1000年前の記憶
世にも不思議な大樹が眼前に聳えている
この大樹は1000年の時を超えて生きているという
村の言い伝えが残っている
1000年か
気が遠くなる時間の歩みだ
俺は大樹に手を触れて
時間の重みのかけらでも感じられたらな
なんて思っていたら
なんだか眠くなってきた
………
どれくらい眠ったんだろう
随分と熟睡をしてたと言えばそんな気もする
「佐藤、やっと起きたんだ?随分と長く眠ってたね」
声のする方をぼんやりと眺めると
真衣がいる事に気づく
「なんだ、起こしてくれたのか?」
真衣は反応が何か変だった
「あんた、何にも分かってないのね。ここは1000年前の大樹が生まれる時代なんだよ」
1000年前?
寝言でも言ってるのかと一笑しようかと思ったが
どうやらそうもいかないらしい
大樹がない
大樹というより小さな樹木が細々と立っているだけだ
「この小さな樹木は……」
風がサラサラ流れゆく
「未来で大きくなる大樹よ。私はね、この1000年前の世界で3年も生活してるの。佐藤も3年前にこの世界に来たんだけど、あんた3年もの歳月をずっとここで寝てたんだよ」
時代が違う世界
軽く笑い飛ばせないほどに
身の回りの世界があまりにも違っている
本当に過去の世界であることが心の何処かで感じる
ここが本来の世界でないのなら大変だ
「なあ、真衣!未来に戻る方法は知ってるのか?」
真衣が苦い顔をした
空に雨雲が敷き詰められていく
「未来はね、終幕を迎えたんだよ……」