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十五、第一王子







「ジェイ。今度、俺と一緒に王城へ行こう」


「う?なんえ?」


 カルヴィンと一緒に遊んでいたぼくは、その言葉に、魔法陣かるたを組み合わせていた手を止める。


 相変わらず、土足厳禁の絨毯の上で遊んでいるぼくだけれど、ひとりで座って遊んでいても、滅多なことでは転がらなくなったし、ひとりで立って歩くことも簡単に出来るようになった。


 そう。


 先日めでたく二歳の誕生日を迎えたぼくは、心身ともに結構な成長を遂げたのだ。


 えっへん。


 ぼくが大きくなってきても、ぼくの家は、相変わらずみんな仲良しだし、ぼくの誕生日から少し遅れて十歳の誕生日を迎えたカルヴィンとも、良好な関係を築いている。


 そして、ぼくは無事、鶏を卒業した。


 もう『こっ、こっ』と言い続けていたぼくではないのだ。




 おめでとう、自分。


 頑張った、自分。


 よしよし、未来は明るいぞ。




「うん。面倒なんだけど、馬鹿王子が俺の婚約者に会いたいって我儘言っているそうだから」


「う。ヴぃ・・らめ」


 


 こらこら、カルヴィン。 


 王子様のこと、馬鹿王子なんて言っていいのか?


 不敬っていうんだろ、そういうの。




「だめ?何が?馬鹿王子って言ったこと?だって、本当なんだよ。あいつ、状況も考えないで我儘ばっか言うし、贅沢好きの勉強嫌いだし、世界は自分を中心に回っているって、本気で考えているんだからね」


「わあ・・・・」




 ええと・・・聞いてもいいでしょうか。


 そんな王子様が、どうして、ぼくに会いたいと?




「あいつはね、俺と婚約したいって宣っているんだ。俺とジェイミーは、もう正式に婚約しているっていうのに」


「あー」


 


 そっか。


 カルヴィンって、クロフォード公爵家の跡取りだからな。


 そこの嫁の座、次期公爵夫人の立場を狙っているってわけか。


 となると、確か王子様は三人いたはずだから、嫁入りたいってことは、下ふたりのうちのどっちかだな。




 王子と言っても、第一王子でなければ王位は遠いのだろうと、ぼくはひとりで納得した。








「第一王子殿下に、ご挨拶もうしあげます」


「ましゅ」


 煌びやかな王城の一室に、カルヴィンと共に通されたぼくは、そこで対面した(くだん)の王子殿下、正確にいえば、カルヴィンの挨拶に驚愕した。




 え?


 カルヴィンの妻の座を狙っているのって、第一王子殿下なの?


 それなのに、王位遠いの?




 それとも、これはカルヴィンに恋をした第一王子殿下の我儘なのかと、初めて知る事実に、ぼくは思考を巡らせる。


 今日の王城訪問には、カルヴィンの両親であるクロフォード公爵夫妻と、ぼくの父様と母様・・クラプトン伯爵夫妻も一緒に来たけど、今は別室で国王陛下、王妃陛下と対談していて、この部屋に居るのは、ぼくとカルヴィン、そして第一王子殿下だけ。 


 もちろん、侍従さんや護衛さんは、壁際に控えているけど、ジョンは王城には入れないんだって、泣きながら馬車でお留守番している。


『ジェイミー様!くれぐれも、くれぐれもお気をつけて!』


 と言って、ほんとに泣いてたよな。


 ぼくと離れるのが寂しい、って。


「カルヴィン!よく来てくれた!」


 『なかなかジョンも個性的だよな』って、若干、遠い目になっていると、第一王子が、それはもう嬉しそうにカルヴィンを呼んで、駆けるように近づいて来た。


「ご無沙汰しております、殿下。それで、こちらが私の婚約者の」


「本当だぞ、カルヴィン。久しく顔も見せないで」




 ん?


 今こいつ、カルヴィンがぼくを紹介しようとしたの、遮ったよな?




「私の婚約者の、ジェイミー・クラプトンです・・・さ、ジェイミー。ご挨拶して」


 第一王子殿下が遮ったにもかかわらず、カルヴィンはそれを無視して先に進めると同時に、カルヴィンの手を掴もうとした王子の動きを、ぼくを覗き込み、しゃがむことで躱して、そのままぼくの背に合わせて並んだ。




 えええええ。


 なんだ、このふたり。




「・・・じぇいみぃ・くらぷとん・・れしゅ。はじめまちて」


 不穏な空気が漂うなか、それでもぼくは、教えてもらったとおりに礼をする。


 頭が思いから、バランスを崩して転んだらどうしようって思ったけど、カルヴィンがちゃんと、触れるか触れないかの距離で守ってくれた。


 有難い。


「上手だぞ、ジェイミー。流石、俺の婚約者だ」


 カルヴィンは、そんなぼくの耳元に唇を寄せて、嬉しそうに誉めてくれた。


 それが、凄く嬉しい。


「カルヴィン。今日は、カルヴィンの好きな物ばかり用意させた。さ、ふたりきりの茶会だ。ゆっくりしよう」


 それでも、第一王子殿下は、ぼくを無視する方向を変えないらしく、カルヴィンにだけ話しかけ、カルヴィンだけを茶会に招くのだと言い切って、カルヴィンの手を取ろうとする。




 うわあ、本気だ。


 椅子が、二脚しかない。




 茶席が用意されているテーブルを見て、ぼくはげんなりするも、カルヴィンは気にした様子も無く、ぼくを抱き上げた。




「ジェイミー。今日のジェイミーの席は、俺の膝の上な」


「う」


 


 凄いなカルヴィン。


 まったく動揺していない。




「カルヴィン!赤子に茶は無理だろう?あちらで、侍従にでも面倒みさせておけばいい。邪魔なだけだ」


「これは()なことを申される。私の婚約者に会いたいと仰ったのは、殿下ではないですか」


「そんなちび!婚約者なんて、認められる筈ないだろ!ボクの方が、ずっとずっときれいじゃないか!」


 冷静なカルヴィンに、第一王子殿下が地団太を踏んで叫ぶ。


 カルヴィンより、明らかに年上なのに、行動はまるで子供。




 はあ。


 ぼくに、どうしろと?




「おい!ちび!カルヴィンから奪ったヴァイオレット・サファイアのペガサスを、ボクに返せ!」


「ふえ?」


 『そういえば、今日会う王子殿下は我儘だ、ってカルヴィン言っていたな・・・本当だったよ』なんて呑気に考えていたら、いきなり訳の分からないことを言いながら掴みかかられそうになって、ぼくはひっしとカルヴィンにしがみ付く。


「殿下。今のお言葉は、ひとつも正しくありません。私は、私の意思でヴァイオレット・サファイアのペガサスをジェイミーに贈りました。そして、そもそもあれは、ジェイミーのために作らせたものなので、殿下にお返しするようなものではありません。あのヴァイオレット・サファイアのペガサスの持ち主は、ジェイミーただひとりです・・・ああ。将来、私とジェイミーの間に子供が生まれれば、やがてその子に継がせることになるでしょうが」


「ほえ?」


 第一王子殿下に素っ頓狂なことを言われて固まっていたぼくは、ぼくの髪を優しく撫でながら言うカルヴィンの言葉に、別の意味で固まった。




 こっ、こっ、子供って!


 うわっ。


 焦らせるから、鶏が復活しちゃったじゃないか!




「そんなカルヴィン!ボクがずっと、カルヴィンと婚約したいと言っていたのに!」


「そのお話は、その都度、幾度もお断りしました」


「どうして!?ボクは、第一王子だけど、フィールドだから王太子にはなれないって、だから公爵夫人になれるよ、って、ちゃんと説明したのに!」




 え?


 そうなのか?


 第一王子殿下は、フィールドだから王太子になれないのか?




「それも違います、殿下。殿下が王太子になる資格無しと判断されたのは、フィールドだからではありません。この国では、シード、フィールドに関係なく、その地位に相応しいと判断されれば、王太子となることが可能です。王太子になれないことと、フィールドであることは、まったく関係ありません」


「だ、だけど!この美しいボクが妻になるんだぞ?嬉しいだろう?何を言っても不敬と言わないから、本心を言ってみろ。愛を囁け」


「いいえ、少しも嬉しくなどありません。殿下の我儘と、贅沢好きで散財好き、おまけに横暴な性格は有名ですから。それなのに『愛を囁け』?冗談も、休み休み言ってください」


「カルヴィン!ボクを愛して妻にしろ!」


「私の妻となるのは、ジェイミー・クラプトンだけです」




 あのう。


 ぼくって、ここに居る必要があるんでしょうか。


 一応、当事者ではあるんだけどさ。




「ああ・・・この馬鹿王子。ジェイが居なかったら、殴ってる」


「ふぁっ!」


 驚くぼくの背をとんとんして、物騒なことを呟いたカルヴィンが、言葉と裏腹に優しく笑いかけて来る。


「なんで・・なんで、そんなちびに、そんな笑顔」


「幸せだからですよ。ジェイミーと居ると幸せなので、自然と笑顔になるのです」


「カルヴィン。ボクと結婚しろ。でないと、そのちびを殺す」


「殿下。もし、ジェイミーに手を出したら・・・王家が入れ替わりますよ」


 


 か、カルヴィン!?


 カルヴィンって、十歳になったばっかだよな!?




 ひやりとするほど冷徹な目で第一王子を見返すカルヴィンを見て、ぼくは身が竦む思いがした。

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