第五十七話:神狼
語り:レクス
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ミストさんが戻ってきたことだけがよかったこと
後は最悪のケース
相手は、神をつけて呼ばれる魔獣だった
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呆然としているうちに、周りから影が飛び出してくる。
小型、中型の大きさと言える狼たち。
そいつらは迷うことなく、兵士や馬を襲い始める。
対処に送れた数名の兵士と、馬が餌食になった。
森に響きだす、肉を噛む音。
『こ・・・こいつらぁ!』
そういって恐慌状態になったザムが魔銃を撃つ。それが兵士を巻き込んだ攻撃になることも気づかずに。
小型種数体と、襲われていた兵士が一緒に吹き飛ばされる。
『馬鹿野郎!兵士もいるのを忘れたのか!』
ラングが怒鳴る。しかし、恐慌状態になっている者にはまったく届かなかった。
『うるせぇ!さっさとこいつらを撃ち殺さないと、今度はこ!?』
そう言って魔銃を向けたその目の前に、巨大な口が迫っていた。
グシャッ・・・
そんな音を響かせ、巨大な口にそのメイルは頭部から胸部にかけて被りつかれていた。
そして、顔をあげると・・・そこには噛まれた後となったメイルの腰から下が残り、次の瞬間にゆっくりと後ろに倒れた。
『ひ・・・ひぃぃぃっ??!』
スルアが悲鳴を上げて後ずさる。
その悲鳴を聞いて、その巨大な獣は口を動かしながら無造作に腕を振るった。
ただ、葉っぱを切り裂いただけという感じに・・・メイルの上半身は4本の爪が走った状態に切り裂かれた。
そして、飛び散る血。
『くそ!・・・これはもうだめだ、生き残りは荷物を全部捨てて逃げろ!』
そう言いながら、ラングは魔銃を盾を構えて巨大な獣の前に立つ。
『お前はどうする?』
ダンがその横に立ちながら聞く。
『こんな間抜け晒して逃げれるか・・・森を甘く見過ぎていた俺の不始末でしかない。せめて、お前らの逃げる時間を稼いでやる。無事生き延びたら・・・こんな大馬鹿野郎がいたってこと組合で語り草にしてくれや』
そう言って、影から眼を放さずに油断なく構える。バウンサーとしての力量は確かにあったのかもしれなかった。
『・・・アーネだったか?最初にやられたそのメイル、搭乗席はかろうじて免れている。そいつを回収して撤退しろ』
『君は?』
『これでも一応、故郷では狼ハンターと言われていた。このまま逃げることは故郷に泥を塗るだけ。・・・生き残れる自信はないが、せめてその名に恥じぬ最後を成し遂げるまで』
『さっさと行け!そう時間を稼げる自信はない・・・すまないが、後は頼んだ!』
そう言って、ラングが攻撃を開始する。逃げやすいように、わざと影の視界を邪魔するように。
一拍遅れて、ダンも動き出す。走りながら森の木々を盾にするように移動しながら攻撃を開始する。
アーネは、その直後に行動開始。
倒れているメイルに近寄り、強引に搭乗口を引っぺがす。
搭乗席の一部が壊れ、その破片でケガしているミストを捕まえてそのまま走り出す。
中型の狼種が邪魔をするが、そいつらに負けるほど弱くはなかった。数発の魔弾を充てることで討伐と牽制を行う。
そして、包囲を突破してそのまま走り出そうとしたとき、機体に強い衝撃が走る。右側から。
そちらに視線を向けると、右腕がなくなっており・・・視線を後ろに一瞬回すと、影が腕を振るっていた後だった。
一瞬、その風圧でと思ったが・・・足元にメイルの足首があったことと、そいつの足元にメイルの下半身があることから
すぐにそれを飛ばして破壊されたと理解する。方法はわかったが・・・普通の魔獣ができる芸当とは思えなかった。
しかし、それらもすぐに横に置いて、一直線に村を目指して走るのを再開する。
後ろで戦う2人と・・・3本の巨大な尻尾を揺らして魔弾を気にしたようなそぶりも見せないオオカミの視線を受けながら。
「・・・最悪だ。想像以上に最悪だ」
もう、それしか言えなかった。
森に入ってからの行動、無警戒さ。森に遠足でも言っているのかと言いたい。
「・・・すまない」
そう言って、アーネが頭を下げる。
他の生き残りの兵士たちも悔しそうな顔をしている。
「謝られても意味がない。無意味だ。・・・それよりすぐにこの村から移動するんだ。次の滅亡する村をここにしたくないのなら」
怒りの感情をこめて言う。
「ウォートさん、今すぐミストさんをトレーラーに乗せて街に向かってください。治療は残念ですが、街についてからから一緒に数名乗せて移動しながらしてもらってください」
「穏やかじゃないな・・・何か知っているのか?説明してほしい」
そう言ってこちらを見てくる。
本当は説明している時間もおしいのだが・・・説明しないと理解できないか。
恐らく、話は聞いたことがあるのかもしれないくらいってだけで「ソイツ」と結びつかないのかもしれない。
村人に視線を向けながら言う。
「申し訳ございません。可能な限り荷物をまとめて、滅んだ村に移動してください。そこなら多分安全だと思います。
ただし、森に同行した兵士の方々はそちらにではなく街のほうへ向かってください」
よくわからないという顔をする村人や兵士の方々、そして3人のバウンサーに説明をする。
「ほぼ間違いなく・・・森に現れた巨獣は『神狼』です」
そのセリフに、完全に沈黙が訪れた。
「あの・・・シンロウって言うのは、なんなんですか?」
村人の青年が手を上げながら言う。
そっか・・・うん。この一言でわかると思ってなかったけど、そこからかぁ。
「時間はありませんが、説明します。神狼とは、その名に神の文字が入っていることで予想できる方もおられるかもしれませんが・・・分かりやすく言うなら『1体で小国の騎士団を壊滅させることができる』個体のことです」
「「「なぁ!!!?」」」
全員の顔に驚愕という文字が浮かぶ。
「その上に『神獣狼』という種類もいますが・・・こちらは『1体で大国の騎士団と渡り合える個体』です。まあ、歴史上に数えても片手で数えれるくらいしか目撃例がないので覚えておかなくてもいいかもしれませんが、神狼クラスの巨獣はそれなりに目撃例があります」
それなりに目撃例があるとは言うが、だいたいが森の奥深くか山間部である。普通に活動しているバウンサーが出会うことはほとんどない。
だが・・・今回は違う。おそらくこちらが相手のテリトリーに入ってしまった。だから、こちら側のテリトリーにやってきたのだろう。
「ただ、この巨獣を警戒する最大の理由、みなさんに移動を早くしてほしい理由は『この巨獣は一度嗅いだ匂いを忘れない』ということです」
「「「!!!」」」
アーネと兵士たちが完全に顔を白くする。
そう・・・彼女たちはヤツと対峙している。確実に匂いは覚えられている。
そして、一緒にいたメンバーはヤツに攻撃したうえですぐそばで同胞の命を奪っている。
間違いなく、報復に来る。
「ヤツは、一度襲った村にやってくる確率が低いです。一度『滅ぼした』という認識になるので、餌場に適さないという考えになると予想されるとのこと。なので、村の方々はそちらに移動してもらい・・・森に入ったメンバーは街に向かってヤツのことを伝えてください。いそいで!」
その最後の言葉を受けて、全員あわただしく動き出す。
よほど必死だったのだろう。僕の行動を見ているものがいないくらいに・・・
神狼
狼種の巨獣。その中でも特に魔力を吸収して能力の上がった個体に付けられた呼び名。
特徴は尻尾が3本になること。1~2本と3本では明確に能力差が出ることが判明しているもよう。
とにかく雑食。口に入るものなら何でも食べる。
凶悪な牙を持ちメイルすらかみ砕けるが、別に金属が好きなわけではない。
胴体に魔力を蓄積する器官をもっている。
図体に見合うような巨大な脳を持っており、狩猟に関しては高い知性を発揮するがそれ以外にはあまり発達していない。また、少しでも傷をつけられるとそれだけで致命傷になるもよう。
なお「神獣狼」に関しては登場予定は今のところなし。
尻尾が5本になり、毛の色が真っ黒になった姿で目撃されている。4本の個体は現代にいたるまで確認されたことがない。
また、過去文献による情報で「1体で大国が滅ぼされた」ことが確認されている。




