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二十一、クロフォード公爵邸 ~カルヴィン視点~







「父上。カルヴィンです。お呼びと伺い参りました」


クロフォード公爵夫妻とクラプトン伯爵夫妻が、話し合いを行っている談話室に着いたカルヴィンは、控えている侍従に来訪を告げてもらい、早速と中に入る。


「ん?カルヴィン?私は呼んでなどいないが?」


「え?ですが、確かにコリンが、父上が呼んでいると言っていました」


「いやしかし、私は呼んでいない」


「どういう、ことでしょうか」


 可愛いジェイミーの笑顔を思い浮かべながら作ったかるたを、ふたりで遊ぼうとしたところでの呼び出しに、父にひと言申さねばと思っていたカルヴィンは、出鼻を挫かれた思いで、父であるクロフォード公爵を見た。


「カルヴィン。ジェイミーは?まさか、コリンとふたりにして、置いて来たの?」


「あ、はい母上。コリンが見ていてくれるというので、置いて来ました。コリンがいるので、平気ですよ」


「すぐに!すぐに、ジェイミーを迎えに行って!」


 カルヴィンの言葉に、クロフォード公爵夫人が突然、鬼気迫る様子で立ち上がる。


 そんな夫人を、クロフォード公爵が不思議そうな目で見た。


「アシュリー。突然どうした?」


「呑気にしている場合ではありませんわ、アレン。いつも言っているでしょう?コリンは、身分差別が激しいと」


「だが」


「失礼。クロフォード公爵。コリンというのは、出迎えの折、公爵の傍近くまで来た、赤茶の髪の侍従ですか?」


 公爵夫妻の会話を遮り、ジェイミーの父であるクラプトン伯爵が固い表情でそう問うた。


「ああ、そうだ」


「ならば、クロフォード公爵。公爵夫人の仰るように、その者はわたくしたちを蔑んだ目で見ていましたわ」


「私も気づきました。それで、侯爵以上の出身なのだろうと判断したところです」


 妻である伯爵夫人ブラッドの言葉に、クラプトン伯爵アレックスも同意して、妻と顔を見合わせ頷き合う。


「いや。コリンは男爵家の出身だ」


「まあ。そうなのですか。それでどうして、あのような態度なのか知りませんが、ジェイミーとふたりにしたくありません。クロフォード公爵夫人。ご面倒ですが、ジェイミーを迎えに行かせてくださいませ」


 あのような目をする者とジェイミーをふたりにしてはおけないと、クラプトン伯爵夫人も立ち上がる。


「お待ちください!コリンは、本当に有能で優しい侍従なんです。視線のことは、きっと誤解です。ジェイミーのことも、絶対に大切にしてくれます」


 すぐさま、その場を後にしようとする夫人ふたりを止めようと、カルヴィンは声を張った。


「公子様。ではなぜ、事実ではない呼び出しで、クロフォード公爵子息だけこちらへ来させたのですか?その間に、何をジェイミーに吹き込むつもりなのか、わたくしは恐ろしくてたまりません」


「クラプトン伯爵夫人。カルヴィンは、アレンの血を引いていますし、公爵家の跡取りということでコリンも大切にしていますので、理解し難いかと思います」


「態度が違うということですね」


「その通りです」


 母であるクロフォード公爵夫人の言葉に、カルヴィンは、戸惑いをもって父を見る。


「アシュリーはいつも、コリンが自分のことを伯爵家出身だと見下してくると言っていたが」


「アレン。あなたがコリンを信じ、重用するのは自由ですわ。それに、公爵家の内政をすべてわたくしに任せてくださっているので、不満もありません。ですが、それとこれとは別です。さあ、クラプトン伯爵夫人、こちらです」


 愛する妻のさばけた言葉に、クロフォード公爵は、ぐぅと唸った。


「待ちなさい、アシュリー。コリンに、ジェイミーを連れて来るよう伝えればいいことだ。君自ら動くことはない」


「何を言っているのですか。それでは、ジェイミーが何をされていても分からないではないですか」


 阿保を見るような目でアシュリーに言われ、アレンは心が折れそうになる。


「・・・・・分かった。私も行こう」


 相愛の妻と信頼する腹心の部下。


 ふたりの間に挟まれる形になったクロフォード公爵は、苦渋の表情でそう告げた。






「旦那様!お話は、終わられましたか?すぐに、お夕食を召し上がられますか?」


「コリン。何故、ここに居る?」


 談話室を出てすぐ、控えていたのだろうコリンに声をかけられたクロフォード公爵は、怪訝な顔になった。


「何故ここに居るかなどと・・我が旦那様は、おかしなことを仰いますね。私が旦那様のお傍に控える・・いえ、お傍に在るのは、当然のことではありませんか」


「「「っ」」」


 それを聞いた、その場の一同は、コリンの発した言葉に含みを感じ、クロフォード公爵とコリンを、交互にまじまじと見つめてしまう。


 そして、言われた本人であるアレンも、コリンの本心に漸く気が付いた。


 旦那様のお傍に在るのは当たり前。


 それは、侍従としての立場としても捉えられるが、もっと別の意味で『旦那様』と呼ぶ、まるで妻のようにも聞こえた。


 何よりコリンの目が、フィールドがシードを見つめる目になっている。


「コリン!ジェイミーは?ジェイミーはどうした!?」


 その異様さに気付いたカルヴィンは、この場に居ないジェイミーの所在を求めてコリンに詰め寄った。


「カルヴィン坊ちゃま。あの者は、カルヴィン坊ちゃまの姿が見えなくなるや否や泣き叫んで、ひとりで何処かへ行ってしまいました。まったくどのような躾をされているのか、親の顔が見たいものです」


「コリン!クラプトン伯爵夫妻に何ということを!伯爵、伯爵夫人、我が家の使用人が申し訳ない」


 顔を顰めて言ったコリンを、すぐさまクロフォード公爵がしかりつけ、ジェイミーの父であるクラプトン伯爵と、母であるクラプトン伯爵夫人に謝罪の言葉を口にする。


「旦那様!どうして、旦那様が伯爵如きに謝る必要があるのですか」


「お前が、失礼な態度を取ったからだろう!何を言っているんだ、コリン」


 コリンの発言に、クロフォード公爵は信じられないものを見るような目でコリンを見、きゅっと妻であるアシュリーの手を握った。


「ジェイミー!それでは、ジェイミーは何処にいるの!?」


 失礼な態度や謝罪、そんなことは今どうでもいいと、クラプトン伯爵夫人ブラッドは、すぐにも駆け出そうと動き出す。


「すぐに探しましょう!クラプトン伯爵夫人。申し訳ありません。まさかコリンが、ジェイミーを悪しざまに言い、ひとりにするなんて」


 そして、カルヴィンはすぐさま自分も行くと名乗り出て、ブラッドを先導し、共に駆けて行く。


 


 ジェイミー、ごめん!


 ごめんな、ジェイミー。




 今ジェイミーが、どれだけ心細い思いでいるかと思えば、カルヴィンの胸も塞がる。


 しかも、コリンから酷い言葉を聞かされた可能性も高いとあって、カルヴィンは怒りに我を忘れないよう、強く拳を握った。



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