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五十三、相棒、らしい。







「ジェイミー。カシム殿下を笑顔にしてくれて、ありがとうな」


「ふぇ?」


 つんつんとつつき合う攻防の最中(さなか)、突然クレマンが真面目な顔でそう言った。


「『ふぇ?』って。その顔、すっげえ間抜けだぞ」


「うぅ・・しどい」


「そんな顔で『しどい』とか言われてもな。全然、罪悪感わかねえわ」


 げらげら笑いながら、クレマンはなかなかに酷いことを言う。




 ぐぬう。


 確かに『酷い』じゃなくて『しどい』とか言われても、冗談にしか聞こえまい。


 だが、この扱いには物申す。




「きゅれみゃん、じぇいみぃ、あいがと、いった、のにゅ」


 クレマンてば、ぼくにお礼を言っておいてこの所業。


 それこそ酷すぎないかと、ぼくはじっとクレマンの目を見た。


「それは、本心だ。カシム殿下に笑顔をありがとう、ジェイミー」


 悪びれることも茶化すことなく、もう一度きちんと言って、クレマンは、ちらりと侍従さん達を見た。




 む。


 もしや、ぼくに何か仕掛けようとしている?




「ジェイミーに言っても分からないかもしれないけどさ。うちって、男爵だから、微妙な立ち位置だったりするわけよ」


 お礼を言っておいて、油断をさせ、何かしてくるつもりなのかと身構えたぼくに、クレマンはこそりと内緒話をするように顔を寄せてそう言った。


「びゅみょう」


「そ。何かいいな。そういう言い方されると、然程深刻な話でもないって気持ちになれる」




 ふん。


 悪かったな。


 どうせ、真面目な場面でも深刻になり切れない舌足らずだよ。


 でもまあ、クレマンも笑顔だからいいか。




「きゅれみゃん、わらう、いい」


「ありがと。で、まあ男爵って立場は、貴族とはいえ男爵、男爵とはいえ貴族っていう扱いが多いんだわ。ちょっと前に、それが如実に表れたことがあってさ。うちの親父って、伯父貴・・アベイタ伯爵から港を預かってんだけど。その親父が現場監督していた船着き場で、伝達がうまくいかなくて、あわや積み荷が間に合わない、下手すりゃ全部廃棄ってことがあったんだ。それも、サモフィラスとの貿易の船。貿易船って言ったって、荷運びしている人足(にんそく)は全員平民で、積み荷の持ち主は貴族や大商人が多い。うちの親父は、見事に板挟みになっちまってさ。それにまあ、誰が責任取るってなったら、現場監督の親父だろうって話になる。まあ、ここは当然だけどな」


 そこで小さく息を吐いたクレマンを、ぼくはじっと見つめる。




 船に荷を積んで、ってことは人の財産を預かるってことなんだなって改めて思い知る。


 でも、クレマンの父様も立派なんじゃないか?


 だって、人足・・つまりは平民の責任にして、すべて押し付けてしまうことだって出来ただろうに。




「んと、きゅれみゃん、ちーうえ、えりゃい。ちとの、しぇい、ちない」


「ん?俺のちーうえが偉い?・・・ああ、俺の父上が偉いって言ってくれてんのか。そうだな。父上は、平民だからと差別して、酷い扱いをしない。絶対」


 そう言ったクレマンは、とても誇らしそうで、ぼくまで何だか嬉しくなる。


「平民はさ。読み書き出来ない奴が多いんだよ。だから、貴族や大商人が手紙や書類を見せても理解できない。そこを、貴族や大商人は理解していない。まあ、そういう行き違いでさ。親父も、自分の監督不行き届きってことで、伯父貴に辞任を申し出たんだ。責任取って、てやつだな」


「うう」


 確かに重い話だと、ぼくも神妙な顔で頷いた。


「でも、最終的に決定権はサモフィラスにあるってことになって、カシム殿下に謝罪をしに行ったんだ。親父は、その場で殺されても仕方ないって覚悟で。そうしたら『伝達に問題があったのなら、修正し、二度と間違いが起きないように』って、カシム殿下は責任を取ってなど不要だって、言ってくれたんだ。最終的には、積み荷も間に合ったっていうのが大きいと思うけど。俺はそれで決心したんだ。いつも、難しい顔ばっかで仕事しているカシム殿下を、いつか笑顔にしたい、役に立ちたいって」


「かちむ、えがお、めじゅらしゅ、にゃい」


 ぼくの前では、笑顔が常備されていると言えば、クレマンが苦笑する。


「ジェイミーにとって、カシム殿下の笑顔は珍しくないのかもな。でも、俺、カシム殿下の笑顔なんて、今日初めて見たからな。それは、俺だけに限ったことじゃなくて、使用人もみんな、そう言っているし、イデラ領のみんなも、そう言っている。難しい顔しか見た事ない、って」


「うー・・しょういえびゃ、じじゅしゃたちも、いってた」


「そうだろう!?だから、ジェイミーは凄いんだ、って。俺も、思わず呆然としちまったからな。羨ましいぞ、こいつ」


「うはあ!」


 ぐりぐりと頭を拳でいじられるけど、全然痛くない。


 ただ楽しくて、ぼくは、ぱたぱた手足を動かして、きゃらきゃらと笑い続けた。


「ジェイミー。俺、お前のこと気に入った!これからも、よろしくな相棒!」


「ううー!・・う?」


 


 ぼくも、クレマン気に入った!


 こちらこそ、よろしくな相棒!


 ・・・・・・え?


 相棒?



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