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七十九、王様のお友達







「・・・きゃこいい、騎士しゃんが、いっぱい」


 王城の一画にあるバルコニーに立っている、国王とカシム、そしてカルヴィンとアギヨンさんに抱っこされたぼく。


 そのバルコニーからは、ただの更地のような広い場所が見下ろせて、そこには今、ぼくたちを仰ぎ見る形で大勢の騎士がぴしりと立っている。


 その一糸乱れぬ立ち姿は壮観で、ぼくは、格好いいと、無意識に呟いていた。


「彼らが、その言葉を聞いたらとても喜びます。皆、ジェイミー様を賞賛し、感謝していますから」


「かんちゃ」


「そうです。小麦の不正の証拠を掴むのは、騎士団の悲願でしたから」


「れも。ぐうじぇん、なんらけろ」


 確かにぼくが、隠し扉や隠し部屋の第一発見者ってことになるのかもしれないけど、あれは偶然の産物に他ならない。


 何となれば、ぼくは、お手洗いに行っただけだし、偶然見つけられるような下手を踏んだ、相手の落ち度あればこそだと、強く思う。


「ジェイミー様の勇気と、お智恵ある行動のおかげです」


 アギヨンさんがそう言った時、手を挙げて騎士たちに応えていた国王が手を下ろし、ひとつ大きく息を吸った。


 これから演説が始まるらしい。


「勇猛なる騎士諸君」


 そして国王の、朗々たる声が辺りに響き渡る。




 おお、いい声。


 いい男は、声までいいのか。




 ぼくは、そんな、この場ではどうでもいいようなことを思いつつ、ぼくを抱っこしながらも、きちんとした姿勢を保ち、感じ入ったように国王の言葉を聞いているアギヨンさんを見た。


 アギヨンさんが言う勇気と智恵というのは、ぼくが、咄嗟に隠れたりしながら、彼らが持ち出している物が小麦の袋であることや、青い鹿のこと、そして隠し部屋を確認したことなのだそうだけど。




 ぼくは、本当に見つけただけで、裏付けを取ったり、配下に指示を出したりして、実際に動いたのは、カシムなんだけどな。




「・・・・・この功績を称え、マグレイン王国ジェイミー・クラプトン伯爵子息には、勲章と爵位、そして王城の薔薇園の一画を進呈する予定ではあるが、他国貴族である身分を考慮し、その件は一旦、保留とする」




 保留。


 保留っていうのは建前で、実際には消滅したってことだよな。 


 はあ。


 ほんとに、良かった。


 カルヴィン、カシム、感謝。








『ジェイミー。オレからの爵位も勲章も要らないなど、不敬だと思わないか?』


『ふぇっ!』


 あの日、あの謁見の間で。


 暫く、つんつんと楽しそうにぼくの頬をつついていた国王は、何を思ったか、今度はぼくの髪をいじりながらそう言った。 


 これまで、不敬ではと幾度も思う場面があったけれど、まさか、そこを言われると思っていなかったぼくは、抱っこしてくれているカルヴィンに、ぎゅっと抱き付いてしまう。




 不敬


 とうとう・・・・・!




『陛下。ジェイミーは、本気で怯えております』


『ああ、ジェイミー。吾が付いているから、大丈夫だ。泣かなくていい。ヘリセの国王陛下は、ご冗談がお好きなようなだけだから』


 不敬罪ということは、鞭で叩かれるのか、まさか即極刑なのかと、ぷるぷる震えるぼくを庇うように、カルヴィンとカシムが国王に告げた。




 え?


 この話の流れ。


 不敬ゆえに罰をとかいう、流れじゃ、ない?


 そういえば、不敬で極刑とかいう場面なら、こんな風にぼくの髪をいじったりしないか。




『なんだ、ふたりとも。オレがジェイミーを泣かせ、怯えさせているかのような物言いじゃないか』


 国王としては、未だ若いんだろうなって思うヘリセの国王だけど、カルヴィンやカシムよりはずっと年上。


 それなのに、ふてくされたように言うその姿は、とても幼く見えた。


 その姿に、ぼくは、とても安心する。


『はああ。ころしゃれりゅ、かちょ、おもた』


『ころしゃ・・!ジェイミーは、オレが不敬罪でジェイミーを殺すと思ったのか?』


『ひゃい。しょうれしゅ。ちを、もうしゅちゅけりゅ、とか、いわれりゅかちょ』


 


 だって、ありそうじゃないか。


 『不敬である。死を申し付ける』って。


 そしたら、この場で護衛騎士に切られちゃって、首がごろごろ・・・。


 やめよ。


 縁起でもない。




『そのようなこと、絶対に言わないから安心してくれ。というか、オレの方が肝が冷えた』


『ジェイミーは、そのくらいの覚悟でいるということです。マグレイン王国に、今の王家が君臨している間は、勲章や爵位をジェイミーに授けるのをお待ちください』


 カルヴィンの言葉に、国王は不快そうにため息を吐く。


『はあ。それはつまり、ジェイミーの言う通り、オレから勝手に褒美を受け取れば、ジェイミーの身が危ういということだな』


『陛下。一度、お決めになったことを覆すのは難しいでしょうが、ジェイミーの安全のため、今回はお見送りいただくよう、吾からもお願い申し上げます』


 さっき、ヘリセの国王が不敬と言った時には、ふざけた様子さえあったカルヴィンとカシムの真剣な瞳に、ぼくは、ぼくがマグレイン王国の王家から疎まれているのだと感じた。




 ヘリセの国王陛下から、褒美を勝手にもらえば、ぼくを処刑する絶好の口実を得られる。


 なんかな。


 他国で勝手に勲章やら爵位やら貰うのはよくないと思うけど、あの王家ってなんか。


 カルヴィンの婚約者ってことで、ぼくのこと、積極的に消したがっていそうだもんな。


 自分の国の王家に嫌われている、ぼくって一体。




「・・・しかしながら、ジェイミー・クラプトン伯爵子息が、サモフィラス王国第二王子殿下、マグレイン王国クロフォード公爵子息と共に、わが国にもたらしてくれた功績を無碍には出来ない。よって、私の友として暫し滞在してもらうこととした」




 え!?


 なにそれ、聞いてない。




 ぼくは、揚々として語る国王を、信じられない瞳で見つめた。





ありがとうございます。

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