八十、ジェイミー。アルマジロからの凍結。
「ふわあ」
『気持ちよく寝た』と、お昼寝から目覚めたぼくは、広いベッドの上で大きく伸びをする。
ヘリセの王城で与えられた部屋はとても広く、このベッドもその部屋に相応しくとんでもなく広い。
ちっさいぼくが、懸命にころころ転がろうとも、容易に端へは辿り着かない。
「ぎょろ、ぎょろ、ぎょろ」
楽しく転がりつつ、言っていて思う。
自分の口が発した言葉なんだけど、それってなんだ。
ぎょろぎょろぎょろ?
なんかぼくが呟くと、目玉を動かしているかのようだが、ぼくは今、ベッドの上をごろごろ転がっているのである。
決して、目玉をぐりぐり動かしているのではない。
『ジェイは、転がるのも上手だな』
『ジェイミーは、吾の運命なだけあって、運動神経もいい』
そうして遊んでいると、何故か同室となっているカルヴィンとカシムの言葉を思い出し、ぼくは、ご機嫌で転がり続けた。
今、部屋のなかには誰もいない。
いつもなら、侍従さんがひそりと控えているのに珍しいなと思いながら、ぼくは、ころころ転がるのを堪能する。
「ヴぃ、かちむ。ろこきゃな」
ぼくが呑気にお昼寝している間も、あのふたりは働いているのだろうなと、転がりながら思っていると、扉が開く音がした。
「ヴぃ!?かちむ!?しょれとも、じじょしゃん?じじゅうしゃん?」
誰だろう。
ノックが無いから、侍従さんではないと思うけど、未だぼくが寝ていると思って、ノックをしなかった可能性もあるよな。
侍従さんも好きだけど、カルヴィンとカシムが帰って来たならもっと嬉しいと、すぐさま跳ね起きたぼくは、その相手を確認して咄嗟に正座した。
「おうしゃま!」
「ジェイミー」
珍しくひとりで来た国王を、ぼくはベッドに正座したまま見上げる。
「じぇいみぃ、ごよう、ありゅ?」
いつもなら、アギヨンさんか、他の側近のひとが傍にいるし、護衛や侍従もいたりするのに、完全にひとりというのは珍しいから、ぼくに何かよほど急ぎの用事でもあるのかと思い問えば、国王がにやりと笑った。
「ジェイミー。オレと街へ遊びに行こう」
「ふぇ?あしょび」
「ああ、そうだ。ここの所、会議だなんだと引っ張りまわされて、ジェイミーも疲れているだろう?だから、息抜きだ」
良い案だろうと言いながら、国王がぼくを抱き上げようとして、その体勢・・正座に気付いて目を丸くする。
「あ。こり、は」
これは、正座という座り方で、国王に失礼の無いようにしましたと説明するわけにもいかず、ぼくは、目をきょろきょろ動かしてしまった。
さっきのぎょろぎょろぎょろは、これの伏線だったか?
「ジェイミーは、座り方まで可愛いな。ちんまりしている」
余りに動揺してしまったため、おかしな方向へ考えていたぼくは、ちんまりという言葉に大きく反応する。
「じぇいみぃ、ちんまり・・かなちい」
その時ぼくは、自分でもちっさいと思っているけど、それは身体的っていうより主に年齢で考えていたんだなってことに気付いた。
だって、結構な衝撃を受けている。
こうやって、正座のまま前に倒れてしまうくらいには。
いや、だって。
そりゃ、ドアの取っ手に手が届かないとか、色々あるけど。
ちんまりって言われると、なんか、すっごく小さくなった気がする。
こう、丸まったアルマジロみたいな感じ。
「はは。そうしていると、ますますちんまいな。可愛い」
「あわわっ」
ちんまいとか楽しそうに笑って言いながら、国王は、ぼくを抱き上げた。
「さあ、ジェイミー。楽しい息抜き。お出かけの時間だ」
いえいえ、国王陛下。
ぼくは、今さっきまで、お昼寝していましたよ。
息抜きなら、カルヴィンとカシムにさせてあげてください。
「陛下。どこへお出かけでしょうか?」
「私共を呼び寄せておいて、私の婚約者であるジェイミーを攫おうとするなど。我がクロフォード家と一戦、交えるおつもりですか?」
「ジェイミーは、吾の運命と分かっていての所業とあらば、こちらにも考えがあります」
アルマジロみたいに丸まったまま、国王に抱っこされたぼくは、扉の所に立つカルヴィンとカシム、そしてアギヨンさんを見つけた。
「ヴぃ!かちむ!あぎょんしゃん!」
嬉しくて、思わずぴょんぴょんしながら呼んでから、気付く。
ひょえ!
三人とも、目が!
目が、絶対零度なんだけど!
その目に気付いた瞬間、ぼくは、凍結した。
ありがとうございます。