八十五、そは、鶏もどきの羽ばたきと、鳴き声と共に。
「っ!・・そうだね、ジェイ。一緒に食べたら、もっとおいしくなりそうだ」
「ヴぃ、いあ?」
ハート型の飴は、結構な大きさ・・ぼくの手のひらより大きいから、両側から食べても問題無いと思ったんだけど、カルヴィンは一瞬固まってしまったから、こんな風に食べるのは、いいって言ってくれていても、本当は嫌なのかなと思って聞いた。
「嫌じゃないよ。ただ、ジェイミーの飴なのに、俺がもらっていいのかなって思っただけ」
「いっちょ!おいちい!」
「そうだね。じゃあ、いくよ」
「う!」
ぼくがハート型の飴に噛り付き、その反対側からカルヴィンも噛り付く。
「ぱいん!」
そうして互いに力を入れれば、ハート形の飴は見事に割れて、互いの口に咥えた状態で離れるはずと思い、ぼくは、景気よくそう言った。
「あー。じぇいみぃ、まけ」
しかし悲しいかな。
ぼくが割り取った方は各段に小さくて、ぼくは負けてしまったと口元に残った小さな欠片を口に入れた。
「あっ。おいちい!」
だけど、その飴は凄く美味しくて、ぼくは両手を口に当てて、ぱたぱた足を動かしてしまう。
「うん。美味しいね」
そして、大きな欠片の方を咥えたカルヴィンは、その欠片を器用に割って、侍従さんが差し出す紙に包んだ。
あ、あれ知ってる。
ジョンも使ってた。
初めて見た時、懐紙みたいだって思ったんだよな。
ジョン、元気かな。
父様や母様、兄様達も。
「ああ。ジェイミーとクロフォード公爵子息のハートは、見事に砕けたね」
「そして、私とジェイミーの体に取り込みましたね」
ぼくが、家族やジョン、家の使用人さん達のことを思い出していると、カシムとカルヴィンが、何やら視線を交わして言い合っていた。
何か、ニヒルっていうか。
ふたりとも、格好いいんだよな。
「ヴぃ。かちむ。きゃこいい」
「ジェイミー。それは、私たちふたりともが、格好いいということ?」
「う!」
ぼくに視線を合わせて問うてくるカシムに、そんなの当たり前だと、ぼくは、元気に返事をした。
「ジェイミーも、きっと格好よくなる。俺は、ジェイミーに相応しい婚約者だって言われるように、努力するからね」
真顔で言うカルヴィンに、ぼくは、心底呆れてしまった。
「しょれ、じぇいみぃ」
カルヴィンに相応しくあるように努力すべきなのはぼくだと、ぼくは、大きく息を吐く。
「ジェイミー。ジェイミーは、未だ小さいのだから、相手がクロフォード公爵子息だって決めつけなくてもいいのではないか?」
「ほえ?」
「前にも言ったけれど。ジェイミーの伴侶候補に、私も入れて欲しい」
「・・・・・」
カシムに真顔で言われて、ぼくは、口のなかの飴を動かすことも忘れてカシムを見た。
「今は、クロフォード公爵子息がリードしているし、ジェイミーの気持ちもそちらに向いているのだろうとは感じている。それでも。可能性として、残しておいてくれないか?」
街中の市場。
鶏のような鳥が、激しく羽ばたき鳴き騒ぐその場所で、月の化身の如き美しさのカシムが、みっそかす一直線のぼくに、そう言った。
ありがとうございます。