六十四、番外編 お菓子の家
「ジェイミー。聖夜祭のお菓子、楽しみ?」
いよいよ、聖夜祭が近づいて来たある日。
食事の席で、母様がぼくにそう聞いた。
「う!たのちみ!おかちの、いえ、いい!」
「え?お菓子の家?なあに?それ」
聖夜祭と言えばお菓子の家だろうと、何故か確信を持ち、張り切って答えたぼくは、戸惑う母様を見て不思議に思い、父様や兄様達を見て、ぼくの方が不思議発言をしたのだと気づく。
「んと、えと、びしゅけっと、とか、ちょこれーと、くっきい、おうち」
指折り数えて、ぼくはお菓子の家に使うお菓子をあげていった。
お菓子の家といえば、ビスケットとか、クッキー、チョコなんかが浮かぶんだけど。
もしかして、無いのか?
お菓子の家。
「・・・・・ああ!もしかして、ビスケットやクッキーで壁を作って、屋根もお菓子で・・ってことかな?ジェイミー」
「う!かぁにいに、しゅごい!」
この世界に、お菓子の家というものは無いらしいのに、よく分かってくれたと、ぼくはカール兄様を、にこにこと見た。
「そうか。分かったぞ、ジェイ。それで、扉はチョコレートで作るんだな?」
「それで、やねがクッキー!」
「しょう!くぅにいにも、いぃにいにも、しゅごい!」
兄様達、本当に凄いと、ぼくは、目を輝かせてしまう。
だって、この調子なら実現しそうじゃないか、お菓子の家。
それも、飛び切り素晴らしくて、おいしいのが。
「よし、ジェイミー。それなら、お屋根に雪を降らせるのはどうだろう?」
「まあ、いいわね。アイシングで接着すれば、ビスケットやクッキーも繋げられるし、そのままアイシングを絞って、雪に見立てることも出来ると思うわ」
「うわあ・・おいちしょう」
想像すると、じゅる、ってよだれが出そうになる話だな。
お菓子の家を作るのも楽しいけど、その前段階。
ビスケットやクッキーの焼ける匂いも、最高なんだよな。
ああ、早く食べたい。
「しかし、お菓子の家か。ジェイミーは、天才だな」
「みんなで、作りましょうね」
「あい!」
「楽しみだな」
「俺、特大のビスケットがいい」
「おれ、ちょこれーとすき」
父様も母様もにこにこ、兄様達もにこにこ、もちろんぼくも、にこにこ。
みんなでにこにこして、どんなお菓子の家を作るかたくさん話をした。
その翌日には、みんなで設計図も描いて、どこの部分をクッキーにして、どこの部分をビスケットにするか、なんてことも話し合い、型紙も作った。
そして、お菓子の家作成当日。
「まあ、どうしましょう。このビスケット、予定より大き過ぎたわ。あ、でもこちらは大丈夫みたい。同じ型紙なのに、面白いわ。ふふ。多めに作っておいて良かった」
「こっちもだ。厚さの問題か、ビスケットが反っているのもあるが、多めにあるから問題ない・・・ん。味はいい」
「あー。ちーうえ、ちゅまみぐい」
「なんだ?ジェイミーも食べるか?反ってしまったビスケット、未だあるぞ?」
反ってしまって壁には出来ないからと、自分の口に入れてしまった父様を見て、ぼくは迷わず指をさした。
現行犯だと訴え、言い逃れは許さじと胸を張るぼくに、何と父様は、ビスケットを差し出して来るではないか。
むむ。
父様ってば、目撃者のぼくを、共犯にしようっていう魂胆だな。
「んん。いらにゃい。じぇいみぃ、できてから、たべりゅ」
「ジェイ!いい子だな!」
「父上。ジェイミーを見倣ってください」
「ジェイ。えらい」
共犯にはならないと、きっぱりと断ったぼくを、兄様達が絶賛してくれる。
そんな兄様達も、三人それぞれが、型紙ごとにビスケットやクッキーを、手際よく仕分けしていて、とても初めて作るとは思えない。
「ジェイミー。ここに、アイシングを塗ろうか」
「ほらイアン。こっちにそれ、付けるぞ」
「ああああブラッド!ここを抑えておいてくれ!」
「アレックス。大丈夫だから、落ち着いて」
協力し合い、騒ぎながら笑いさざめき、楽しくお菓子の家を作るぼくたちを、料理人さん達があたたかく見守ってくれている。
あ。
使用人さん達のお菓子の家も、作ればよかった。
だって、流石にぼくたちと一緒に食べるのは無理だから、使用人さんたちのための、お菓子の家。
でも、使用人さんたちは人数が多いから、これじゃあビスケットやクッキーの数が足りない。
うーん。
どうするか。
「どうしたの?ジェイミー」
ぼくが、じっとビスケットを見つめて考えていると、一緒に壁を作っていたカール兄様が、心配したように顔を覗き込んで来た。
「みんなのびゅん、ない」
「みんな?」
「えと、じょんとか」
料理人さんとか、使用人さんとかって言うのが難しくて、代表でジョンの名前を出したぼくに、カール兄様はすぐさま頷いてくれる。
「使用人のみんな、ってこと?」
「う」
「じゃあ、この型紙を貸してあげる?」
「うう!かぁにいに、あいがと!」
そうか、そうすればいいのかと、ぼくは嬉しくなってカール兄様に抱き付いた。
「ふふ。ジェイミーは、可愛いな」
「いい考えね。素敵な贈り物になるわ」
カール兄様に頭を撫でられながら、母様の言葉を聞き、もしや余計なお世話ではと不安にもなって、料理人さん達を見たぼくは、そんな心配が杞憂だったと知る。
だってみんな、目がきらきらに輝いていたから。
うん、分かるよ。
だって、魅力的だよね。
お菓子の家。
「・・・・・ジェイミー。俺も、一緒に作りたかった」
そして、聖夜祭当日。
完成したお菓子の家を見て、その作成をぼくたち家族でしたと知ったカルヴィンが、ちょっと落ち込んでしまったけど、ぼくからの贈り物・・木の実細工を見たら、すぐさま完全復活していた。
何でも、魔法で劣化しないようにするんだとか。
それを聞いて、カルヴィンだけでなく、全員がその魔法をかけることになって、聖夜祭は、すっごく賑やかに過ごした。
カルヴィンと、クロフォード公爵夫妻もお泊まりして、本当に楽しかったな。
いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。
メリークリスマス!
いつも、ありがとうございます。