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十、ヴァイオレット・サファイア





 


「さあ、ではジェイミー様。そろそろ参りましょうか」


「う」


 着替え終わったら、何ともう昼で、用意されたパンがゆを『ジェイミー様。今日は、ジョンが食べさせて差し上げますね』って笑顔で言いつつ、その実『汚したら大変』って顔に盛大に書いてあるジョンに食べさせてもらったぼくは、また歯を磨いてもらったところで、移動のため、ジョンにだっこされた。


 


 はふう。


 ミントの香りの歯磨き最高。


 すっきりさっぱり。




 これで母様や父様、兄様達と、心置きなくおしゃべり出来ると、ぼくはうきうきした気持ちでジョンにだっこされて、廊下を行く。




 なんか、ざわざわしてる。


 やっぱり人が多いのか。




 暫く歩くと、外が見える廊下があって、また違う棟に入るのが分かる。


 今のは、渡り廊下みたいな感じかな、なんて思っていると、兄様達の声が聞こえた。


「ジェイ!一歳のお誕生日おめでとう!」


「おめでとう、ジェイ!」


「おめでとう!」


「あーと!」


 駆け寄って来た兄様達に返事をして、ぼくは元気に両手をあげる。




 おおっ。


 兄様達、やっぱり絵になる!


 お揃いの衣装が、素敵すぎるだろ!




 それぞれの色を使っているから、ぱっと見には違う衣装にも見えるけど、その型は基本同じで、それにみんな、他の兄弟の色を釦や刺繍なんかで使っているから、特別感が凄い。


「まあ、ジェイ!よく似合うわ!」


「ああ。可愛いな」


 父様と母様は、すぐさまジョンからぼくを抱き取って、ふたりして頬をつついたり、頬擦りしたりと忙しない。


「ジェイ。誕生日おめでとう。今日は、たくさんの人がジェイミーのお祝いに来ているけど、疲れたら、すぐに下がっていいからな。無理はしないように」


「いやだったら、母様に教えてね。ジェイミー」


「カールにいにも居るからな!」


「クリフにいにもいるぞ!」


「お、おれ・・いあんにいにも、いる!」


 大きな扉の前に立って、父様と母様が言うと、兄様達も居るから大丈夫だと、拳を握って言ってくれる。


 それが、凄く嬉しい。


「う!あーと!」




 だからぼくは、そう言って元気に返事をしたけど・・・パーティって、そんなに危険なのか?




 そんなことを呑気に思ったぼくは、大きな扉が開いた瞬間、思考を停止させた。




 何この、人の群れ!




 とてつもなく明るくて広い会場に見えるのは、着飾った人、人、人。


 その人たちの目が、一斉にぼくへと向けられて、ぼくは目を見開いて固まったまま、母様にしがみ付いて、人波のなかを進んで行く。


「まあ、可愛い」


「あんなに目を見開いて」


「懸命にしがみ付いているわ」


「今日がお披露目だからな。色々なことが、珍しいのだろう」


 囁く声が聞こえて、それが凄く優しい声音だったから、何か受け入れられてんのかなって嬉しく思いつつも、ぼくは結局、愛想を振りまく余裕は持てなかった。


 そしてそれは、父様の挨拶・・ぼくのお披露目でお誕生日だって若干にやけて言ったように見えた父様の挨拶・・が終わった時、別の驚愕に変わる。




 え?


 あれって、カルヴィンだよな?


 ってことは、一緒に居るのは、カルヴィンの父様と母様ってことか?


 なんで、あんな物捧げ持って、こっちに来るんだ?




 父様の挨拶が終わって『お誕生日おめでとうございます』の大合唱の後に、乾杯もした。


 それを契機に、みんなそれぞれパーティを楽しみ始めたように見えたんだけど、カルヴィンと彼のご両親と思しき三人が、こちらへ真っすぐに向かって来る。


 それも、その手に何かを捧げ持って。


「クラプトン伯爵。改めて、ジェイミー殿の誕生日、おめでとう」


「ありがとうございます、クロフォード公爵」


 父様とクロフォード公爵・・っていうんだから、ジェイミーのお父様だろう・・は、にこやかにグラスを合わせるけど、父様、目が全然笑っていない。


 それに対して、クロフォード公爵は嬉しそうに笑みを浮かべているし、公爵の隣で母様と挨拶を交わしたクロフォード公爵夫人も、瞳が優しく笑っている。




 あ、よかった。


 母様は、本当の笑顔だ。


 ところで、あれ何だ?




 両親が挨拶を交わす間、幼くとも公子様って感じで凛と立っていたカルヴィンが、その手に捧げ持っている物が、ぼくは気になって仕方ない。




 何かの台の上に被せられた高そうな布。


 一体、何が出て来るんだろ。


 ・・・いや待てよ。


 高級そうに見せかけておいて、実は手品だったりして。


 だったら、出て来るのは鳩か?




「ジェイミー。一歳のお誕生日おめでとう。心を込めて、君にこれを贈りたい」


 きちんと盛装したカルヴィンが、涼やかって感じの声で言って、その布をそっと開く。


「うわあ。きあきあ!」


 それを見たぼくは、一瞬で目を奪われた。


 きらきらと光を反射する、紫のすっごくきれいな石で出来た翼のある馬。


 決して大きくはない、大人の手のひらに乗りそうなそれは、完全に立体というよりは、レリーフみたいな感じで、髪飾りとかブローチに出来そうな装飾品だった。




 すっごい。


 あの石って宝石か?


 紫水晶、とかってやつかな。


 それにしても、あれペガサスだろ。


 格好いい。


 今にも動き出しそうだぜ。




「気に入ったみたいで、よかった。じゃあ、もらってくれるか?」


「う!あーと!」




 いや、気に入らないとかないだろ!


 そんなに綺麗で格好いいもの。




「まあ!あれは、ヴァイオレット・サファイア!」


「しかも、ペガサスだぞ!」


「そう。そういうことなのね」


 すっかり紫色のペガサスに魅入られていたぼくは、周りがそんな風に囁き合っているのも知らず。


「くっ。やはり、もっと早く消しておくのだった」


「父上。僕も同意見ですが、ここではまずいです」


「なんでだよ!さっさと打ち消さねえと、ジェイが!」


「やるなら、ぼくが」


 父様と、兄様達が、そんな物騒な会話を繰り広げていることも、全然知らなかった。




 ・・・・・なんか、ごめん。



いいね、ブクマ、ありがとうございます。

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