七十七、妃の条件
「しょ、しょれ。らめな、やちゅ」
ぼくに、王城にある薔薇園の一画、そして勲章と爵位を与えると言った国王の、嫌味なくらいに整った顔を間近に見つつ、ぼくは、ぶんぶんと首を横に振った。
それ、絶対に駄目だろう!
ぼくの戸籍・・が、この世界にあるかどうかは知らないけど、所属するのはマグレイン王国なんだから、ヘリセの国王から勝手に勲章やら爵位やら貰っていいわけがない。
「駄目?どうしてだ?ジェイミー」
「らって。おうしゃま、いってかりゃ、りゃ、にゃいと」
『どうしてだ?』じゃないよ、国王陛下!
ぼくの所属長であるマグレイン王国国王陛下の許可をもらってからじゃないと、勝手なことをしたとか言って、殺されちゃうかもしれないじゃないか。
「王様は、オレだから大丈夫だ」
「んと、おうしゃま、りゃにゃい、おうしゃま・・うんと、えっと」
『王様じゃない王様ってなんだよ!』って、ぼく自身思うけど、マグレイン王国国王陛下とか、ヘリセ王国国王陛下という言葉を、きちんと不敬なく言う自信が無いんだから、しょうがない。
「王様じゃない、王様・・つまり、オレじゃない王様ということか?」
「しょう!おうしゃま、しゅごい!」
そうです、そうです。
ご理解いただいて、感謝。
「ジェイミーは、どうしてそう思う?」
「らって。かって、ちたら、じぇいみぃ、こりょしゃれりゅ」
ぼくは、知っている。
上に黙って、そんなものを貰った日には、裏切者扱いされるということを。
それでもって、必死に弁明しても聞いてもらえない。
そう。
腰越状案件になるんだ。
「マグレインの国王の許可なく、オレから勲章や爵位を授かれば殺される、か。ジェイミーは、本当に賢いな。だが、大丈夫だ。問題無い」
「ふぇ!?」
ぼくの言いたいことを分かってくれたと、安堵したのも束の間。
国王は、またも意味不明なことを言い出した。
「おお。その、きょとんとした顔も可愛いな。オレの子になるか?」
「にゃっ!?」
「国王陛下。ご冗談も、ほどほどになさってください。ジェイミーが、驚いています」
思わず、猫みたいな声を出したぼくを慮って、カルヴィンが援護射撃してくれる。
「では、冗談ではないからいいな。オレの子として、クロフォード公爵家に嫁げばいい。いや、近くクロフォード王家になるのだから、ジェイミーの立場を考えても、その方がよくないか?」
「あ・・・れも」
国王が言うのが、家格のことについてだと気づいたぼくだけれど、家族と離れるのは嫌だ。
「ジェイミー。心配しなくて大丈夫だ。何があっても、俺の婚約者はジェイミーだから」
「ヴぃ」
カルヴィンは、優しい目でそう言ってくれるけど、クロフォード公爵が国王となれば、カルヴィンは王子。
ぼくの家は伯爵家だから、まったく家格が合わないってことはないだろうけど、後ろ盾としては弱いかもしれない。
「ジェイミー。吾は、第二王子だ」
「ん?かちむ?にゃに?」
カルヴィンが次代の王となるためにも、家格とか後ろ盾は大事だよなと考えるぼくに、カシムが唐突にそう言った。
その発言に、ぼくは首を傾げてしまう。
だって、カシムが第二王子だってことは、ここに居る全員が知っている。
もちろん、ぼくも。
なのに、わざわざ何をと思っていると、カシムがにこりと笑って爆弾を落とした。
「吾は第二王子ゆえに、王位を継ぐことは無い。つまり、血を繋がなくとも問題ないということだ」
「う?」
ええと?
なんだ?
それって、カシムは第二王子だから、王位も継がないし、子どもも要らないってこと?
それがなに・・・あ!
「じぇいみぃ、ちーど?ちらない」
そこでぼくは、この世界で子を孕むのはフィールドだということを思い出した。
ありがとうございます。