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三十一、捜索 ~カルヴィン視点~







「それで父上。そちらは、どうだったのですか?」


 一頻(ひとしき)りジェイミー自慢をして、多少落ち着いたカルヴィンは、こてんと傾き、転がりそうになったジェイミーの体を優しく支え、自分の膝へとその小さな頭を大切に乗せてやりながら、そう問うた。


「ああ。予想通りの酷さだったな」


「ええ。『益も無い婚約をして、いつ目が覚めるかと思い待っていてやったが、いつまで経っても気づけぬようなので、忠告してやる』なんて、おっしゃっていましたわね」


 


 母上。


 うっすら、微笑みを口だけ浮かべているのが、より怖いです。




「それに『第一王子バートランドは、知っての通り稀なるフィールドで、優秀だから、クロフォード公爵夫人として相応しく、盛り立ててくれる』だったか」


「言っていましたわね。二代目にして我が家を潰すの誤りではありませんの」


 両親が、怒りというより最早軽蔑を込めて言う言葉を、カルヴィンはやはりと聞く。




 あの親にしてこの子あり、って。


 両陛下と蠅馬鹿王子みたいなことを言うんだろうな。




「それに。言うに事欠いて『クラプトン伯爵も、自分の立場を弁え、アレンの申し込みを断るべきであったものを。のみならず、今に至るまで婚約解消の申し出をしないとは。お蔭で、バートランドは泣き暮らしているのだぞ?』などと言いやがった。あの愚兄にアレンなどと名で呼ばれると、虫唾が走るわ」


「それに王妃陛下まで『王家からの縁談を断るなんて愚の骨頂、そして、伯爵家の分際で王弟でもある公爵家に縁付こうなど、ずうずうしいにもほどがある』なんて。あの方、子爵家の出ではありませんの」


「その辺りは、血なのだろうか。愚兄の実母も、男爵家の出身だからな・・・いずれにしても、クラプトン伯爵と夫人には、嫌な思いをさせてしまった。申し訳ない」


 クロフォード公爵アレンが、言葉と共に頭を下げ、それに続いてクロフォード公爵夫人アシュリーと、嫡男であるカルヴィンも頭を下げた。


「そんな、公爵。顔を挙げてください。皆さんが悪いわけではありません。ある程度、覚悟もしていましたし、クロフォード公爵夫妻が、ぶれることなくジェイミーと我が家を擁護してくださったので、私も妻も、とても心強かったです」


「当然のことをしたまでだ」


「それに、クロフォード公爵子息がジェイミーを護ってくださったようで、安心しました。ありがとうございます」


「それも、当然のことです。クラプトン伯爵夫人」


 公爵家と伯爵家で、互いに謝罪と感謝を口にして、馬車のなかは、ため息に包まれる。


「それにしても。まったく、酷い話ですわ。横恋慕を正当化しようだなんて」


「あれが義兄だなどと。本当にお恥ずかしい限りだ」




 まったく。


 父上の言う通りだ。


 幾ら、兄弟のなかで、たったひとりのフィールドだからって、両陛下は甘やかし過ぎだろう。




「・・・むにゅ・・・?」


 その時、カルヴィンの膝で眠るジェイミーが身じろぎ、言葉にならない何かを呟いた。


「ジェイ。起きたか?」


「ヴぃ・・?」


「まあ、可愛い。おはよう、ジェイミー」


 寝ぼけた声で、カルヴィンを呼ぶジェイミーに、呼ばれたカルヴィンはもちろん、クロフォード公爵夫人も悶絶する。


「あーうえ!」


 そんななか、大好きな母、クラプトン伯爵夫人を見つけたジェイミーが、ぱあっと華やいだ笑顔を浮かべて抱き付いた。


 その、きゃっきゃとはしゃぐ姿を見て、カルヴィンは、ジェイミーが王城で、如何に我慢し、耐えていたのかを知る。


「あの愚王子のせいで、たくさん嫌な思いをさせてしまって、悪かったな、ジェイミー」


「んん!」


 不敬と言われても会わせるのではなかったと悔いるカルヴィンに、しかしジェイミーは明るく、大丈夫だと首を横に振った。




 ほんとに。


 あの馬鹿蠅王子より、ずっとジェイミーの方が大人だな。




「ヴぃ・・いっちょ・・かあい!」


 それからも、カルヴィンとクロフォード公爵が似ていると言ったり、浮きランタンを見て不思議がり、その動力源を知って、魔力が尽きたら落ちて来ると心配したりと、鋭い観察力で周りの大人を感心させたジェイミーは、興味深そうに外を見つめ、それまでの嫌な空気を一新した。










「・・・ジェイミー!」


 コリンが自供した北の森で、大きな松明を掲げながら、カルヴィンは騎士たちと共にジェイミーを探す。


 当然の如く、両親とクラプトン伯爵夫妻もそれぞれ騎士を連れて来ているが、広い森のなかのことで、幾つかの組に分かれて捜索することとなった。


「ジェイミー!返事をしてくれ!」


 そうして必死に捜索するなか、カルヴィンはひとつの希望を見出す。


「これを見ろ!(わだち)だ!」


「はい。では、この先に」


「行くぞ!」


「「「はっ」」」


 松明に照らされた轍を見た騎士たちにも、一層の緊張が走った。


 轍の跡は、未だ新しい。


 しかし、この暗く肌寒いなか、幼子がひとり森に置き去りにされた。


 その恐怖は、いかばかりか。


 そして、寒く、ひもじいだけでなく、この森には別の恐怖も潜んでいる。


「ジェイミー!何処だ!?ジェイミー!」


 この森は、魔狼の住処。


 その事実を知るカルヴィンも、騎士たちも自然速足となって轍を辿った。


 もうすぐ、探し出せるかもしれない。


 そんな期待を持って速足で進むうちも、辺りに松明を向け、見回すが、ジェイミーの姿はおろか、泣き声さえも聞こえない。




 ジェイミー、何処だ?


 何処にいる?


 もしや、泣けもしないほどに弱っているのか?




「ここで、途切れている・・・・・ジェイミー!ジェイミー!」


 胸が潰れる想いで辿った、唯一の希望の轍は、森の少し開けたところで途切れ、そこに後戻ったのだと分かる跡が見つかって、カルヴィンは膝を突きそうになるも、歯を食いしばり、懸命に辺りの捜索を続ける。


「いません!一旦、他の皆様と合流し、対策を練った方がよろしいかと」


 周囲を探すもジェイミーを見つけられず、カルヴィンの焦燥は募るばかり。


「そんなことをしていて!ジェイミーに何かあったら!」


「ですが、魔狼の群れが増えています。これ以上は、公爵子息の安全にも関わって来る事態です」


 夜が更けるごとに、魔狼の活動は活発になる。


 そうなれば、カルヴィンのことも護り切れないかもしれないと言う騎士の言葉に、カルヴィンは強く唇を噛んだ。


「・・・・・一旦、父上たちと合流する」



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