二十、サモフィラス第二王子、カシム。
「しゃっぱい・・あーと!」
湯あみをしたお蔭で、さっぱりしたと、ぼくは満面の笑顔でカシムにお礼を言った。
まあ、実際にぼくの世話を焼いてくれたのは侍従さんたちなわけだが、カシムと一緒にお風呂というのが、なかなかに楽しかったのも事実。
清潔感のある広々とした浴場で、特に、ぼくなんか百人くらい入れそうな広い湯船には、獅子の像も飾られていて壮観だった。
さすが王城。
「吾も、楽しかったです。一緒に湯を使うのも、いいものですね」
ぼくもそう思う!
迂闊にも、兄様達とお風呂に一緒に入ったことが無いって、今日気が付いたよね!
帰ったら、早速一緒に入らないと。
「あいあと!」
そして、湯あみを手伝ってくれ、着替えをさせてくれた侍従さんたちにもお礼を言えば、みんな笑顔で応えてくれた。
その表情に偽りはなく、ぼくは疎まれてはいないと安心する。
「さあ、ジェイミー。それじゃあ、傷の手当てをしましょうか」
「う?」
脱衣場というには抵抗があるくらい、立派な部屋の立派な籐椅子に座ったカシムが、ぼくをその膝に抱き上げて言ったとき、ぼくは思わず自分の手を見た。
確かに擦り剝いているけど、これくらいなら、放って置いても。
「ジェイミー様。少しのご辛抱ですよ」
手当てするほどじゃないんじゃ、と思っていると、怖がっていると思われたのか、侍従さんがそれはもう優しい手つきでぼくの手を取り、丁寧に治療を始めてくれた。
なんか、あったかいな。
体を洗う時も、傷に極力触れないようにしてくれていたことを思い出し、ぼくはほんわりと温かな気持ちになった。
「・・・はい、出来ました」
「あいあと!」
言いながら、思わずぼくは顔が引き攣るのを感じる。
いやだって、大げさだろう、これ!
手にはしっかり包帯が巻かれ、痣になっていた打ち身部分にも何か軟膏を塗ってくれ、ガーゼのような物を当ててくれた。
うん。
この傷にこの処置は大げさだと、ぼくの記憶が言っている・・・・・。
「本当に、よく頑張りました。では、ジェイミー。食事にしましょうか。お腹が空いたでしょう」
「あい!」
カシムに言われ、ぼくは眺めていた包帯から一気に食欲へと気持ちを切り替えた。
正直、腹ぺこだ。
それでも、食べてから風呂に入って気持ち悪くなった記憶のあるぼくは、湯あみの前には水分を取るにとどめた。
故に、今は物凄くお腹が減っている。
「さあ、ここに座って」
「う」
食堂と思しき場所に着き、カシムが優しく座らせてくれた椅子は、座面が広くとってあるもので、更にその上にすっぽりと体を包むクッションが置いてあった。
凄い!
これなら、落ちずに済むし、テーブルから顔も出る!
子供用の椅子ではないが、これなら充分安心して座れると、ぼくはまた気遣いに感激する。
本当に、とんでも第一王子とは大違いだぜ。
第一王子の所で用意された椅子とは、まったく違う。
主が違うと、周りも違うってことか?
いやいや、第一王子の周りも有能なんだろうけどな・・・王子に逆らえないだけで。
「わあ・・・おいししょう・・」
ぼくとカシムが席に着いてすぐ、いい匂いがして料理が運ばれてきた。
その見た目と香りに、ぼくは思わずよだれが出そうになってしまう。
「口に合えばいいけど」
そう言いながら、隣に座ったカシムが、甲斐甲斐しく肉や野菜を小さく切ってくれる。
「あいがと!」
うーん!
美味しい!
あれ?
でも。
香辛料のいい香り・・・と思ったけど、ん?
辛くないぞ?
「かりゃくない」
「ああ。ジェイミーの料理には、香辛料を使っていないのですよ。未だ幼いからやめておいた方がいいとの判断だそうで」
「あーと!」
そっか。
ぼく、未だちっこいもんな。
食べられない物も、未だたくさんあるってことか。
「おいち!」
カシムのと違い、香辛料も使っていないし、味も極薄だけれど、それでも素材がいいのか、料理人の腕がいいのか、滅茶苦茶おいしい。
家で食べている料理もおいしいけど、これはまた系統が違う。
「よかった。食事が口に合って」
国が違うからか、カシムが心底安心したように言った。
「う!おいち!」
「好き嫌いもないようで、偉いぞ」
そしてカシムは、そう言ってぼくの頭を撫でてくれる。
ああ、ほんと。
兄様達みたい。
ほかほかの、おいしいごはんは幸せで、隣にカシムが居て安心もするけど。
やっぱりぼくは、早くおうちに帰りたいと思った。
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