七十一、冷戦
「ヴぃ。おきゃお、しぇっきゃく、きゃこいい、にょに、らめ」
折角凛々しい顔立ちをしていて、とてつもなく格好いいのに、あんな奴らのためにその男前を崩す必要は無いと、懸命にカルヴィンの眉を指で持ち上げるぼくに、カルヴィンが嬉しそうに笑う。
「そうか。俺は、格好いいか」
「う。しょのおきゃお、いい」
カルヴィンは笑顔も素敵だと、ぼくは満足の笑みを浮かべた。
「おふたりは、本当に仲がいいのですね」
そんなぼく達を見て、アギヨンさんがにこにこと笑う。
「じぇいみぃ、ヴぃと、なかよち!あと、かちむ!」
「ふふ。そうだね。吾とジェイミーは、運命だものね」
ぼくの言葉に、疲れたのか、元気の無い顔になっていたカシムの目が、一気に輝く。
うん。
なんかよく分かんないけど、元気になったならよかった。
「それで?アギヨン伯爵。要は、ファロ伯爵の不正取引相手が、マグレイン王国の王室であったゆえ、容易に手が出せなかったということか?」
ちょっと元気の無かったカシムが、王子仕様を取り戻して、ついでに話を元に戻した。
元に・・・あれ?
もしかして、ぼくのせいで脱線した?
「大丈夫だよ、ジェイ。そんなに、気にしなくていい」
慌てて、お口チャックと両手を口に当てたら、途端カルヴィンに笑われた。
うっ。
考えが、ばればれだったか。
恥ずかしい。
「はい。相手は一国の王家ですので、揺るがぬ証拠が必要と、追い求めておりました」
「ファロ伯爵を問い詰めるとは、考えなかったのか?そうすれば、長く民を苦しめることもなかったであろうに」
「殿下は、良き施政者でいらっしゃいますね。民のことを、そんなにも思いやれる」
難しい顔で、追い詰めるように言ったカシムに、アギヨンさんは嬉しそうにそう答え、カシムは意外そうな顔になる。
「何が言いたい?」
「そのままでございます。為政者によって、国は変わりますから」
何かを含むように言って、アギヨンさんはカルヴィンを見た。
「ヴぃ」
「なんだ?ジェイ」
ふとぼくは、カルヴィンが遠くへ行ってしまうような気持ちになって、カルヴィンにぎゅうっとしがみ付く。
だって、さっき。
アギヨンさん、言ってたじゃないか。
クロフォード公爵こそが王位に相応しくて、やっと重い腰をあげてくれたって。
それって、つまり。
そしたら、カルヴィンは。
「ヴぃ」
「大丈夫だよ、ジェイ。俺が行くところに、ジェイも一緒に連れて行くから」
「やくしょく?」
「ああ。約束だ」
「じぇったい?」
「絶対に、連れて行く。何があっても」
力強く誓ってくれて、その偽りの無い目を見て、ぼくは漸くほっとして、ぽてっとカルヴィンの胸に頭を付けた。
ついでにカルヴィンの服をぎゅっと握って、容易には離れないようにする。
「ふふ。本当に、お可愛らしい。ジェイミー様、おねむですか?」
そんなぼくをそっと覗き込み、アギヨンさんが優しい声で問うて来た。
「んん。らいじょぶ。ヴぃと、はにゃれないように、ちてるらけ」
だから、眠いわけじゃなくて、カルヴィンと離れないための予防だと言えば、アギヨンさんの笑みが深くなる。
「それは、大切なことですね。では、ジェイミー様。カルヴィン様にだっこされたままで大丈夫ですので、ジェイミー様が見つけられた<からくり>の所へ、連れて行っていただけますか?」
「う!・・・あ、かちむも、いっちょに」
「もちろんだよ、ジェイミー。吾も一緒に行く。また、ふたりで行った時のように、行ってみようね」
「う?」
『また、ふたりで行った時のように』なんて、ぼくたちふたりを強調するように言ったカシムを、ぼくは疑問と共に見上げた。
まあ、確かに?
ふたりで確認しに行ったけど、そんなに強調することか?
・・・あ、もしかして。
証拠を見つけたのは、ぼくたちだっていう、意思表示かな。
でもカシムは、自分の手柄を自慢げに言いふらすようなタイプじゃないんだけど・・・って。
え!?
なにごと!?
「か、かちむ!?」
完全にはカルヴィンと離れないよう、くっついていられるように、頭の角度だけ変えて、見上げたカシム。
そのカシムが、何故か挑むようにカルヴィンを見据えていて、ぼくは思わずぴょんと飛び上がった。
あ、ごめんカルヴィン。
また蹴っ飛ばした。
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