八十二、カルヴィンの特異魔法。
「わあ。かちむ、きゃみしゃまみたい。きえい!」
いつもの黒髪黒瞳から、銀色の髪と瞳に変化したカシムを見て、ぼくは思わず口をぽかんと開けて拍手した。
ほんと、女神様みたいにきれいだ。
普段は中性的って感じもしないのに、色が変わるだけで、こんなにも違うものなんだな。
「ジェイミーも、凄く可愛いよ」
「あいがと」
答えつつ、ぼくは思わず遠い目になってしまう。
だって、カシムはそう言ってくれるけど。
うん。
ぼくは、ちゃんと現実を知っている。
「ミルクティ色の髪と瞳のジェイ。本当に可愛い。食べてしまいたくらいだ」
「じぇいみぃ、おいちい、ない!」
カルヴィンに、本気か冗談か分からないような瞳で言われて、ぼくは思わず両手で大きくばってんを作った。
「いやいや。ジェイは絶対に美味しいと断言できる」
「それは、私もそう思う」
「ええええ」
いつも、何となく意見が合わないようなカルヴィンとカシムが、こんな時だけ意気投合して頷き合っている。
やめてくれと、ぼくは、ふたりから離れてソファによじ登った。
「じゃあ、最後は俺な」
そういうとカルヴィンは、ぼくとカシムにかけてくれたように、自身に魔法をかけて変化した。
「おおおおお。ヴぃ、きゃこいい。しゅっごく」
一瞬で、黒い髪、黒い瞳に変化したカルヴィンは、途轍もなく格好良く、ぼくは思わずソファの上に立ちあがる。
「そうか?格好いいか?」
「う!りりちい!しゅごく!」
いつもの金髪で紫の瞳の時も、カルヴィンは貴公子然としていて格好いいのだけれど、何というか。
黒い髪と瞳に変わると、そこにちょっとだけ野性味が加わるようで、また違う魅力があった。
「では、クラプトン伯爵子息。自分と、街へ出かけてくださいますか?」
「う!よろきょんで!」
黒い髪、黒い瞳のカルヴィンは、騎士のようだと思っていると、カルヴィンが、そんなぼくの心を読んだように、ソファの上に立つぼくに、恭しい態度で手を伸べてくれたから、一も二も無くカルヴィンに抱き付く。
「ジェイミー。私とも手を繋いでくれる?」
「う!もちりょん!」
カルヴィンに抱っこされ、今日は王子仕様ではないカシムと手を繋いで、ぼくは、揚々と部屋を出た。
国王が誘ってくれた街遊びだけれど、国王は多忙のため側近のひとたちからの許可が下りず、国王が主張していた『会議やら何やらで、息が詰まる。息抜きは必須』という言葉は、カルヴィンとカシムに適用された。
『確かに、おふたりには息抜きが必要ですね』とは、アギヨンさんはじめ、国王の側近さんたちの言葉で、未だ成人していないからというのが、大きな理由。
でも『確かにそれも大きな理由ですが、それなら陛下には絶対にあてはまりませんから』と、アギヨンさんが悪戯っぽく言っていたのを、ぼくは知っている。
そして、カルヴィンの特異魔法が、変化だったのも大きかったんじゃないかなと、ぼくは思う。
ずっとお城に居るからよく分からないけど、ぼく達は、小麦の不正を暴いてしまったわけで、逆恨みとはいえ、あちら側からは、恨まれているんだろうなって自覚はある。
だから、この姿のまま出かけるのは流石に危険だけど、カルヴィンが変化の特異魔法の所持者だったうえ、魔力量も豊富で、ぼく達三人に掛けることが可能だったから、許可されたんだろうなと思う。
そう。
特異魔法。
ぼくは知らなかったんだけど、この世の中、稀に特異魔法を持って生まれて来る事があるらしい。
カルヴィンはそのひとりだと聞かされて、何気なくふうんと頷いたぼくは、特異魔法保持者は、一つの国に三人いるかいないかだと聞いて、仰け反って驚いてしまった。
因みに、カシムや国王、今ぼくの周りに居るひとで、特異魔法を持っているひとは、他に居ないと言っていた。
そりゃ、そんな希少な人材が、局所的に集中していたら話題になるよね。
そうなれば、流石のぼくでも、分かったはず・・・はず。
ま、まあ。
そんなわけで、ぼくとカルヴィン、カシムは、それぞれ姿を変えて、街へと向かった。
ありがとうございます。