六十七、火ぶた
「ジェイミー!ジェイ!すまない。俺が、コリンを信用していたばかりに。ああ、ジェイ。本当に、無事でよかった」
「・・・・・ヴぃ」
ぼくの姿を見るなり部屋に飛び込んで来て、そう言ってぼくを抱き上げたのは、カルヴィンだった。
「ああ。ヴィだよ、ジェイ。怖い思いをさせて、本当にごめん。謝って済む話じゃないけど・・本当に、ごめんね」
幾度も謝りながら、ぼくの頬に自分の頬を擦り寄せるカルヴィン。
カルヴィンがここに居るなんて、余りの意外さに、一瞬、まぼろしかと思ったけど、違う。
本当に、本物の、カルヴィン・・・・・!
「ヴぃ・・!じぇいみぃ、いっちょ、いく、いった!こりんしゃんと、いや、らった!にゃのに、ヴぃ、じぇいみぃ、おいて、しょれで・・・うわあああああん!」
カルヴィンの存在を意識した途端、ぼくは、これまでの辛かったこと、怖かったことが一気に込み上げて、カルヴィンの胸をばんばん叩いてしまう。
「うん。うん。怖かったよな。本当に、ごめんな、ジェイミー」
「うわあああん!・・ヴぃの、びゃかああああ!」
カルヴィンの馬鹿と言いながら、ぼくは、カルヴィンの腕の強さや温かさにほっとして、涙が次々に溢れて来る。
ああ。
ヴぃだ。
ぼく、本当に帰れるんだ。
「ジェイ。うん。俺が、馬鹿だったね。もう離れないから。絶対だから」
「ヴぃぃいいいいいい」
ひっく、えっぐと泣きながら、ぼくは、ぐりぐりとカルヴィンの肩に額を擦りつけた。
そんなぼくの背を、カルヴィンは、ずっと優しく撫で、ぽんぽんと軽く叩いてくれる。
「ヴぃ・・ヴぃ・・・」
「ジェイ。ジェイミー」
ぼくがカルヴィンを呼べば、カルヴィンもぼくを呼び返してくれるのが嬉しくて、ぼくは幾度もそれを繰り返した。
「・・・ジェイミー。もしかして、そちらが。クロフォード公爵子息か?」
さんざんカルヴィンの肩に額を擦りつけ、カルヴィンが着ている服をしっかり握り締めてカルヴィンにしがみ付いていたぼくは、カシムの声に、ふと我に返る。
・・・そうだ。
カシムに、カルヴィンを紹介しないと、カルヴィンがカシムに挨拶出来ない。
「・・・う。かちむ。こえ、ヴぃ」
だから、何とか涙を呑み込んで言ったぼくの言葉に、カルヴィンがカシムに向かって頭を下げた。
これで、カシムがカルヴィンに声をかけて、カルヴィンがカシムに挨拶をして、漸く会話が出来るようになる・・・って。
結構、身分て面倒だよな。
まあそれが、この世界の秩序なんだけど。
「・・・・・」
「・・・・・」
「かちむ?」
カシムはサモフィラスの王族だから、カルヴィンから声を掛けることは許されない。
なので、カルヴィンは、じっと頭を下げたままカシムの声掛けを待っているのだけれど、カシムは、そんなカルヴィンを見つめるばかりで声を掛けようとしない。
「・・・ジェイミーは。その者には、あのように感情を爆発させるのだな」
「ふぇ?」
「てっきり、いつものように。吾に言ってくれるように『わるない』と言うのだと、思っていた」
「あ」
カルヴィンに『ヴぃ、わるない』と言うどころか、思いっきり馬鹿と言い、責め立ててしまったぼくは、今更のようにはっとして、頭を下げたままのカルヴィンの横顔を見た。
「ヴぃ。じぇいみぃ、ヴぃ、きあい、ちあう!」
「・・・嫌われているなんて、思っていないから大丈夫だよ。ジェイ」
「う。にゃら、あんちん」
頭を下げたまま囁くように言ったカルヴィンに、ぼくはほっと息を吐いて、その安堵のまま、カシムに笑いかけた。
「じぇいみぃ、ヴぃ、なかよち。らいじょぶ」
カルヴィンとぼくは仲良しだから大丈夫、心配要らないと自信満々に言えば、何故かカシムの王子然とした笑みが揺らぐ。
「かちむ?」
「・・・大丈夫だよ、ジェイミー・・・。クロフォード公爵子息。吾は、サモフィラスの第二王子カシムだ」
「サモフィラス王国、第二王子殿下に拝謁賜り光栄に存じます。マグレイン王国クロフォード公爵家が一子、カルヴィンにございます」
「クロフォード公爵子息。面をあげよ」
ああ、よかった。
これで、ちゃんと会話できる。
威厳あるカシムの言葉で、漸くカルヴィンは顔をあげ、ぼくもほっと一安心と思った・・・・んだけど。
え?
何があった!?
ふたりとも!
それ以上、言葉を交わすことなく、じっと互いを値踏みするように睨み合うふたりに驚いたぼくは、カルヴィンにだっこされたまま、カシムとカルヴィンを交互に見つめてしまった。
え、ちょ・・・!
一体、何が始まるんだ?
いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。
あけまして、おめでとうございます。
本年も、よろしくお願いいたします。