表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/92

十八、投げ捨て禁止







「ふぇ・・・ぐすっ・・・」


 結局、ぼくを放り捨てるだけにすることに決めたのだろう。


 中身のぼくを確認することもなく、荷馬車の音は、すぐに遠くなった。


 そして、ひとりになって、暫くぐすぐす泣いていたぼくだけど、そうしていても、何も状況は変わらない。




 とにかく、この袋から出ないと。


 


 幸い、酷い怪我はしていない。


 ぼくは、ぐいっと涙を拭い、もぞもぞ動いて、袋の口を開こうとしたけど、当然のように紐で縛ってあって中から解くのは難しい。


「んっしょ・・しょっ!」


 ならば力づくでと、精いっぱい手で口を押し広げ、未だ紐は解けないまでも、何とか手を外に出した。




 ちっこい手最高!


 でも短いから、可動域が狭い!




 外から見たら、布の袋から幼児の手がにょっきり生えているという、妖怪もどきのような物体と化している確信を持ちつつ、ぼくは何とか紐を掴み、ひっぱって解く努力を続ける。




 成せばなる!


 ここを・・こう・・引っ張って・・・っ!




「うぎゃっ!」


 バランスを崩して転がり、勢い余って肘を打ち付け、紐を引きすぎて、柔らかな手のひらが擦り剝け・・と、なかなかの手傷を負いながら、ぼくは漸く成し遂げた。


 そう!


 ぼくは、布の袋との闘いに勝利したのだ!


「ぷっはああ!」


 漸く袋の口が開き、布の袋から抜け出したぼくは、まず大きく息を吸った。




 ふあああ。


 死ぬかと思った。


 直接殺されなくても、やがての窒息死!


 もっと残酷だろう。




 ともかく第一関門突破と、辺りを見渡したぼくは、そのまま固まった。


「・・・・・・もり」


 取り敢えず、森なのは分かる。


 というより、それしか分からない。


 右を見ても左を見ても、周りには木しかない。


 今ぼくが居る場所は、かろうじて開けてはいるものの、さほど広くはない。




 これって・・・。


 見つけて、貰えるのか?




 ぼくが居なくなったことに気付けば、父様も母様も、それにカルヴィンだってクロフォード公爵夫妻だって探してくれる自信はある。


 だけど、この場所って特定できるかは甚だ疑問だと思う。




 コリンが、そう簡単に話すとは思えないんだよな。




 コリンとしては、ほんの数日、黙秘すればいい。


 その間に、ぼくは勝手に衰弱死するんだから、充分に目的を達成できる。


 まあ、そんなことさせないけどな!




 見つけてもらうためにも、少し、歩いたほうがいいのか?


 荷馬車の(わだち)を辿れば、外ってことだよな。


 でも、今日はもう動かない方がいいだろうな。




 ぼくの短い足で歩ける距離なんて、高が知れている。


 やがて夜に向かう時間に動くのは賢明ではないと、ぼくは布の袋の上に座り込んだ。


「かぁにいに、あーと」


 そして、ぼくはまずお茶を取り出して、大事にひと口飲んだ。


 緊張もしたし、泣きもしたし、暴れもしたから喉が渇いていて、とてもおいしい。


「おいち・・・しゃむ」


 外はもう日が暮れかけていて、うっすらと寒くなって来た。


 真冬でなくて、本当に良かったと思う。


 


 焚火をしたいけど、このちっこさじゃ、無理だな。




 ため息を吐いて、ぼくは座っていた布の袋に、今度は足から潜り込んだ。


 こうすると、寝袋のように使えて便利がいい。




 よかった。


 寒さは、これで何とかしのげる。


 後は、お菓子とお茶で、どれくらい生き延びられるか、だな。




「バゥゥゥ・・バゥゥ」


「う?」


 おなか空いたな。


 本当だったら、今頃クロフォード公爵邸で晩ごはんだったのに、と食べ損ねた晩餐に思いを馳せつつ、星が輝き始めた紺色の空を見ていたら、狼の唸りのような声が聞こえた。


「ひゃうっ!」


 そして、周りを見たぼくは、そこに無数の光る何かを見た。




 あ、あれは、もしかして獣の瞳か?


 つまり、狼の唸りのような、じゃなくて、まんまってことか!?




 一難去ってまた一難とは、正にこのこと。


 ぼくは、数日後の衰弱死を待たずして、死する危険に晒された。




 どうする?


 どうしたらいい!?




 ぼくの手元にあるのは、布の袋とお出かけリュックのみ。




 そうだ!


 光るおもちゃ。


 あれを、最大光らせれば、火と同じような役目をしてくれるんじゃないか!?


 父様、母様。


 カール兄様、クリフ兄様、イアン兄様。


 そして、カルヴィン。


 ぼくに力を!




「うっああああああ!」


 一時しのぎくらいにはなるはずと、ぼくは、ありったけの魔力をおもちゃに注ぎ、ついでに叫んだ。


「わぅっ・・ぐぅるるう」


 それが功を奏したのか、おもちゃは、かつてないほどに強い光を放ち、狼たちが怯えたようにその場を去って行く。




 よ、よかった。


 なんとか、なった。




 文字通り脱力して、地面に転がったぼくは、がさりと、何かが下映えを踏む音を聞いた。


 そして、そのままぼくへと近づいて来る気配。


 


 う、嘘だろ!?


 今の光と叫びで、何か他の獣が・・・いや、待てよ。


 声と光に反応したなら、人ってことか!?


 もしかして、助けに来てくれた!?




「ヴぃ!」


 どうして、その時カルヴィンの名を呼んだのかは分からない。


 ただ、一番最後まで一緒にいたからなのか、状況的にカルヴィンが来てくれる可能性が高いと思ったのか。


 ともかくも、これで助かったと思ったぼくは、カンテラを手に現れた人影に、胸を躍らせた。




いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ