表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/92

二十、サモフィラス第二王子、カシム。







「しゃっぱい・・あーと!」


 湯あみをしたお蔭で、さっぱりしたと、ぼくは満面の笑顔でカシムにお礼を言った。


 まあ、実際にぼくの世話を焼いてくれたのは侍従さんたちなわけだが、カシムと一緒にお風呂というのが、なかなかに楽しかったのも事実。


 清潔感のある広々とした浴場で、特に、ぼくなんか百人くらい入れそうな広い湯船には、獅子の像も飾られていて壮観だった。


 さすが王城。


「吾も、楽しかったです。一緒に湯を使うのも、いいものですね」


 


 ぼくもそう思う!


 迂闊にも、兄様達とお風呂に一緒に入ったことが無いって、今日気が付いたよね!


 帰ったら、早速一緒に入らないと。




「あいあと!」


 そして、湯あみを手伝ってくれ、着替えをさせてくれた侍従さんたちにもお礼を言えば、みんな笑顔で応えてくれた。


 その表情に偽りはなく、ぼくは疎まれてはいないと安心する。


「さあ、ジェイミー。それじゃあ、傷の手当てをしましょうか」


「う?」


 脱衣場というには抵抗があるくらい、立派な部屋の立派な籐椅子に座ったカシムが、ぼくをその膝に抱き上げて言ったとき、ぼくは思わず自分の手を見た。




 確かに擦り剝いているけど、これくらいなら、放って置いても。




「ジェイミー様。少しのご辛抱ですよ」


 手当てするほどじゃないんじゃ、と思っていると、怖がっていると思われたのか、侍従さんがそれはもう優しい手つきでぼくの手を取り、丁寧に治療を始めてくれた。




 なんか、あったかいな。




 体を洗う時も、傷に極力触れないようにしてくれていたことを思い出し、ぼくはほんわりと温かな気持ちになった。




「・・・はい、出来ました」


「あいあと!」


 言いながら、思わずぼくは顔が引き攣るのを感じる。




 いやだって、大げさだろう、これ!




 手にはしっかり包帯が巻かれ、痣になっていた打ち身部分にも何か軟膏を塗ってくれ、ガーゼのような物を当ててくれた。


 うん。


 この傷にこの処置は大げさだと、ぼくの記憶が言っている・・・・・。


「本当に、よく頑張りました。では、ジェイミー。食事にしましょうか。お腹が空いたでしょう」


「あい!」


 カシムに言われ、ぼくは眺めていた包帯から一気に食欲へと気持ちを切り替えた。


 正直、腹ぺこだ。


 それでも、食べてから風呂に入って気持ち悪くなった記憶のあるぼくは、湯あみの前には水分を取るにとどめた。


 故に、今は物凄くお腹が減っている。


「さあ、ここに座って」


「う」


 食堂と思しき場所に着き、カシムが優しく座らせてくれた椅子は、座面が広くとってあるもので、更にその上にすっぽりと体を包むクッションが置いてあった。




 凄い!


 これなら、落ちずに済むし、テーブルから顔も出る!




 子供用の椅子ではないが、これなら充分安心して座れると、ぼくはまた気遣いに感激する。




 本当に、とんでも第一王子とは大違いだぜ。


 第一王子の所で用意された椅子とは、まったく違う。


 主が違うと、周りも違うってことか?


 いやいや、第一王子の周りも有能なんだろうけどな・・・王子に逆らえないだけで。




「わあ・・・おいししょう・・」


 ぼくとカシムが席に着いてすぐ、いい匂いがして料理が運ばれてきた。


 その見た目と香りに、ぼくは思わずよだれが出そうになってしまう。


「口に合えばいいけど」


 そう言いながら、隣に座ったカシムが、甲斐甲斐しく肉や野菜を小さく切ってくれる。


「あいがと!」




 うーん!


 美味しい!


 あれ?


 でも。


 香辛料のいい香り・・・と思ったけど、ん?


 辛くないぞ?




「かりゃくない」


「ああ。ジェイミーの料理には、香辛料を使っていないのですよ。未だ幼いからやめておいた方がいいとの判断だそうで」


「あーと!」


 


 そっか。


 ぼく、未だちっこいもんな。


 食べられない物も、未だたくさんあるってことか。




「おいち!」


 カシムのと違い、香辛料も使っていないし、味も極薄だけれど、それでも素材がいいのか、料理人の腕がいいのか、滅茶苦茶おいしい。


 家で食べている料理もおいしいけど、これはまた系統が違う。


「よかった。食事が口に合って」


 国が違うからか、カシムが心底安心したように言った。


「う!おいち!」


「好き嫌いもないようで、偉いぞ」


 そしてカシムは、そう言ってぼくの頭を撫でてくれる。




 ああ、ほんと。


 兄様達みたい。




 ほかほかの、おいしいごはんは幸せで、隣にカシムが居て安心もするけど。


 やっぱりぼくは、早くおうちに帰りたいと思った。




いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ