第七十六話:それぞれの考察
語り:
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模擬戦も残りわずかとなってきた時
今年も参戦できなかった
両陣営のトップはそれぞれの思いをもって見ていた
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エーテルト側 メレディア筆頭騎士
「メレディア騎士。後少しで模擬戦も終わりとなりますね」
そう言って近づいてきたのは、副官を務めている女性騎士。
「そうですね。今年も例年と同じような感じで終われそうです。
まあ・・・今年は少し意外性のある場面がでましたけど」
「そうですね」
そう言って2人して同じ方向を見る。
そこには、別の大陸からやってきた6人が固まっていた。
2人の視線は、そのうちの1人に向いていた。
「彼・・・そうとうの手練れですよ。対戦した向こうの騎士、彼には去年どころか一昨年も敗北してます。なのに、彼はそれを引き分けにもっていった。すごいとしか言えませんね」
その言葉に、メレディアはため息をついた。
「そうですか・・・君がその感想をもっているということは、うちの騎士の訓練を一段階強化しないといけませんね」
「・・・えーと」
副官の額に冷や汗が流れる。今でさえ結構過酷ですと言いたいのに一段階あげるというのはと。
それを見て、メレディアは視線を外すことなく言った。
「彼ですが・・・あれはわざとです。狙って引き分けにしてますよ」
「・・・狙って!?」
副官の顔に驚愕という文字が浮かぶ。
「ええ。彼に依頼した騎士、どうやらどちらにも興味を示さなかったようで『負けずに勝つな』と言ったそうです。その結果が引き分け。まさに負けも勝ちもない」
「では・・・彼の実力は」
「ええ。向こうの彼より上です。正直いって我が国に移住してほしいくらいですよ」
そう言いつつも、メレディアはそれが無理だろうと思っていた。
彼は何かやらなければいけないことを抱えている。そんな感じがしたのである。
それも複数。
1つの国に滞在を強制することはできそうもないであろう、それが終わるまでは。
まあ、そのうちの1つについては予想できているが・・・。
少しの落胆を覚えつつ、メレディアは視線を対戦側の騎士に向けた。
残っているのは今戦っている騎士を含めて2人。
しかし・・・最後の騎士に見覚えがなかった。
どうやら、向こうも代理を呼んでいるようだ。
しかもその代理と戦う予定なのが、こちらも代理とは・・・。
「ラウニィがあんな発言をするとは思いませんでしたからね。しかし、彼女の発言で大失敗があったケースがないのも事実。さて、今回のケースはどのような結果になるのでしょうかね?」
そんなことを考えながら、彼女はその時を待っていた。
「・・・ところでメレディア騎士。結局今年も私は参戦許可もらえず行き遅れに1歳加えることになったのですが。そこのところ、どう思っておられるのです?」
「・・・わたしなんて筆頭騎士になってから一度も参戦させてもらえず何年たってるでしょうね?」
筆頭騎士はこの国最強。故に大勢の見る前での敗戦は今後の指揮にもかかわる。
やるまえにその結果が起きるなんてわからないのに、起きたら大問題だからと模擬戦参加をさせてもらえない女性騎士。
彼女が強い騎士に巡り合えるのは・・・いつになることやら。
余談だが、副官はただの巻き添え。
そろそろ謀反起こされそうだから来年は参加させてあげようと、ひそかに彼女は思っていた。
グリアス王国 騎士団長アジール
「いやはや・・・彼が引き分けになるとは予想できませんでしたよ。向こうの代理者、騎士ではなさそうですが強かったですね」
そんなことを言ってくる副団長に、アジールはため息をついた。
そして「彼をここに」と言って騎士を1人走らせ、話題となった騎士を呼びよせた。
「騎士団長。申し訳ございません」
やってきた騎士はそう謝罪の言葉を述べるが、表情はむしろ敗北者の顔であった。
副官はその表情を見てすこし違和感を感じていた。
「どうであった?向こうがたてた代理者の実力は?」
「はっ!恐れながら申し上げますが・・・今の自分の実力ではどうあっても勝ち目がなかったかと」
「!?」
「そうだろうな。私もそう感じた。あれは・・・相当な手練れだと」
「恐れ多くも申し上げるなら・・・副団長でも真剣勝負をすれば恐らく」
「なっ!!?」
「であるな。私もそう感じた。貴重な意見感謝する。戻って体を休めるがよい」
「はっ!今度は『狙って引き分けにされた』などとならぬよう、一層訓練に励む所存です!」
そう言うと騎士は敬礼をして控え所に向かうのであった。
その後ろ姿を副官は、あごが外れたような表情をして見送っていた。
それを見て、アジールは苦笑した。
「本当に気づいていなかったか。相手の男、それほどの相手であったということだ。
速攻で決着ついたので難しかったかもしれないが、あの試合は『狙って引き分け』にされたのだよ。
こちらにいてくれたら、向こうの副官殿がでてきても勝ててたであろうな」
「・・・まさか、それほどとは。自分も訓練不足のようですね。相手の実力を見抜けないとは」
「まあ、騎士ではないからな。判断しづらい点もあっただろう」
それでも、それを見抜いたアジール騎士団長に尊敬のまなざしを向けるのであった。
「さて・・・最後のあやつはどうなるか。それが今もっとも頭の痛い案件だな」
「ですね・・・向こう側に不愉快な思いをさせることになりそうで、胃が痛い思いですよ」
「ただ・・・向こうも代理を立てるようだ。いったいどんな戦いを見せてくれるものか」
「・・・ですが、頭の痛いことにあやつの実力は間違いないもの」
「『彼女』がたてた代理のようだが・・・果たしてな」
『彼女』のことはグリアス王国にも伝わっていた。
現に、その話を聞いて魔獣被害を回避できた実績もある。
そんな人物が自分の代理に選んだ男・・・果たしてどれほどのものか。
2人の興味は、今目の前で行われている模擬戦よりそちらに向いていた。
「・・・ところで、メレディア騎士は今年も参戦がなかったな。来年は・・・どうだろ?」
「・・・仮に参戦されるとしても、アジール騎士団長がでるのを許可されるとは思えないのですがね」
「それはこまるぞ!?私の将来の計画に支障が・・・!」
「というか、面倒だから・・・模擬戦関係なく終わった後で一度プロポーズしてこいや。
上手くいけばいいし、上手くいかなければ笑い話にして語り継いでやるよ」
「おまえ・・・俺、団長だぞ?扱いひどくないか?」
「7年も片思いこじらせてるおっさん見続けるこっちの身にもなれ」
アジール騎士団長。筆頭騎士になる前からメレディア騎士に一目ぼれ。
何度か模擬戦に参加することがあれど彼女と対戦が組まれたことがいまだ無し。
そうこうしているうちに、2人とも「騎士団長」「筆頭騎士」にまで上り詰めて模擬戦参加の許可をもらえなくなってしまったのであった。
ある意味似た者同士ではある。
立場を気にする上のおかげで、最強の称号をもらうと模擬戦に参戦させてもらえなくなる騎士たち。
果たして、その称号は「栄誉ある称号」なのか「不遇の称号」なのか。
というか、ぶっちゃけるとトップは両方の国共通の考えを持っていて
「模擬戦じゃなくても、普通に告白してもいいんだよ?」と思っている。
騎士の実力を重んじる風潮が強くなり過ぎた結果、模擬戦で問題解決させようとしているけど
恋愛に関してまでとは思っていない。




