三十九、満天の星
「うっきゃあ!」
お昼ごはんの後、しっかりとお昼寝をしたぼくは、夕暮れの砂漠を思い切り駆けて、思い切り砂まみれになった。
ごろんごろん転がったので、服の中にも砂が入り込んだし、髪も砂だらけ。
靴のなかも、じゃりじゃりする。
「ジェイミー、楽しかった?」
「う!」
でも、籠の中でじっとしているというのは、思ったより精神的に負担だったらしく、気持ちがとてもすっきりしたと、ぼくは、見守っていてくれるカシムの所へ駆け戻った。
「じゃあ、さっぱりしようね」
「う?」
さっぱり、って。
ここで、お湯か水を使うのか?
あ!
また何か魔道具が出て、そこからお湯か水が出るんだな!
「少し、じっとしていてね・・・ん、いい子」
「う・・・う?」
てっきり、水かお湯が出る装置みたいな物が出て来ると思っていたぼくは、カシムが手にしたそれを、思わず凝視してしまう。
あれって、羽箒に見えるけど。
・・・・・うん。
見える、んじゃなくて、鷲か鷹の羽根だよね、あれ。
立派な品ではあるが、紛うことなき羽箒で、カシムは、ぼくの髪や体を優しく撫でようとしている。
羽箒で、砂を払うってことか。
なるほどな。
「うう」
それならと、服の中に入ってしまった砂を落とそうと動いたら、カシムに『めっ』と止められた。
「ジェイミー。くすぐったいかもしれないけど、我慢していて」
「んん!ちあう!ちゅにゃ、おとしゅ」
くすぐったくて我慢できないのではなく、これは、砂を落とすための行為だと訴えれば、カシムがくすりと笑う。
「なるほど、砂を払いたいんだね。大丈夫、今、きれいになるから」
「えと、うんと・・・あえ?」
羽箒だけでなく、服をばさばさすれば、もっと早く砂が落ちると言いたかったぼくは、拙い言語を口にするより前に、その変化に気が付いた。
「ふふ。ちゃんと、きれいになっているでしょう?」
「うう!にゃんれ?」
カシムの言う通り、羽箒でなぞられた後は、砂の気配も残らないどころか、お湯を使ったみたいにさっぱりしている。
「これも、魔法陣付き」
「にゃあ!」
おお!
凄いじゃないか!
・・・・・って、言いたかったんだよ。
今の『にゃあ』は。
はあ。
まあ、カシムには何となく通じたみたいだから、よしとしよう。
「じゃあ、出発しようか」
「う!」
お腹がくちてお昼寝をし、その後思い切り砂の上を駆けたぼくは、洗浄までしてもらった、心地のいい状態で籠のなかに収まって、元気溌剌。
夕闇迫る砂漠の色を楽しみながら、駱駝に揺られて進んで行った。
「ジェイミー。お空を見てごらん」
「う?・・・わああ」
暗くなって来た砂漠は、何だか不気味だと、前や横ばかりきょろきょろしていたぼくは、カシムの言葉で上を見て、そのまま後ろに倒れるほど夢中になる。
これが、満天の星ってやつか。
凄い。
「ほち、ひらひらって、ひゅってきゅる」
「星が降って来る、か。本当にそうだね」
「きらきら、ちかちか、きらきら、ちかちか」
どんどん濃くなる空で輝きを増して行く星を眺めているうち、ぼくは、不意に家のことを思い出した。
「あーうえ、ちーうえ、かぁにいに、くぅにいに、いぃにいに、ヴぃ」
きっともうすぐ会えるんだけど、そう思うと待ちきれない気持ちになる。
「あーうえぇ」
とうとう泣き出してしまったぼくに何を言うこともなく、カシムはただ黙って、ぼくの伸ばした手を握ってくれた。
いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。