表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/92

七十六、冬薔薇







「ヘリセ王国国王陛下に、マグレイン王国クロフォード公爵家が一子、カルヴィンがご挨拶申し上げます。そしてこちらは、私の婚約者である、クラプトン伯爵家のジェイミーです」


「じぇいみぃ、れしゅ。おうしゃまに、ごあいしゃちゅ、もうちあげましゅ」




 ん?


 あれ?


 王様じゃなくて、国王陛下って言わなくちゃいけなかったんじゃないか?




「どうちよ。まちがった」


「大丈夫だよ、ジェイ」


 あわあわと手で口を押えたい気持ちを堪え、小さく呟くに何とかとどめたぼくに、カルヴィンが優しく囁く。


 威風堂々とした造りの、ヘリセの王城。


 その謁見の間にて、僕は今カルヴィンやカシムと共にヘリセの国王陛下に挨拶をした。


 ヘリセの国王は、想像よりずっと若く、鋭利な瞳を持つひとで、こちらの思惑など見透かされているような畏怖を覚える。


 小麦の不正の件で呼び出されたと分かっていても、緊張するものはするし、怖いものは怖い。


 ぼくは、カルヴィンにしがみ付きたい気持ちが込み上げるのを感じるも、もちろんそんなことの出来る筈もなく。




 早く終わってくれますように。




 そればかりを、心のなかで繰り返していた。


「よく来たな、ジェイミー。そなたには、(まこと)、感謝している」


「ふぇっ」


 てっきり、挨拶だけ終われば、ぼくの存在など忘れ去られるのだと思っていたのに、突然名を呼ばれて、ぼくは思わず変な声を出してしまった。




 まずい。


 国王陛下の呼びかけに対して、許される反応じゃないよな、絶対。




「はは。オレが怖いか?そうだな。そなたは小動物のようだから、さしずめオレは、そなたを狙う肉食動物のようにでも見えるのかもしれないな」


 国王に対し、不敬をはたらいてしまったと、だらだら嫌な汗が流れるぼくだけれど、国王は、ぼくを不敬に問うことなく、豪快に笑ってそう言うと、(おもむろ)に玉座から立ち上がった。


 そして、ゆったりと大股に歩いて、ぼくの前まで来ると、なんとしゃがんだ。


「お、おうしゃま!」


「おう。なんだ?」


「ちゃ・・しゃが、しゃがみゅの、らめ、れす」


 焦って、あたふたするぼくは、隣のカルヴィンを見、少し前の位置に立っているカシムを見、して窮状を訴えるも、ふたりとも、何故か優しく、やわらかな瞳で見守ってくれるばかり。


「そうか。しゃがむのは駄目か。なら、こうしよう」


「わっ」


 何とか立ち上がってもらおうと、ひとり奮闘していたぼくは、ひょいと国王に抱き上げられ、視線が合った。


「ほら。これでよかろう?」




 よくないです!


 心臓が、口から出そうです!




「あ・・あわわ」


「ははっ。カルヴィン。ジェイミーは、本当に可愛いな」


「はい。可愛いだけでなく、知力も胆力もある、自慢の婚約者です」


 


 カルヴィン!


 こんな場所で、婚約者馬鹿なんて発揮するんじゃない!


 


「ヴぃ」


「心配しなくても大丈夫だよ、ジェイミー。陛下には、以前からジェイミーのことを、色々自慢しているから」




 はあ!?


 何だよ、それ。


 カルヴィンてば、俺の知らないところで一体なにを・・・って。


 違う、カルヴィン。


 今は、そうじゃなくて。


 国王陛下に、早くぼくを下ろすように言ってくれ。




「ジェイミー。オレの抱っこは、嫌か?」


「んん!いや、ない」


 カルヴィンに、目で必死に訴えていると、国王が少し悲しそうにそう言うものだから、ぼくは、嫌ではないと、懸命に首を横に振る。


「そうか。それは良かった!」


 すると国王は、本当に嬉しそうに微笑んで、ぼくを抱っこしたまま窓辺へ向かった。


「わあ・・きえい」


 窓から見えた庭は、国王に抱っこされているという畏れ多い事実を、忘れさせてくれるほどに美しく、ぼくは思わず簡単の声をあげる。




 あれ?


 でも、冬にも薔薇って咲くんだな。




「ジェイミーは、あの冬薔薇が気に入ったか?」


「う!」


 ここのところ、陽気がいいから忘れていたけど、今って冬だよなと、ぼくが思っていると、国王がそう聞いて来たから、迷わず大きく手を挙げて返事をした。


 カルヴィンの時と違い、国王は体が大きいから、蹴っ飛ばしたり殴ったりすることは無かったけど、許される態度では到底無い。




 うう。


 いけない。


 また不敬な真似を。


 しかし、こうも思考が単純なのは、未だちっこいからだよな?


 ・・・・・そう思いたい。




「そうか。よかった。なら、あの一画をジェミーに与えよう。そして、此度の功績により勲章と爵位を授ける」


「ふぇ!?」


 己の単純思考に思いを馳せていたぼくは、思わぬ国王の言葉に、思い切り体をのけぞらせた。



ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ