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二十二、クロフォード公爵邸 2 ~カルヴィン視点~



「コリン。ジェイミーに何をした?」


 駆け出すふたりを見送り、他の侍従たちにもジェイミーの捜索を指示したクロフォード公爵は、改めてコリンと向き合う。


「当然の処理をしただけです、旦那様」


 答えつつも、コリンの目は、しっかりと繋ぎ合うクロフォード公爵夫妻の手を忌々し気に見つめている。


「当然の処理、とは?」


「身の程を弁えない者に、当然の末路を見せることです」


 自分は当たり前のことをしただけだというコリンに、クロフォード公爵夫人アシュリーが、ため息を吐いた。


「ジェイミーは伯爵子息で、カルヴィンの大切な婚約者なのよ?それなのにそんな、見下した言い方」


「たかが伯爵家の分際で、このクロフォード公爵家の夫人になろうなど、思い上がりも甚だしい。まあ、同族であるアシュリー様には、ご理解いただけなくて当然でしょうか。貴女も、伯爵家の出身なのですから。いいですか?この際ですから申し上げます。貴女がこの屋敷に留まることを認めているのは、貴女がカルヴィン様という後継を産んだからに他なりません。たかが伯爵家の生まれのくせに、アレン様の妻に収まるなど、誰が認められるというのですか」


「あら。それは、お義父様とお義母様、それに親類縁者をはじめとする一族、それから周りの貴族の方々ね」


 彼ら全員にクロフォード公爵夫人として認められていると、領地に居る前クロフォード公爵夫妻とも良好な関係を築いているアシュリーは、悠然と言い放った。


「アシュリー。誰より私が、アレンがだと、そこは言うべきところだろう。いや、認めているというよりは、望んでいるが正しいが」


「ああ、そうでしたわね。アレン」


 妻に疎外された形のクロフォード公爵が、へにょりと眉を下げ、夫人のアシュリーはそんな夫をみて、ふふふと笑う。


「アレン様!いい加減、目を覚ましてください!そんな女狐に引っかかって!挙句、子供もひとりしか産めないフィールドじゃないですか!私を娶ってくださっていたら、もっとたくさん産んで差し上げました!そうです!今からでも遅くありません。旦那様、さっさとそんな下劣なフィールドとは手を切ってください」


「目を覚ますのはお前だ、コリン。私は生涯、アシュリー以外を妻に望むことは無い。そして君を、有能な部下として以外、見たことも無い」


 きっぱりと言い切ったクロフォード公爵に、コリンが信じられないと首を横に振る。


「そんな!私はずっと・・そうです!王城で、アレン様があの愚兄に悩まされている時から、お傍にいたではありませんか!」


「不敬だぞ!コリン!」


「父上!ジェイミーが、どこにもいません!」


 そこへ、ジェイミーを探しに行っていたカルヴィンとブラッドが、真っ青になって戻って来た。


「カルヴィン公子。ジェイミーが居ないとは、どういうことですか?」


「言葉の通りよ、アレックス!ジェイミーが、どこにもいないの!」


 ジェイミーが走り去ったというコリンの言葉を受け、出発地点となるカルヴィンの部屋から始まり、その階のすべての部屋を手分けして探したものの、ジェイミーの姿は見つけられなかったと、ブラッドは夫の腕に縋り付く。


「落ち着け、ブラッド。未だその階を確認しただけなのだろう?」


「ええ。公爵家の使用人の皆さんが、今も探してくれているけれど。けれどね、ブラッド。お出かけリュックも無いの」


 出掛けに、上の息子たちが末息子のジェイミーに持たせてくれた、可愛いリュック。


 それを嬉しそうに抱き締めていたジェイミーを思い出し、クラプトン伯爵はぐっと腹に力を入れた。


「コリンと言ったな。お前は、私の息子に何をした?」


「伯爵風情が、偉そうに言うな」


 クラプトン伯爵アレックスに向かって吐き捨てるように言ったコリンに、クロフォード公爵アレンが強い口調で命令する。


「コリン!クラプトン伯爵の問いに答えろ!」


「はあ。アレン様は、本当にお人よしでいらっしゃる。だから、伯爵家如きが勘違いをして、このお屋敷に入り込んでしまうのですよ」


 これ見よがしにため息を吐いて、コリンは主人であるクロフォード公爵に反省を促した。


「勘違いしているのは、コリン。お前だ。何の権限があって、この屋敷の主のように振る舞う?」


「そうなるのが、筋だからです。それを、アレン様がお間違いになって」


「どこからそのような思考になったのか。いいか、コリン。私は一度も、お前にそのような感情を持ったことはない。お前はただの使用人だ。分かったら答えろ。ジェイミーを何処へやった」


「そんな!アレン!」


「答えろ!」


 クロフォード公爵の名を呼び捨てにし、その腕に縋ろうとしたコリンに足をかけて転ばせたクロフォード公爵に、コリンが絶望の目を向ける。


「答えろ!コリン!」


「っ!汚物は排除するもの。ですから、そのように処理しました。捨てた場所は、北の森」


 コリンがにやりと笑って言った瞬間、クラプトン伯爵アレックスが拳でコリンを思い切り殴り、クラプトン伯爵夫人ブラッドが、コリンの腹に膝蹴りをお見舞いした。


「ぐっ・・アレン!私に狼藉を働くこいつらを、処分してください!」


「急ぎ、北の森を捜索!そしてコリン、共謀した者を吐け」


 未だ自分の方が伯爵家より上位だと叫ぶコリンに、クロフォード公爵の冷徹な声が飛ぶ。


「父上!俺も行って来ます!」


 叫んで、カルヴィンも勢いよく走り出した。




 待っていろ、ジェイミー。


 必ず助ける!




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