閑話:湖の魔獣 前編
語り:
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森に現れた神狼
この国の全戦力をもって相対しなければならないのか
そして湖の魔物の正体とは
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森に現れた巨大魔獣討伐依頼を受けたバウンサー達が拠点とする村に到着したころ。
街にあるバウンサー組合の施設に一人の男が戻ってきた。
「あ、組合長!おかえりなさーい!」
リュンが笑顔と共に大きな声で出迎える。
「あー・・・久しぶりに聞くとその大声が響くなぁ。ともあれ、ただいまっと」
若干の頭痛を訴えながら、男は自分の席に着いた。
驚くことなかれ、組合長という肩書を持ちながらこの男は組合長室にいないのである。
受付カウンターそばに机を置いて、そちらに座って仕事をしているのがもっぱらである。
というのも、この国のバウンサーはある意味優秀で「依頼の帰りに魔獣見つけたから討伐してきた」という感じに依頼を出す前に問題の魔獣討伐などをやってしまっているのである。なので、ぶっちゃけ仕事が少ない。国の規模としては。なので一々組合長室にて報告を受け取る時間が無駄として受付カウンターにいる。たまに受付業務をしたりもする。
受付担当にはありがたい上司だが・・・組合としては仕事はちゃんと分けてやれと言いたいのだろう。ある意味厄介者扱い。
なので・・・大国の組合にいたのにこちらに移動になったのである。
それがこの男、レックスである。
「おじさんがいない間になんか問題でもあったかなぁ・・・と・・・。どうやら、とんでもない問題があったみたいね」
机の上にある報告書の一番上、それを見た瞬間顔をゆがめていた。
「やれやれ・・・湖でとんでもないこと起こってると思えば、森でもかい。厄介極まりないね」
そう言いながら、調査書類を見ていく。
「なになに・・・ふむふむ・・・対処方法としてはいいね。合格だ」
「ありがとうございます!この国のバウンサーさん達は向こうに行っちゃってますし「ただ人選は不合格」はい?」
受付嬢として、今回の対処方法をとった部分に関しては褒めてもらえたが、その後すぐに不合格をもらっていた。
「あの・・・人選?」
「まあ、確かに魔獣討伐依頼を達成したことのあるバウンサーに依頼しろという命令はだしたのはおじさんだからあまり強く言えないけど・・・この人選はないね。討伐依頼の履歴項目、ちゃんと見たの?」
「えっと・・・全員分見ましたよ?最後の子だけ、自分でも不安でしたけど」
「いや、むしろこの子は一番いいと思うね。勘だけど。あとは・・・この2人組くらいじゃないかな?あとは全然ダメ」
「けど、他の方々の討伐履歴は結構いいものと思いますけど・・・」
「どう考えてもおかしい履歴だから。まだマシなのがラングっていうこいつくらいか?」
「あの・・・組合長。おかしい履歴というのはどういうことです?」
そう言って、残りのメンバーの経歴書を並べて言っていく。
「バレンシア、元々いた地方にいない魔獣の討伐履歴あり。スルア、海の魔獣討伐経験ありとあるけどこの地方は海に面していない。アーネ、中級以上が2体いた場合の交戦記録なしの小型専門。今回の巨大魔獣には向かんでしょ」
言われてリュンがよく見ると・・・スルアに関しては彼女でもわかるものであったことに今気づいてしまった。
「・・・あう」
「ダン、アーネと同じだが一応中級との交戦経験はあるみたいだから少しマシ。デリオ、こいつの前の活動拠点だった国は砂漠なのになんで森での経験ありなんだ?最後にザム。はっきり言って最悪。こういうやつの情報は受付嬢ちゃんにも見せておくべきだったなぁ・・・これに関してはおじさんの落ち度だね」
そう言って引き出しを開けて・・・重要書類と書かれた紙の束を出してめくりだし、とあるページを見つけてそれをリュンに渡した。
「えーと・・・え・・・はいぃぃぃぃ!?依頼人への暴力行為。依頼を完遂していなかったのに完了報告あげて依頼料だまし取り。果ては所属旅団からの解雇履歴あり!?おまけに魔獣の数に怯えて味方ごと攻撃したとの報告まで・・・泣きそう」
とんでもない・・・今回のような初対面のメンバーで集まってやる依頼にはまったく向かないであろう人物であった。
この結果には、さすがにリュンのうなだれて膝まづいてしまった。
「まあ、おじさんがもうちょっとこういう書類とか見せるようにしておればよかった部分もあるけどね・・・あとは、その魔獣がそれほど脅威じゃない個体であることを祈るばかりか・・・こんなことなら、最後に合流したソロ活動の人をこちらに回せばよかったなぁ」
「・・・その人は、優秀なんですか?」
リュン、涙目。レックスもさすがに可哀そうになってきたので頭をなでなで。
「優秀だよ。なにしろ・・・元『銀の双刃』に所属していたメイル乗りさんだからねぇ」
場所は変わって、問題の湖のそば。
大規模な人数になるので、街を拠点とするのは難しいと判断しそれぞれのトレーラーなりテントを立てて場所を確保していた。
そんな建てられたテントの中でも一番大きなテント。そこは代表者たちの会議場所となっていた。
「さて・・・これより作戦前の最終確認をとる」
今回の指名依頼を受けた旅団の団長が、見渡しながら言う。
「作戦は明日の日の出後、まずは事前取り決めのとおり街の港から無人の船をだす。餌用に保存していた魔獣の肉を乗せてな。ただ流すだけなら無人でも問題ないので、この船を囮にする」
そう言って、机の上に出していた地図に船の形のコマを動かす。
「明日の天候予想だと雨は降らないし風もいつもくらいだろうと街の漁師が言っていた。流すだけなので時間がかかるが1時間ほどで目標地点辺りには到達するだろうとのこと。不測の事態に備えて我々は船を出した10分後より作戦開始のため最終準備を始める」
次に、自分たちのいる地点の湖のほとりに、複数のコマを置く。
「海面に黒い影が見えたと同時にメイルを起動。これはそのタイミングまでこちらの動きを察知されにくくするためだ。そして、船を襲い海面から飛び出した水しぶきが上がった瞬間に遠距離のできるメンバーで先制攻撃を加える」
最後に、置いていたコマを後ろにずらし別のコマを並べる。
「巨大魔獣はほぼ例外なく、自信を攻撃してきた者を対象に動く。予想通りなら攻撃を加えた後こちらに向かって移動してくるだろう。あとは・・・まあ、総力戦だ」
「・・・最後までバシッと占めてくださいよ、団長」
となりにいる副団長が少し呆れたような顔をしていた。
「仕方ないだろう・・・水の中にいる巨大魔獣なんて討伐経験ないし。最後は臨機応変に行こうとしか言えん。それとも、この場にそういう魔獣との経験がある人物でもいるのか?」
その発言に、誰からも回答がないだろうと思っていた・・・だが、例外はあるものだった。
1人の男が手を挙げた。成人した子供がいてもおかしくないくらいの年齢の男だった。
「あなたは、交戦記録があるのか?」
「ええ。以前所属していた旅団の時に。もっとも、巨大魔獣ではなく大型魔獣なのですが」
「それでも、行動の目安にはできそうだ。ありがたい「ええっ!?」って、いきなり大声だすな副団長」
ぜひ話をと思っていたらいきなり隣で大声あげられてびっくりしていた。
しかし、次の彼の言葉でさらに驚きが広がった。
「も・・・元所属旅団って『銀の双刃』だったんですかぁ!?」
「「「なにぃぃぃぃっ!?」」」
この場にいる全員が知っている旅団。つい先日、解散したことも含めて。
「ええ、まあ・・・」
「なら是非もない。その時のことを踏まえて今回の対処方法に意見があれば教えてもらいたい」
団長がそういうと、男は少し困った顔をして言った。
「我々が取った行動も似たようなものなので問題ないかと。相手の規模によってどうしても臨機応変にならざる場面はありましたからな。ただ・・・気になる点が一つ。水の中に生息する魔獣で『巨獣』が本当にいるのかという点です」
旅団「銀の双刃」
序章にて解散した旅団。この大陸内では知らないほうがおかしいくらいに数多くの難事件を解決していたバウンサー集団であった。とある地方にある港町の湾内に大型の魔獣が出現した時、多くのバウンサーが返り討ちにあったが彼らが見事に討伐した記録も残っている。水の中にいる大型魔獣討伐の討伐記録を持っている旅団は、この旅団を含めて「世界」で数か所あるくらいとされている。
解散後、一部のメンバーは集まって行動。故郷に戻って静かに暮らすものや、故郷で警備役を行っていたり、組合員になったものもいる。中にはソロで活動をしている者たちもおり、今回やってきた彼は「少量の遠方への届物の依頼」を専門で請け負っている。届け終わって戻る途中この国に立ち寄り、今回の話を聞いて「戦闘は自信ないけど、交戦経験が役に立つかも」と思い参加を表明している。
有名旅団のメイル乗り、として紹介されているが・・・年が年だからと後方支援組であった。




