小さな勇気
小さな勇気を出して、しょーもない事をする話
「ねえねえムッたん、学校帰りに驚安の王堂へ行かない?」
「シーコは何か買うの?」
「ふふん♪ ちょっとね?」
「ふーん? 何を買うか気になるし、付き合うよ」
「よしっ、決まり! ……ねえ、イマちゃんも行く?」
〜〜〜〜〜〜
はい、イマちゃんと呼ばれた女子学生です。 本名はもちろん別にあるけど、あだ名が浸透しちゃったのでイマとばかり呼ばれてます。
ちなみになぜイマかって言うと、整列で身長順の1番前だからです。
これは小中高ずっとそうで、万年1番前だから。
それで万年前でママと呼ばれそうだったけど、全身を使って全力で拒否した結果、なんとかイマに変更してもらえた。
この身長だけど、男だった前世から万年最前列だったけど、今世はちょっと輪をかけてひどい。
中学1年の女子平均身長位で成長が止まってしまった。
それで遺伝子的な病気か何かなのかと病院で検査してもらったけど、異常なし。
いやもう、ホントにひどいよね。
唯一の救い……と言って良いのか分からないけど、ボクは女子に転生したけど、その環境に慣れて生活できているのは良い事と言って良いと思う。
そうそう、この世界は前世の地球に酷似した異世界だった。
科学技術が発展し、環境対策が発達していないので各国が環境汚染に悩まされ、何かの理由で国々は戦争し、世界経済は先行き不透明。
みんな色々と悩みを抱えながら生きる、前世の社会そのまんまな異世界。
でも違うところが有る。
なんとこの世界、かなり都合が良く便利な魔法を人類みんな例外なく使える世界でした。
お陰でガス水道とか無くても生活できるって事で公共料金が前世と比べて安いのは嬉しいよね。
イメージ次第で発動して、色々な事が出来る魔法。
そんなのが有ったら攻撃魔法で治安が乱れる?
大丈夫。 世界がそれを許さないから。
この世界は実に都合が良くてね、悪い感情をもってる人だったり戦場で人が魔法を使うと、どこからともなくマモノが現れて魔法を使った人を粛清して消えていく。
原理不明解析不明な事象がある。
出現条件は解明されてるけど、それをギリギリですり抜けようとするズルい事をしようとしても、同じくマモノが粛清しに出現するっていう不思議事象。
お陰で魔法に頼らない研究が並行して行われ、地球と変わらない科学技術を持っていると。
〜〜〜〜〜〜
このムッたんとシーコはボクの友達。
ムッたんは黒髪清楚クール系ジト目の女の子で、シーコは茶髪に脱色してちょっとだけメッシュを入れたイマドキ女子。
2人共ボクなんかを構ってくれる、優しい子達。
元々男だから女友達って抵抗が……なんて事は小学生の頃に克服した。
だからって女友達と気の利いた楽しいおしゃべりが出来るようになった訳じゃない。
こればっかりは、前世でも無理だった。
だからボクを、喋るのがあまり得意じゃない子として周囲に認知してもらって、こうやって気にかけてくれる優しい子達と行動して友達として見てもらってる。
「いや〜、買ったねぇ!」
「シーコは買いすぎ。 買うものって新しいコスメとかだと思ってたら、お菓子ばっかり。 太るよ?」
「大丈夫大丈夫! 毎日1つとか2つずつ、チビチビ食べるからさ」
「本当? シーコは前もそう言って、後に太ったから一緒にダイエットしてって運動に巻き込まれたんだけど?」
「大丈夫! 今度こそ欲に負けないから! 多分! きっと!」
「ダメじゃん……」
「ゔっ……」
ムッたんとシーコは仲良くおしゃべりしながら、店内を歩く。 ボクはその2人に挟まれながら、仲がいいよなぁとほのぼのした気持ちのまま歩いた。
挟まれながらなのは、ボクの身長の問題。 前に来た時に、それで2人がボクを見失って、迷子の呼び出しをしてもらおうと駆け出したからだ。
駆け出した直後に制止する声をあげなければ、マジで迷子扱いされる所だった。
ペンギは客が多いからね、身長の低いボクは埋もれやすくて見つけにくいんだ。
それで階段近くにあるベンチでちょっと休憩って流れになったけど、そこで話を振られた。
「イマちゃんもココでなにか買うものってある? あるなら付き合うよ?」
シーコの気配りが嬉しい。 1人ほとんどしゃべらず付いてきて、影が薄い状態のボクの存在を忘れずに居るのが。
「ありがとう。 でも買うものは無……いや、あったね」
無い。 と言おうとしたら、直後に2人ともなんか申し訳無さそうな悲しい顔になりかけていたので、訂正する。
実際に、なにかきっかけが有れば買おうかなと考えていた物は有ったし。
すると2人の顔がパッと明るく変わり、物凄くキラキラした目でボクに迫る。
「何買うの? ねえ、何買うの??」
「大したものじゃないよ」
「教えて教えて?」
「ついてくれば分かる」
「いじわるー!」
なんてやり取りをし、やって来たのは小物魔道具……前世で言う電気小物コーナー。
そのコーナーを前にしたら、ムッたんとシーコは急にテンションが落ちた。
「………………え?」
「………………」
いや、落ちたと言うか、反応に困っていると言うか。
そんな様子を無視してボクがこの機会だからと買おうとしたのは……。
「……完全防水……強さランダム機能……最大24時間連続稼働…………あった」
「いや、イマちゃん、今ちょっとだけ待って!?」
「ん?」
シーコが慌ててボクを止める。
「コレ、なんだか分かってるの!?」
「これ?」
「そうそう、コレ!!」
商品が見えるよう、切り抜かれている部分がある白い化粧箱に入ったソレを指さして、シーコが騒ぐ。
ボクが持つソレは、太く大きなスティック状で、先端がくびれてて丸くなってて、スイッチを入れるとブルブル震える。
「マッサージ機でしょ?」
そう。 コレ自体は何の変哲もない、至極真っ当な手に持つタイプのマッサージ機。
母が家の中で「はぁ〜〜疲れた〜肩凝った〜」と言いながら、肩や首すじに当ててマッサージしていたソレ。
母に使わせてとお願いしたら、自分で自分専用のを買いなさいと言われ、使わせてもらえないソレ。
ソレに対して、なんでそんなに挙動不審になりながら慌てているのだろう。
「い………いいいいいいや、いやいや。 そうなんだけどね? でもね? ソレを本当に買うの?」
「親に自分の分は自分で買えって言われたし、コレはそれほど高くないし、肩凝りが酷くなってきたし丁度いい機会かなって」
肩凝りは本当の事だ。 身長は低いくせに、なぜかボクの胸は同年代の平均以上に重くて、それを女子がからかって揉んでくるから困る。
普段はこんなにワタワタしないシーコの様子を楽しみながら、ボクは事実を言い返す。
…………のは良いけど、同時になんかムッたんが静かだなーと思っていたのだけど、当のムッたんは顔を真っ赤にして「勇気あるんだ、すげー、すげー……」とブツブツ言いながらボクをボンヤリと見ているだけだった。
シーコはシーコで長々とボクを止め続けていて、そのしつこさにイラッと来たから、言ってやった。
「もういいよ。 買ってくるから、そこで待ってて」
この言葉を残し「本当に買うんだ、すげー。 私も買っちゃおうかな……」なんて言葉も聞き流し、レジへ向かった。
…………なんてモノローグをしてみたけど、内心は心臓がバクバクしてる。
だってマッサージ機の間違った使い方を知っているから。
前世の人生経験もあるんだし、そりゃあソッチの知識が無いなんてないし。
それで、通販だろうとなんだろうと、ソッチの知識があるせいで自分で買うのにとても勇気が必要になっちゃって。
だからこうやって、イライラして振り切るように勢いで買うってすれば勇気が出せるんじゃないかな〜って。
お陰で、外見は見てないから分からないけど、レジに向かうボクの足は体感でガクガクいってる。
ああ、この程度で動じない、強い勇気があれば友達を踏み台みたいにする必要は無かったのに!
マッサージ機の箱を握りしめたまま、ボクの心に罪悪感が上積みされた。
無知っぽいのに、ムッたんやシーコが電マを見たリアクションの意味を理解してない描写を入れていない理由ですね。
つーか低身長の子が電マを持っている、ありえない光景よ(苦笑)
日常生活で勇気を出すときってどんなモノかな?
と考えた結果。
これにより作者の自分が、勇気を題材に書くとロクでもねぇネタに走る事が確認できました。
なおムッたん、シーコ、イマ等の登場人物の名前はテキトーにつけたものですので、由来とかは有りません。