食の席では再び拗ね野郎と化したのだから、ぼくってば、どうしようもない。


 でも、ぼくは、ぼくなりに反省して、会議への移動中とか、ちょっとした隙間に謝るつもりでいたのだ。


『しゅねて、ぎょめん。ちゃと、わあってる』


 その一言を自然と口にすべく、ぼくは、脳内で色々シミュレーションしていたのに、なんと今日の午前中、ぼくには出番が無かった。


 いつもだったら、午前中にはカルヴィンやカシムと一緒に会議の席に着いていたり、報告を聞いたりしていたのに。


『ジェイ。今日、ジェイは一日自由にしていていいからね』


『ジェイミー。いい子で、お留守番よろしく頼むよ』


 なんて言いながら、ふたりは拗ね野郎のぼくに、ちょっと寂し気な笑みを見せて出かけて行った。


『・・・・・いって、らっちゃい』


 扉が閉まる寸前になって漸く小さな声を出し、小さく手を振ったぼくのことを、ふたりはたぶん見ていない。


「はあ。おちごと、にゃい」


 会議も報告も何もないと、こんなに落ち着かないのかと、ぼくは、あたかも仕事であるかのように、魔法陣かるたと言葉のかるたをきれいに整えてみたりした。




 まあ。


 会議は、本当に席に着いているだけだし、報告だって、聞いていただけだけどな。


 それが、ぼくの役目だっていうから、カルヴィンやカシムの付属品のように付いていたんだけど。




「ヴぃ。かちむ」


 もしかして、拗ね野郎のぼくなんて不要になったのかと、なんだかとても寂しくなって、ぼくは、カルヴィンが作ってくれた言葉のかるたを抱き締めた。






「ジェイミー様。そろそろ、ご昼食にいたしましょう」


 笑顔の侍従さんに言われて、ぼくは、一心に描いていた絵から顔をあげた。


「もう、しょんな、じきゃん」


「はい。熱心に、お絵かきされていましたね。クロフォード公爵子息も、サモフィラス国第二王子殿下も、お喜びになられることでしょう」


 結構な時間、絵を描いていたのだなと、描き上げた絵を見つめるぼくの傍に寄り、侍従さんが言ってくれた言葉に、ぼくは飛び付く。


「ほんちょ、しょう、おもう?」


「はい。ジェイミー様は、絵もお上手ですね」


「あいがと」


 大して上手ではないけれど、まんざらお世辞だけでもなさそうな侍従さんの様子に自信を持ったぼくは、その絵をお土産に、カルヴィンやカシムとの昼食の席に臨むことにした。




 これをきっかけに、昨日は言い過ぎた、拗ねまくってごめんと言う。


 これが、ぼくのミッション!




「では、ジェイミー様。直ぐにご用意しますので、お待ち下さいね」


「あ!じぇいみぃ。ヴぃ、かちむ、まちゅ」




 ここは王城だけど、カルヴィンが作った魔道具で検査できるから、毒見役が不要なんだよな。


 つまり、料理が出来てから配膳されるまでが早い。




 そんな事情もあり、ふたりが戻ってから用意してもらった方が、料理も冷めなくていいと言えば、侍従さんが信じられない言葉を口にした。


「本日、クロフォード公爵子息とサモフィラス国第二王子殿下は、マグレイン王国へ行っていらっしゃいますので、ご一緒は出来ないのです。ジェイミー様」


「・・・・・」




 え。


 カルヴィンもカシムもいない?


 しかも、行き先はマグレイン王国?


 それって、一日や二日で行って帰って来られる距離じゃないよな?


 それなのに、ぼくを置いて行った?


 ふたりとも、ぼくには何も言わずに。




「大丈夫でございますよ、ジェイミー様。私共が、きちんとお世話させていただきますので」


 よほど、不安そうな顔をしていたのだろう。


 侍従さんは、ぼくの視線に合わせてしっかりと目を見つめ、優しく言ってくれたけど、心が不安で真っ黒に塗りつぶされたぼくは、まともに返事をすることが出来なかった。




ありがとうございます。

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