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06_アマルニアの事情が思ったよりも深刻そう

 


 さらに馬車に揺られて5日。私たちはアマルニアの王都へ入り、ついに王族との謁見に参上することになった。


 ご挨拶が終わり、シメイズでのことをぼかしながらも、予定していた通りのことを口にする。


「どうか、ミカル殿下をロミアへ送り届けてはもらえませんでしょうか」


「えっ!?」

「え?」


 なぜか驚きの声をあげたのはミカル殿下だった。思わず私も反応してしまう。

 殿下は大きな目がこぼれ落ちそうなほど目を丸くしていた。

 昨日はあんなに嬉しそうにしてたのに、いきなり切り出した私に驚いちゃったのかな?

 でもこれに関しては早ければ早いほどいいと思うのだ。


 けれど、予想外の反応だったのは、アマルニアの皆様も同じだった。


「……シメイズの王子殿下と聖女様が、ついに我が国を助けに来てくれたのではなかったのですね……」

「……え?」


 王妃殿下の呟きに顔を上げると、さっきまでにこやかに私達を迎えてくれていたアマルニアの国王陛下、王妃殿下をはじめとしたその場にいた皆様が、一瞬で暗い顔になっていた。


 話を聞いてみると、どうやらここアマルニアは私の想像よりずっと状況が良くないらしい。


「ロミアとは確かに友好国だが、あちらの国に渡る術も今はないのだ。あまりにも危険すぎて命の保証ができない……できることならば、王子殿下をロミアへ送って差し上げたいところだが、申し訳ないが期待には応えられない」


 国王陛下の言葉に嘘はないようだった。

 結局、その場はそのまま諦めるしかなかった。



 ◆



 ロミアは穏やかで落ち着いた国だけれど、その分他国からの入国には厳しい制約と審査を設けている。

 このご時世に少しでも平和を維持するにはそれくらいしなくてはならないのが現実だろう。

 おまけに、ロミアとアマルニアの間には他に2国ほど存在している。その全てで手続きが必要になるのはなかなか大変な気がする。

 だからこそアマルニアを通してミカル殿下をロミアに送り届けてほしかったのだけれど……。


「だけどこうなったら、やっぱりダメ元で私が直接ロミアまでミカル殿下をお連れするしかないか……」


 街中に戻り、歩きながらそんなことを考えていると、くいっと袖口を引かれて我に返る。


「……レナ様は、僕がお邪魔ですか……?」

「ええっ!?」


 少し小さいとはいえ私とそう背丈の変わらないミカル殿下が、ちょっと顎を引いて上目遣いでこちらを見つめていた。

 あざとい……!


 じゃなくて!


「邪魔だなんて! そんなことはありません! なぜそのように思うのですか?」

「だって……僕をロミアへ送るって……」


 ん? ロミアへ行くことについては喜んでいたんじゃなかったっけ?


「ロミアへ行けばきっとミカル殿下は安全を保障してもらえます。穏やかに、落ち着いた生活ができますよ? 生贄にされそうになったシメイズとは違って、大切にしてもらって好きに生きることができます」


 生贄にされそうになったことでナーバスになっているのかも? と思いそう言ったのだけれど、なぜかみるみる顔を青くして絶望したような表情になってしまった。

 え、え、どうしよう。なんで……?


 内心焦っていると、ミカル殿下は急にがばりと私に抱き着いてきた!


「お願いです、僕はレナ様と一緒にいたい……! レナ様のお側にいさせてください!」

「わ、わ、わわわ……!」

「あなたのためならなんでもします! だからどうか、ずっと僕の隣にいてください!」

「う、う、ううう……!?」


 言葉にならない私のことを、抱き着いたままの体勢でそっと見上げると、ミカル殿下は顔を真っ赤にしてさらにもう一声。


「こんな僕じゃ……僕…………ダメですか……?」


 ギュウウ!!

 耳の奥で、心臓が鷲掴みにされる音が聞こえた――。


「だめじゃ、ありません……」


 この可愛さを前に、それ以外の言葉が言えるだろうか?

 いや言えない。


「本当ですか! よ、よかった!」


 より抱き着く力が強くなったミカル殿下に、私のなけなしの理性が溶けていく。


「あの、私もその、ぎゅってしても……?」

「!! は、はい、もちろんです……!」


 許可はもらった。同意の上ならセクハラにはならないよね?

 お言葉に甘えてぎゅっと抱きしめ返す。なんだかミカル殿下、お菓子みたいな甘い匂いがする気がする。


 それで我慢の限界だった。


「っああー! 可愛いっ! ミカル殿下、どうしてこんなに可愛いんですか!?」

「か、かわ……?」

「はい! 可愛いです! ダミアン殿下とはぜんっぜん違います! 本当に可愛い!」

「兄上とは、全然ちがう……」

「はい、全然ちがいます! これっぽっちも似てません!」


 そう、全然違う。ダミアン殿下は確かに王子様らしく美しい顔をしていたし、それでいて妙に色気があり夜の貴公子なんて言われて女性にモテモテだった。

 でもそれだけ。

 私に言わせれば顔がいいだけの、調子にのった最低野郎だった。


 いつも私を嫌なものを見るような目で見て、馬鹿にして、一緒にいるとお小言ばかり。

 私に限らず、いつも誰かの何かにケチをつけていて、人を褒めているところなんて見たこともない。物腰が紳士っぽいだけの自己中ナルシストだった。

 あ、いや、クリスティナ嬢のことだけはベタ褒めだったっけ?

 よく考えるとそれも含めて最低よね。


 でもミカル殿下は違う。

 こんな可愛げあのダミアン殿下には一ミリもなかった。顔が違うとか、年齢とかそういう問題でもなく、性質的なものだと思う。

 こう、なんていうか滲み出るものってあるもの。

 本当に半分とはいえあの男と血が繋がっているなんて嘘みたいだわ。


「本当に可愛いです。ハア。私、兄しかいなかったので可愛い弟って欲しかったんですよね」

「オトウト……」


 そこで我に返った。

 やばい。ミカル殿下の可愛さに興奮して調子に乗りすぎた。

 前世ではお兄ちゃんしかいなかったから、弟が欲しかったのは本当だけれど。ちなみに今世の兄はもはや家族ともカウントしないこととする。


 そっと抱きしめていた体を離す。

 ミカル殿下は呆然としていた。


「す、すみません。はしゃぎすぎました……。ミカル殿下を弟だなんて、不敬でしたね……忘れてください」


「いえ、いいんです。……いいんです」

 許しの言葉にホッと息をつく。


「よかった、気を悪くさせてしまったかと思いました」


 ミカル殿下はくるりと向きを変えて歩き始めた。私もその隣に慌てて並ぶ。


「………………今はまだそれでいいです」

「え? ごめんなさい、なにか言いました?」


 殿下はパッと顔を上げると、にこっと満面の笑みを見せてくれた。


「いいえ。僕、頑張りますねっ!」

「? はい、頑張りましょうね!」


 一瞬何を? と思ったけれど、ひょっとしてこれからはじまる新しい生活に心が浮き立っているのかもしれない。

 ずっと城の中にいたわけだしね。


 よーし、可愛い可愛いミカル殿下。いつか安全にロミアへお連れできる日まで、私がぜーったい、お守りして差し上げますからね!!





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