六十三、番外編 聖夜の贈り物
「ジェイミー様?何をなさっているのですか?」
その日。
自分の宝箱を開けて、うんうん唸っているぼくを見て、ジョンが不思議そうに尋ねて来た。
「ぷれじぇんと、ようい、しゅる」
だからぼくは絨毯に座り込んだまま、隣にしゃがみ込んだジョンにそう答えたんだけど、ジョンには今一つ、ぴんと来なかったらしい。
間を置かずにきちんと答えたにも関わらず、ジョンの不思議そうな表情は、少しも解消されなかった。
いや。
それどころか、むしろ益々混迷させてしまったようである。
残念。
まあ、未だちょっと早いからな。
しょうがないか。
「ええと。プレゼント、でございますか?」
きっと、家族や友人たちの誕生日を思い出しているんだろうな、って顔をそているジョンに、ぼくは、焦らすことなく正解を口にした。
「う。しぇいやしゃい、の」
あと、ふた月くらい経つと、聖夜祭が来る。
ぼくは、そのためのプレゼントを作るべく、宝箱を開いたのである。
「ああ!聖夜祭のプレゼントでございますか!・・・ですが、ジェイミー様。その宝箱の中身は、全部ジェイミー様の、とっておきの宝物なのではありませんか?とても大事にされていましたよね?」
「らから、いい。じぇいみぃ、だいじ、あげゆ」
ジョンの言う通り、この宝箱に収めてあるのは、秋になって一生懸命集めた、お気に入りの木の実たち。
でもだからこそ、ぼくはこれをみんなに贈りたいんだ。
虫が付かないよう、ちゃんと処理もしてもらってあるから、腕輪とか、ペンダントにしたらいいと思う。
考えるだけで、わくわくする。
「ジェイミー様の宝物をいただけるなんて、皆様が羨ましいです。きっと、喜ばれますよ」
「らと、いいな」
ぼくにとっては宝物だけど、所詮は木の実だしなと、ぼくは宝箱の中身を見た。
でも、ぼくには、全部きらきら輝いて見えるし、みんなも『こんなもの』とか言って、邪険にはしないと思う。
「それで?どのように、なさるのですか?おひとり分ずつ、箱に入れますか?」
「う。れも、しょのまえに、ぺんだんと、しゅる」
おいおい、ジョン。
それって、木の実をただ箱に入れるだけってことだろ?
そんなわけないって。
箱に入れるのは、ペンダントにしてからだよ。
「え・・・・・。もしかして、木の実でペンダントを作ると、仰っていますか?」
「うう!」
だけど、両手をあげて、揚々と答えたぼくに対し、ジョンは何とも言えない顔をして黙り込んだ。
もう。
何を固まっているんだよ、ジョン。
木の実でペンダントを作る。
定番だろ?
そりゃ、高価な贈り物じゃないけどさ。
ぼく、未だ幼児だから。
「・・・・・ジェイミー様。因みに、どうやって、お作りになるおつもりですか?」
そして漸く解凍されたらしいジョンは、ぼくにそんな質問をして来た。
「いと、と、ひゃり、で」
もう、ジョンってば。
針を木の実に刺して、糸を通すに決まっているじゃないか。
針に糸を付けておけば、すぐ完成。
あ!
それだと、ペンダントじゃなくて、ネックレスも出来そう。
「ジェイミー様。針を持つのは、未だ危険です。許可できません」
わくわくして木の実を選んでいると、ジョンが、いきなりきりっとなって言い切った。
「・・・・・」
そのジョンの言葉に、今度はぼくが固まってしまう。
え。
駄目なの?
針、危険なの?
「ジェイミー様。木の実は、結構な固さがあります。そんな木の実に、ジェイミー様が針を刺すなんて無理です。ジェイミー様が、お怪我をする未来しか見えません」
「うー」
「唸っても駄目です。奥様や旦那様、坊ちゃま方も、皆様そう仰います」
「らめ!みんな、ないちょ」
何を言っているんだ、ジョン!
みんなには、内緒で作るに決まっているだろう!
「では、針を使わないで、何か作りましょうね」
「うう」
にこにこ笑うジョンに、ぼくは渋々頷いた。
内緒で針を使って、挙句怪我をすれば、ジョンが怒られてしまうし、みんなに心配をかけることになるからな。
残念だけど、仕方ない。
「では。よい子のジェイミー様。接着剤を使うのは、いかがでしょうか?」
「う?」
楽しい計画が完全破綻し、しょんぼりと項垂れるぼくに、ジョンが笑顔でそう提案してくれた。
接着剤か。
それならぼくでも、ペンダント、作れるかな?
「・・・こえは、あーうえ。んで、こっち、ちーうえ、れ」
それからぼくは、一生懸命、木の実の工作に励んだ。
それでもペンダントは難しくて、断念。
結局作ったのは、太目の木の枝を、丸く薄く切ったものに、木の実を貼り付けた壁飾りのようなもの。
「とてもお上手です、ジェイミー様。皆様、お喜びになられますよ」
言いながら、ジョンがちらちらとぼくの手元を見ている。
ジョンって、有能な侍従だと思うんだけど、ぼくと居る時は、結構感情が駄々洩れしているんだよな。
そういうところも、いいと思うけど。
「こえは、ヴぃ」
目で欲しいと訴えているジョンが可愛くて、ぼくは、わざとジョンの分を避けて並べていく。
聖夜祭は、クロフォード公爵家も、全員一緒に食事をすることになっているから、カルヴィン達には、そこで渡せるのが嬉しい。
ただ、カシムたちとは、聖夜祭当日に一緒に食事をするのは無理ということになったのが、残念なところ。
まあ、カシムん所は、王家だからな。
国も違うし。
それでも、聖夜祭当日には会えないけど、その後会う約束をしているから、そこで渡せると、ぼくは、カシムやハリム、それからサモフィラスの王様と王妃様の分も並べた。
「たくしゃん」
「そうですね。ジェイミー様、頑張りましたね」
結構、壮観な数の木の実細工を見つめて、ぼくは幸せな気持ちになる。
こんなにたくさん、プレゼントを渡したい相手がいるって、すっごく幸せだよな。
聖夜の前には、街も賑やかになるし、聖夜当日には美味しいものもたくさん食べられるから、そういうことも凄く楽しみなんだけど。
「みんなの、えがお。いい。たのちみ」
大切な家族や友人たちと過ごせること、彼らの笑顔が見られること。
それが本当に幸せだと、ぼくは、内緒で作ったそれらを見つめた。
みんなが、喜んでくれますように。
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メリークリスマス!
今日も明日も、楽しい日でありますように♪