八十三、三人寄れば、寒風が吹く。
「あっ。あえ、なあに?あめ?」
街の市に着いてすぐ、小さめの箱にきれいに並んで入っている、色とりどりのお菓子らしきものを見つけたぼくは、興味津々で指さしながら、カルヴィンとカシムに聞いた。
因みにぼくは今、父親風に変装した護衛さんに抱っこされている状態で、安定感抜群な上、視界がとても高くてご機嫌である。
あれ、飴細工っぽいよな。
果物の形とか、野菜の形とかしてるし。
「あれは、マージパンだよ。ジェイ」
「みゃじぴゃん?」
え!?
あれ、マジパンなの?
じゃあ、柔らかいのか?
「うん、そう。とても可愛いよね。もっと近くで見てみる?」
「う!」
カルヴィンの問いに元気に答えたぼくに、カシムがそっと顔を寄せた。
「ふふ。ジェイミーに似合いそうなものを、私が選んであげようか?」
「はわゎ」
人込みで、声が届かないのを懸念したのか、背伸びまでしたカシムに息がかかりそうな距離で言われて、ぼくは珍妙な声をあげてしまう。
だって!
今日のカシムは色っぽいんだからね!
妖艶だって、自覚を持とうね!
「かちむ、きえい、らから」
「ん?ありがとう」
綺麗だから、どきどきするから距離を空けて欲しいのに、カシムはお礼なんて言って、そのまま離れようとしない。
まあ。
背伸びをやめたら、耳元に口が、なんてことはなくなったんだけど、落ち着かないことに変わりはない。
「あにょね。かちむ、きえい、らからね。じぇいみぃ、どっきどき」
「私が綺麗だから、どきどきしてくれるの?・・・いいね。私に翻弄されるジェイミー。癖になってしまいそうだ」
「・・・・・」
あながち冗談でもないような顔で言われて、ぼくは遠い目になった。
いや。
だからね、カシム。
もう少し、距離を取ってほしいな、なんて、ぼくは思うわけで。
「そうやってずっと、私のことを考えていればいいのに」
「・・・・・」
それなのに、カシムは何が楽しいのか、そう言ってぼくを揶揄い続けるから、ぼくは、大変に困ってしまう。
あのさ、カシム。
ぼくだからいいけど、他の誰かだったら本気にされちゃうからね?
カシム、すっごく綺麗なんだから。
ほんとに、すっごく綺麗で・・・・・。
いかん。
このままでは、ぼくも本当に惑わされてしまいそうだ。
「ジェイ。どの形がいい?野菜に果物。あっちには、動物の形をしているものもあるね。俺の抱っこで一緒に見る?」
カシムが離れてくれないならと、自分が反対側へ体を寄せたぼくに、カルヴィンがそんな誘いを掛けて来た。
「う!ヴぃ、らっこちて!いっちょ、みゆ!」
マージパン細工が並んでいる台は、そんなに高い位置にないから、護衛さんの抱っこだと高すぎると、ぼくは、カルヴィンに抱っこを所望した。
「ジェイミーは、どんなのが好き?」
そんなカルヴィンとぼくの隣にカシムも並んで、三人一緒にマージパン細工を見る。
楽しくて、どれも可愛くて目移りしてしまうと、気の向くままに気になるものを見ていたぼくは、そのなかに、紫色と碧色の花を象ったものを見つけた。
「ヴぃ!あえ、ヴぃ、じぇいみぃ、いりょ!」
「え?あ、本当だ。ジェイミーと俺の色だね」
「へへへ」
意味も無く嬉しくて、自然と口元が緩むぼくの額に、カルヴィンが、こつんと自分の額を当てる。
「あれは、買おうね」
「う!」
元気に頷き、ぎゅっとカルヴィンの服を掴んでから、慌てて放す。
いかん、いかん。
また、しわくちゃにしてしまうところだった。
「気にしなくていいのに」
「らめ」
懸命に、寄ってしまった布を伸ばすぼくをカルヴィンは笑うけど、そんな妥協は絶対に駄目だ。
だって、カルヴィンは、こんなにぴしっと格好いいんだから。
「ジェイミー。私のイメージは、どれだろう?」
「んと。かちむ。かちむ・・かちむ・・あ!こえ!」
カシムに強請るように言われ、考えたぼくは、カシムにぴったりな物を見つけた。
「月?」
「う!かちむ、ちゅき、かみしゃま!」
今のカシムは、月の神、月の化身のようだと、ぼくは、三日月から少しずつ形を変えていく月の細工を指さす。
そして、指さしてしまってから、まるでカシムを指さしたような気持ちになって、手を開いてパーの形にした。
「それなら、ジェイミーはこれだね」
「おひしゃま?」
ぼくが太陽なのかと首を捻るぼくに、カシムは、それはもう、見惚れて時間が止まるような笑みを浮かべる。
「そう。ジェイミーは、私の太陽だ」
「ヴぃ?」
カシムのその言葉を聞いた途端、カルヴィンが、ぼくを抱っこする力が強くなった。
ありがとうございます。