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10_癒しの舞は踊らない

 


 ハンマーのこととか、ミカルのこととか、色々聞きたいことはあったけれど全て後にして、とにかくまずは全員でギルドに戻ろうということになった。


 怪我人も多い。休める場所に移るのが最優先だ。


 あまりにも重症な人にはミカルが睡眠魔法をかけて眠らせ、体力の余っている人で運ぶ。

 中には命に関わりそうな大怪我を負っている人もいた。

 何人かは、もうだめかもしれない。


 ギルドに戻るまでの道中で、たくさんの冒険者に声をかけらた。


「お嬢ちゃんも坊主も、すげえやつだったんだなあ!」

「本当にありがとう。今回ばっかりはもう駄目だとおもったぜ……」

「君たちがいなければ、俺たちどころかアマルニア王都はもう終わりだったろうな」


 でもみんな、どこか空元気のように感じる。



「お嬢ちゃんたち、名前は?」


 代表してそう聞いてきたのはあの岩陰でミカルと三人で隠れていた冒険者だった。


「私はレナ」

「僕はミカルです。さっきはありがとうございました」


「いや、礼を言うのはこっちだ。俺はアルバート。さっきは本当に助かった。そのうえで……」


 アルバートは歩みを少し止めて、私に向かって深々と頭を下げた。


「お嬢ちゃん、いや、レナ。君は聖女なんだろう?今になって冒険者登録をしていることを考えてもきっと何かわけありだろうとも分かる。だから、本当は聖女だと気付いていないふりをするのがいいのも分かっている。ただ……全て分かったうえで頼む。どうか……皆を助けてやってほしい」


 周りの他の冒険者たちもじっとこちらを見ている。

 皆きっと気づいていて、そして誰もが私にそう願っている。

 そりゃそうだよね。派手に聖魔力を使って魔物を叩きのめしたんだもの。剣技も何もなく、普通の魔法じゃないことも分かる人には分かる。気づかれて当然だった。もとより、ああすると決めた時点で隠すつもりもなかった。


 だけど私は……私の癒しの舞は、皆を助けられるほどの力を持っていない。


「分かりました。ギルドに戻り次第、癒しの舞を踊ります。準備してくださいますか?」


 それでも、断るなんて選択肢はなかった。


 隣でミカルが心配そうにこちらを見つめている。

 ひょっとして彼は、私が『落ちこぼれ聖女』と呼ばれていたことを知っているのかもしれない。





 ギルドに戻ると受付嬢が冒険者たちのあまりに悲惨な状態に悲鳴を上げた。

 急いでテーブルや椅子をどけ、場所をあけて怪我人を床に敷いたシーツの上に寝かせていく。


 その間もアルバートさんを中心に癒しの舞を踊るための簡易舞台の準備が進められた。

 私はせめて準備が整うまでは少しでも戦闘の疲れを癒すようにと、そんな様子を座ってじっと見ていた。


 ……私が癒しの舞を踊ったところで、ほんの気休め程度の治癒にしかならない。

 ここにクリスティナ嬢がいれば、全快とはいかずともある程度動けるくらいにはみんなを癒せたかもしれないのに。

 中には助けられない人もいるかもしれない。少しだけ最期までの時間を延ばすだけになるかもしれない。

 命は助かっても、もう二度と普通の生活を送ることはできない人もいるだろう。

 でも、私に希望を持っている人達に今そのことを伝えることはできない。気持ちは治癒の効果にも影響する。ここでガッカリさせてしまえば、きっともっと治癒の効果が小さくなってしまう。


 私が力足らずなばかりに……ごめんなさい……。


 近くに寝かされている人の額についた傷に手を触れる。よくなりますように。心の中でそんなおまじないをしながら。


 すると、私の手が触れた部分から、傷があっという間に消えていった。

「……えっ!?」


 待って。待って、待って、待って!


 また別の怪我人に近づいて、傷口の近くに手をかざす。今度もまた、怪我が酷すぎて意識も失っている人だった。

 それでもやはり、みるみるうちに傷は癒えた。

 クリスティナ嬢でも少し痛みを減らせれば十分なほどの大きな傷だったのに。


 さっきまで苦しそうにうなされていた怪我人は、すうすうと静かな寝息をたてはじめた。

 私は呆然と自分の手のひらを見る。


「……手当?」


 魔法はイメージが大事だ。癒しの舞では、私はクリスティナ嬢の3分の1程度の治癒しかできなかった。だってずっと疑問に思っていたから。

 こんなので癒せるの?直接1人ずつ傷を癒した方が絶対に早いのに。って。


 そうだよ、だって私の中の治癒のイメージって、舞なんかじゃなくて『手当て』だもん……!


 痛いところがあれば、思わず手を触れる。

 お母さんは子供の怪我や痛みに手を当てて撫でてやる。


 手当てはそもそも、そういう部分から生まれた言葉だったはず。

 そうよ、私はもうシメイズの聖女じゃない。

 今までずっと無駄だと思っていたこと、わざわざやる必要はもうない。

 私は私のこうじゃないかって思うやり方でやっていいんだ。


 急いで声を張り上げる。


「癒しの舞は踊らない!中止です!」

「……レナ?」


 突然の宣言に、ミカルが驚いている。周りの冒険者たちの視線も一斉にこちらに集まる。


「……レナ、そりゃないよ!こんなに傷ついてるやつらがいるのに、今更見捨てるっていうのか!?」


 舞のための場所を作るために動いていたアルバートさんが悲鳴を上げた。



「いいえ、誰も見捨てない。私の治癒に舞()()()いらない!」




 そこからはあっというまだった。

 重症な人から順番に、一人一人手をかざしたり触れたりして、祈りを込めながら直接治癒していく。


 自分でも信じられない程、私の治癒はよく効いた。

 どんな傷でも癒す。傷跡ひとつないほどに完璧に。

 もうあとは命尽きるだけと思われた人さえも、嘘のように治っていく。


「ありがとう、お嬢ちゃん!」

「ありがとう、助けてくれて……!ううっ!嘘みてえだ」

「聖女様!」


 口々にかけられる感謝の言葉。

 泣きそうだった。お礼を言いたいのは私の方だ……。

 失われた血までは戻らないから、危険だった人ほどしばらく安静が必要だけれど、もう大丈夫だと思えた。


 結局、あれだけ大きな魔物との戦闘だったにも関わらず、誰一人命を落とすことなくすんだ。



 それは窮地に立たされたアマルニア王国にとって、魔物の活性化が始まって以降、初めてのことだったらしい。




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