三十二、「胸が痛い」その原因。
「・・・・・これが魔法陣かるたで、こちらが言葉のかるたか。なるほど。よく出来ているな」
「う!」
一緒に夕食を摂ってから数日。
ハリムは、その際に約束した通り、ぼくとカシムと共にかるたをするため、カシムの部屋を訪れた。
そして今、共に絨毯の上に座って、ぼくが出したかるたを、興味深そうに見つめている。
「これは、素晴らしいな。売っているもの、というよりは、手作りのようだが」
「かぁにいに!くぅにいに!」
そう!
その通りなんだよ、ハリム!
ぼくの優秀な兄様たちが、ぼくのために作ってくれたんだ!
どう?
凄いでしょう!
「にいに、ということは、ジェイミーの兄君が作ったということか・・・大分、年が離れているのだな」
「ジェイミーは、可愛がられているのでしょうね。愛情を感じます」
「あぁ!・・う?」
自分のことのように嬉しそうに微笑むカシムを見て、ぼくは嬉しくもなるけど、疑問も持つ。
ぼくは確かに兄様たちに可愛がられてはいるし、年齢も離れているといえば離れているけど。
なんか、このハリムとカシムの言い方だと、もっと離れていると想像しているような気がするんだよな。
うーん。
でもな。
これ以上、今のぼくに説明されても、理解できないだろうしな。
・・・うん。
益々の混沌を招くのは、やめよう。
「それで?どうやって遊ぶんだ?」
「はい。魔法陣かるたと言葉のかるたを、それぞれの陣に、何も記載が無い方を上にして並べて、双方から一枚ずつめくり、意味が同じ物をめくったら、当たりということになります」
初めての時にぼくにも説明してくれたように、カシムがハリムに説明する。
その顔は、未だ緊張気味ではあるけど、なかなかに楽しそうでもあった。
「なるほど。しかしそれだと、それぞれの札の意味、言葉を解していなければならないだろう。ジェイミーに出来るのか?」
「うう!」
大丈夫!
もう、ほぼ完璧だから!
「ご心配には及びません。ジェイミーは、魔法陣の意味も、言葉もきちんと読み解けます」
ぼくが元気に答えれば、どこか誇らしそうにカシムも言って、ぼくの頭を撫でる。
「そうか、ではやってみよう・・・ジェイミー。私も混ぜてくれるか?」
「う!」
『もちろんです!』と、両手を挙げて、ぼくはハリムの参戦を快諾する。
やった!
初めての遊びだから、きっとハリムも苦戦する!
「音を意味する魔法陣か・・・確か、さきほどカシムがめくったものがそうだったな」
連敗を止める大きな機会だと張り切ったぼくはしかし、ハリムの実力に目が点になった。
え!?
カシム、確かに音を意味する言葉を引いたけど、それって大分前じゃないか!?
「これは、色を意味する魔法陣ですね・・・となると、前の前に私が引いたもの・・はい、こちら」
「・・・・・・・・」
な、なんでふたりとも、そんな前の前に引いた札とか、覚えているんだよ。
ぼくなんて、全然覚えられていないのに。
もしかして、ぼくって馬鹿なのか?
なんだこの、三歩歩いたら忘れる鳥頭・・・って!
つまり、やっぱりぼくは、鶏っ子!?
「あー・・また、ちあう」
残念無念。
その思いで、ぼくは、一致しなかった双方の札を元に戻す。
「凄いな、ジェイミーは」
そんなぼくを見て、ハリムが言った言葉に、何の嫌味だと、ぼくは胡乱な目をしてしまった。
「あぁ?」
結果、絶対に一国の王子に対して向けてはいけない目を向けてしまったんだけど、ハリムもカシムも、にこにこ笑っている。
「そうなのですよ、兄上。ジェイミーは、凄いのです。この年齢で、既にこの数の魔法陣の基礎と、言葉を理解し、繋ぎ合わせることが出来るのですから」
「ふぇ!?」
まさか、そんなことを言われるとは思わず、ぼくは、とっても少ない合わせられた札を、いじいじと持つ。
「なんだ。もしかして、取れた札が少ないと、いじけているのか?そうだな・・・幼子相手に本気でやってしまったからな。手加減した方がいいのか」
「んん!いあ!」
手加減、という言葉に、ぼくは敏感に反応し、大きく首を横に振った。
手加減反対!
それで勝っても、少しも嬉しくない!
「分かりました。ジェイミー。手加減なんてしませんから、安心してください」
「う!・・・やっちょ!」
「やっちょ?」
『絶対です』というカシムに、ぼくは約束しろと迫るも、どうやら通じなかったらしい。
カシムは、不思議そうに呟いてぼくを見た。
「んと・・やっちょっ、やっちょ!」
通じないなら仕方ないと、ぼくはカシムの膝に乗り上げるようにして、その指に自分の指を絡め、ぶんぶんと振る。
これでどうだ!
よく分からない記憶のやり方だけど、兄様達にもカルヴィンにも通じたから、大丈夫だ!
・・・・・と、ぼくは信じる。
「・・・・っ!」
しかし、ぼくの予想に反し、カシムは、分かる分からないの反応ではなく、自身の胸を抑えた。
「かちむ!いたい、いたいなの!?」
前回に続き二度目ともなれば、本当に何かの病気かもしれないと、慌ててその顔を覗き込むぼくに、カシムは大丈夫だと笑顔を向け、頭を撫でてくれる。
そんなわけないじゃん!
結局、この間の夕食の時も、勝手にカシムが胸を痛がっていたって言ってしまったぼくを怒りもしなかったけど、ハリムにもちゃんと言わず『後で説明します』とか誤魔化していたくせに!
「はあむ!」
でも、今日はハリムがこの場に居る。
何とかしてくれると、カシムにしがみ付いたままハリムを振り向くも、ハリムは訳知り顔に、何かにやにやした笑みを浮かべていた。
・・・・・なんだ?
ハリム、嬉しそうっていうか、カシムを揶揄う気満々に見えるんだが。
なんでだ?
「カシム。これが、お前の『胸が痛い』原因か。確かに、強烈だな」
そして、ハリムの言葉に、カシムは大きく頷き、ぼくは、溢れる疑問に首を傾げた。
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