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五十五、闘志







「あー。おしょと、いきちゃい」


「え?ジェイミー。お外、雨が降っているよ?」


 窓に張り付いて外を見ていたぼくに、カシムは驚いたように言うけど、それがいいんじゃないかと、ぼくはカシムを振り返った。


「ぴっち、ちゃっぷ、しゅりゅ!」


「ぴっち、ちゃっぷ、って。もしかして、水たまりに入ったりして遊びたいって言っている?」


「う!」


 


 正解!


 御名答!


 ということで、しゅっぱーつ!




「いきゅ!」


「駄目だよ、ジェイミー。風邪をひいてしまったら、出発が延びてしまうよ?」


「あ」


 風邪をひいたら、出発が延びてしまう。


 その一言に、揚々と歩き出していたぼくは、ぴたりと立ち止まった。


「今日は、お部屋で遊ぼう?ね?」


「うう」




 ううううう。


 水たまりに思い切り飛び込んで、ばっしゃーん!


 というのをやりたかったのだが、仕方ない。


 風邪なんてひいてしまったら、みんなに会うのが遅くなってしまうし、カシム達にも迷惑がかかる。


 そんなの、駄目に決まっているからな。




「ふふ。諦められて、いい子だね。そんないい子のジェイミーには、私から贈り物があるよ」


「う?」


 雨降りの外遊びがしたかったと、しょんぼりするぼくに、カシムはとって置きの笑顔で言ってくれた。


「贈り物。ジェイミーにあげようと思って、準備してあるんだ」


「おきゅりゅ・・おきゅりゅりゅ・・おきゅりゅ・・みょの!」


「そうだよ。贈り物。嬉しい?」


「うれちい!」


 『少しは遠慮しろよ』と、何処かで思わないでもないが、贈り物と言われれば、心が浮き立ち、嬉しくなるのは止められない。


 何をくれるのだろうと、ぼくは、そわそわとカシムを見上げた。


「じゃあ、用意しようか」


「よおい」


「そうだよ。少し待ってね」


「う」


「ジェイミーは、いい子だね」


 分かったと頷くぼくの頭を優しく撫でて、カシムはぼくをだっこしてソファに座る。




 え?


 なんで座るんだ?


 贈り物の準備は?


 ・・・・・って、ああそうか。


 そういうことは、侍従さんのお仕事か。




「かちむ。おきゅりゅみょにょ・・にゃに?」


「さあ?なんだろうね?」


 待つと言ったのに、やっぱり贈り物が気になるぼくが問えば、カシムは面白くはぐらかそうとするかのように、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「にゃんだろ」


 ぼくが、用意が必要な贈り物って何だろうと思っていると、少しして、侍従さん達が何かを運び込んで来る。


 充分な食休みも取った今の時間。


 どうやらカシムは、初めからこの遊びをしようと決めてくれていたらしい。


 流石カシム。


 気遣いの男。


「これが、私からジェイミーへの贈り物。何だか分かる?」


「んん」


 小さめの持ち運べる敷物に、何か丸いものが付いている、としか分からず、ぼくは取り敢えずそれに触ってみた。


「こうちて、おちて、あしょびゅ?」


 丸い部分に触れると、むにっという感触がして、少しへこむのが面白い。


「ふふ。その通り。本当にジェイミーは賢いね。それで、押すときに魔力を流してごらん」


「えっと、おしゅとき、まりょきゅ・・・あっ!」


 カシムに言われた通り、丸い部分に触れるとき手に魔力を込めれば、そこが赤く光った。


「おおおおおお!」


 大感激したぼくは、おおはしゃぎで靴を脱ぎ棄て敷物に上がると、あちらの丸、こちらの丸と触りまくって、色々な色を光らせる。


「たのちい!」


 触れれば、触れた部分に色が付いて光るのが楽しくて、ぼくは敷物の上を這いまわって押しまくった。


「ふふ。上手だね。じゃあ、ジェイミー。今度は立って、足でやってごらん」


「う?」


 ぼくは今、靴下みたいなものを履いている。


 丸い部分を踏むことになるのなら、これも脱いだ方がいいのかと思って手をかけると、カシムがそっとそれを止めた。


「それは、脱がなくていいよ。冷えてしまうといけないから」


「う」


 動いているから寒くはないが、外は雨で、気温は余り高くない。


 子供だから、そこまで厚着もいけないが、石の建物なので冷えるけれど、未だ暖炉を使うほどではない。


 だから、服装で調節すると。


 そういったことまで、カシムはちゃんと説明してくれた。




 思うんだけどさ。


 うちの兄様達もカルヴィンもカシムも、これだけ優秀で、ぼくにも分かりやすく説明してくれるのに、鳥頭のぼくは、詳しいこととか、難しいことは幾度か聞いているはずなのに、吸収しきれない。


 魔力は多いけど、あんま才能無いって、なんかむなしくないか?


 でもまあ、家の中にある魔道具は問題無く使えた方がいいから、多い方がいいか。




「む?」


 なんて、結局は能天気な結論に達したぼくは、丸い部分が何の反応も示さないことに首を傾げる。




 何だ?


 ちゃんと、丸い部分に立って、魔力も流しているつもり、なのに光らないのは、なんでだ?




「んんん?」


 試しに手で触ってみると、あっという間に緑色の光を放った。


 とてもきれい。


「うー」


 でも、手を離して足だけで光らせようとしても、丸い部分はうんともすんとも言わない、いや、反応しない。


「もちもーち!」


 自棄になって、もしもしと言いながら踏んでも反応なし。


「にゃんでっ、にゃんでっ」


 謳うように足踏みしてみても、反応なし。


「うー」


 そうなれば、出るのは恨み節。


「ジェイミー。実はね。足から魔力を外に伝えるって、手から外に伝えるより難しいんだよ。だから、練習しようね」


「う?」


「手の時も、練習したよね?それと同じだよ。ううん、もっと時間がかかると思うけど」


「んん!」


 ぼくは、手から魔力を伝える時に練習をした覚えが無い。


 兄様達が、魔道具に触らせてくれて、それですぐに光や音は出せた。


 それに、兄様達も、そこには驚いていなかったと記憶している。


 だから、懸命にそう伝えようとしたんだけど、カシムにはどうやら違うように伝わってしまったらしい。


「ジェイミー。練習するの、嫌なの?」


「んん!ちあう!」




 違う、そうじゃないカシム。


 練習したくないんじゃなくて、手の時にやってないから分からないんだよ。




「何が、違うの?」


「んと、じぇいみぃ、て、れんちゅう、にゃい」


「練習ないって・・・え?本当?練習なしで、手ですぐに魔力を伝えることが出来たの?」


「う!」


 良かった、通じたと、ぼくが両手をあげて肯定すれば、カシムが驚いたようにぼくを見る。


「それは。驚かれただろう?」


「んん」


 その点については、誰も驚かなかったと伝え、ぼくはカシムの手を引いた。


「らから、かちむ。おちえて」


 手と同じようにやっているつもりなのに、足から魔力を伝えられない。


 それが悔しくてもどかしくて、ぼくは、教えてほしいとカシムの手を揺らす。


「う、うん。もちろんだけど。そうか。驚かれないって、凄いな。ジェイミーの家では、それが普通ってことになるよな?」




 待ってろよ、魔法陣!


 ぼくの足で、がんがんに光らせてやるからな!




 呆然と呟くカシムの横で、ぼくは、敷物の魔法陣に対して闘志を燃やしていた。



いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。

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