七十四、仲間はずれ反対!
「サモフィラス国第二王子殿下。この水鉄砲は、一方向だけに水を飛ばすのではなく、細かな穴から複数放水することによって、より広い範囲に攻撃することが可能です」
「なるほど。しかしそれでは、水圧が弱くなるのではないのか?」
「いえ。水圧を高くする魔法陣も組み込んでありますので、威力はむしろ増しています」
「ほう、それは凄いな・・・なるほど、こうか?・・おや、防がれてしまったか」
「はい。こちらの水鉄砲には、防御機能も付随させてありますので」
ぼくから少しだけ離れた場所で、カルヴィンとカシムが水鉄砲の機能について話をしている。
「たのちしょう」
カシムとカルヴィンが同じチームになったので、相談するのは当然なのだが、だがしかし。
ぼくも、あんな風に味方同士で水鉄砲の威力を確認してみたかったと、既に打ち合いをしているふたりを見た。
「では、私たちも、やってみますか?」
「う!あぎょんしゃん、おねぎゃい、ちまち!」
にこにことアギヨンさんに提案されたぼくは、カルヴィンに渡された小さめの水鉄砲を手に、嬉しく飛び跳ねる。
「では、こちらに水を入れて・・あ、この魔法陣は、随分遠くまで飛ばせる機能のようですよ」
「おおおお!」
ちっこくとも性能は凄いのだなと、ぼくははしゃいで打ってみた。
「ばーん!」
「おお。真っすぐ、遠くまで飛ばせましたね。凄いです、ジェイミー様」
「へへへぇ。しょれほどれもぉ」
誉められて得意になり、ぼくは、幾度か続けて打つ。
「お、ジェイ。凄いじゃないか。いっぱしの、射撃者みたいだぞ?」
「魔道士部隊で、活躍できそうだね」
そうすると、カルヴィンとカシムも、目を細めて誉めてくれて、ぼくは益々嬉しくなった。
「たいしぇん、ちよ!」
そして、水の尽きた水鉄砲に再び水を入れてもらったぼくは、手にした水鉄砲を構えて、カルヴィンとカシムに向き合う。
「そうだね。はじめようか。では、吾から・・・はあっ」
「不意打ちとは、卑怯ではないですか。サモフィラス第二王子殿下」
「いや。クロフォード公爵子息の回避能力は如何ほどかと、思ってな」
「さきほども、お見せしたと思いましたが?」
『では、吾から』なんてカシムが言うから、こちらに開始の合図もなく先制攻撃をしかける気かと身構えたのに、なぜかカシムはカルヴィンに攻撃をしかけ、カルヴィンがそれを防いでいる。
いや、もう水鉄砲を越えた凄い機能が付いているんだなってのは、見てよく分かるけど。
『ジェイが、前に何か言っていたから作ってみた』で、水鉄砲を作ってくれただけじゃなくて、いろんな魔法陣を付与してくれたのは凄いけどさ。
「じぇいみぃ、と、あしょんで!ふたりゅばっか、じゅるい!」
対戦相手のぼくを放置して、ふたりで打ち合いするってどうなのさと、ぼくは、思い切り叫んで、足をばたばたさせてみた。
いわゆる、地団太というやつだ。
幼児の特権だろう。
ここは、遠慮なく行使する。
「ああ。おふたりには、聞こえていないようですね。ジェイミー様。私と遊びましょうか?」
苦笑して、困ったように眉を下げて言うアギヨンさんに、ぼくはぺとりと張り付く。
「なんれ、らろ?いちゅも、あしょんで、くりぇる、にょに」
水鉄砲で思い切り遊びたいと言った時だって、ふたりは頷いてくれたし、実際に、こうして時間も取ってくれた。
それなのにと、ぼくはため息を吐いてしまう。
「おふたりには、譲れない戦いがあるのでしょう。さ、ジェイミー様。いきますよ?」
カルヴィンとカシム。
ふたりの何かを理解しているのか、アギヨンさんが、そう言ってぼくに水鉄砲を向けた。
「あぎょんしゃん!じぇいみぃ、で、いいよ!しゃま、いらにゃい」
アギヨンさんは、ヘリセ王国の伯爵で、ぼくの家は、マグレイン王国の伯爵家。
ヘリセ王国とマグレイン王国は、同格の国だというから、それだけでもアギヨンさんが子どものぼくに様を付ける必要は無いのだけど、ぼくは今、客人扱いだからかなと思って、何も言わずにいた。
だけど、色々聞いているうち、アギヨンさんは、公爵家の出身だと知って、ぼくは考えを改めた。
次男だから、公爵家を継ぐことは無いからとはいえ、公爵家は公爵家。
そんな出自のひとが、ぼくに様を付ける謂れはない、と思う。
「それは出来ません、ジェイミー様。ジェイミー様は、クロフォード公爵子息のご婚約者でいらっしゃるのですから」
「あー」
だけど、すぐさまそう言ったアギヨンさんの言葉に、ぼくは色々な意味でそうかと納得した。
カルヴィンのクロフォード公爵家は、名実共に力をもっているうえ、ヘリセ国の王家と個人的に繋がりがあると言っていた。
その家の嫡子の婚約者ともなれば、そういう扱いになるんだろう。
それに、もうすぐ公爵家ではなくなる、みたいだし。
「わあった。れも、てきゃげん、なちで!」
ちょっと寂しい気はするけど、仕方ないかと頷き、それでも手加減はしないでほしいと、ぼくは、アギヨンさんに釘を刺した。