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二十六、感謝するのは

 






「ジェイミー!大変なんです!兄上が、一緒に夕食を摂ろうと仰って・・・・・!」


 いつものように、昼食の席に座ってカシムの勉強が終わるのを待っていると、物凄く焦った、初めて見る表情のカシムが走って来た。




 おお。


 走るカシムなんて、初めて見た。


 しかもここ、滅茶苦茶広いとはいえ、建物の中だぞ?


 ・・・・それほど、嬉しいってことか。




「かちむ!」


 そんなに喜んでもらえるとぼくも頑張った甲斐があると思い、同時に、これからのハリムとカシムの楽しい兄弟関係を思えば、自然と笑みが浮かんで、万歳で迎える。


「どうしましょう!ジェイミー!何か、兄上のご不興を買うようなことをしてしまったのだと思うのですが、心当たりが無いのです!兄上は、何にお怒りなのでしょうか!?」


「ふぇ!?」




 え!?


 なんで、夕食を一緒に食べようって言われただけで、不興を買ったとか、怒っているって話になるんだよ!?




「ああ、どうしましょう、ジェイミー。しかも、ジェイミーも一緒になど、一体私は何をしてしまったのか。巻き込んで、申し訳ありません。ジェイミー」


「にゃ!」




 あ、しまった。


 違う、そんなことない、って急いで言おうとすると、猫言葉になるんだった。




「にゃ?・・・なんだか、可愛いですねジェイミー。慰めてくれるのですか?嬉しいし、癒されます」


「んん!」


「え?違うのですか?それは残念です・・・・」




 ああ、もう!


 だから!


 違うのは、そっちじゃなくて!




「じぇいみぃ、はあむ、いっちょ!おにあ!」


「え?はあむ?」


 ぼくは、夕食を一緒に摂ることになった大きな理由、今日ハリムと庭で一緒になったと懸命に伝えるも、カシムには今一つ伝わらない。


 そもそも、ハリムをはあむって言っている時点で、理解するのは難しいだろう。


「う!かちむのにいに!はあむ!」


「私のにいに・・ああ!はあむとは・・・もしかして、ハリム兄上のことですか?」


「う!」


 これが決め手だろうと、ぼくが言うところのはあむがカシムの兄様であることを伝えた結果、カシムが理解してくれ、漸く通じたと、ぼくは大きく胸を張る。


 いや、なんでって、大きな仕事を成し遂げた、そんな気分だったから。


「兄上と一緒に・・・分かりました。それは、ジェイミーが、兄上と庭で一緒になった、ということですね?」


「う!」


 


 はあ、


 良かった。


 全編通じた。


 ・・・長かった。




「そういうことでしたか。それで兄上は、正式にジェイミーを紹介するようにと・・・はあ。なるほど」


「んう?・・・う」




 なんか、ちょっと違うんだけど、それを説明するのは今のぼくには難し過ぎるし、むしろ説明しない方がいいような気がするから、このままでいいか。


 一緒にご飯食べれば、一発解決することだしな!








「ジェイミー。兄上は、本当に凄いひとなんですよ。ぼくと同じ年齢の時には、既に諸外国訪問に、両親と共に行ったりもしていて、語学にも歴史学にも精通しているんです」


「うう」


 カシムは本当にハリムが好きらしく、落ち着きを取り戻すと、いつものようにぼくの食事を切り分けてくれながら、嬉しそうに話し続ける。


「それに、剣術や弓の腕も素晴らしくて、民への想いも強い。必ずや素晴らしい王になるだろうと言われているのです。かくいう私も、そう確信しています」


「はあむ、しゅごい」


「そうです!ジェイミーもそう思いましたか?」


「う!」


 確かに、凄い威厳だったし、目力も強くて、いかにも賢くて出来るって感じだったと思いつつ返事をすれば、何故かカシムが落ち込んだ。


「かちむ?」


「ああ、すみません。それに比べて私は凡庸で。将来、兄上や国のためになりたいのに、気持ちばかりで能力が追い付きません」


「かちむ・・・」




 ぼくから見れば、カシムだって賢いし、しっかりもしているんだけど、出来過ぎる兄を持った苦労ってやつかな。


 でもな、カシム。


 これだけは言える。


 そう思うのは、カシムも出来る奴だからだ。


 ぼくを見てみろ。


 あれだけ優れた兄が三人もいて、落ち込んだことなんて一度も無いからな。




「いいこ・・いいこ」


 だけど、言葉を尽くしたところで、結局は自身の気づきによるものと思ったぼくは、懸命に伸びあがって、カシムに、いいこ、いいこした。


 まあ、今のぼくには尽くせるだけの語彙力も無いし、背も腕の長さも足りないから、カシムの頭まで届かなくて、額をぺちぺちする形になってしまったのだけれども。


「ジェイミー。ありがとう。傍に居てくれて、本当に感謝する」


 カシムはうっすらと目に涙の膜を張って、ぼくをぎゅうってしてくれた。




 何を言うカシム。


 あの森で、狼の餌になりかけたぼくを助けてくれたのは、カシムじゃないか。


 それに、こうして何不自由なく、きちんと生活出来ているのも、カシムのお蔭だ。




「かちむ・・あーと」


 ぼくこそは、カシムへの感謝を忘れないと、ぎゅうと抱き締め返した。




 まあ、腕が短いから、ただ単に、しがみ付いているようにしか見えないだろうけどな!



いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。

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