32. 加代と誠と白いパンツ
(加代と誠と白いパンツ)
「加代さん、加代さん、……」
誠は、鍵のかかっていない加代の家に入った。
十五年ぶりの加代の家だった。
何も変わっていない。
加代の寝室を探した。
「加代さん、加代さん……」
やはり、なかなか起きない。
「加代さん、加代さん……」
加代は、ようやく眠気眼で、さほど驚きもせずに誠を見た。
「……うーん、えー、……、夜這いに来てくれたの……?」
加代は、掛布団を蹴飛ばしたらしく、加代の足元で丸まっていた。
それに、裸で浴衣を着て寝ていたらしく、今は着崩れていて、胸があらわに出たままベットドに横たわっていた。
それに開いた裾から、パンツも着けていないことが分かった。
「もうー、なに言ってんだか、真理子ちゃんは……?」
それには答えず、加代は、うあの空で、目をつぶったままで呟いた。
「……、誠さんて、いつもわたしの寝ているところに現れるのね……」
「そうじゃーないけど、たまたま、偶然だよ……」
誠も、女性の寝間によく入ってきたと、その成り行きに、今になって心臓の高鳴りを覚えた。
「……、真理子なら、隣の家よ、雪子ちゃんとお泊り会だって……」
「やっぱり……、そうじゃなくって、三人で山に行ったんだよ!」
「……、そうよね、真理子がいないなら、私たちもお泊り会、やればよかったね……」
加代は、誠の言った言葉が聞こえていたのか、聞こえなかったのか、寝ぼけているような、小さな声で呟いた。
「違うよ! 三人で、子供たちだけで山登りに行ったんだよ!」
山、……
初めて三人だけで、キャンプ道具を背負って山に登ったのは中学二年の夏休みだったね。
僕とマサちゃんとよっ子、君は黙々と歩いていたね。
でも、時より見せる君の笑顔が嬉しかったよ。
女の子だから、本当は山登りなんか嫌いで、無理に僕たちに付いてきたんじゃないかと心配していたんだ。
でも、やっと山頂までたどり着いたとき、君はやっぱり笑顔で……
「きれいねー、山って、素晴らしいわー」て、感動していたね。
僕は、それを聞いて、ほっとしたよ。
満天の星、天の川、ヘッドランプに照らされる君の顔が大人に見えたよ。
それで寝るときには、ひとつのテントで三人、君は絶対襲わないでよねって言って、しっかり服を着たままシュラフをかぶって、僕たちの真ん中で互い違いに寝たんだったね。
でも、朝起きてみると、君はシュラフを蹴脱いで、タイツも脱いで、パンツ一枚とTシャツだけで、大の字で寝ていたんだ。
僕たちは、君に蹴飛ばされながら、テントの隅の隅に押しやられて小さくなって寝たんだよ。
それから朝起きた君は、わたし、暑いのだめなのって言って笑っていたね。
その時の君の笑顔とTシャツと白いパンツが忘れられない。
あれから二十年かな、君は何も変わっていないんだね。
いや、でも違う……
大人になっただけ、あの時よりも大胆になって、今はパンツも着けていないんだね。
「山、……、そう、いいわねー」
加代は、また眠たそうに、誠に背を向けて寝返りをついた。
「……、……」
「加代さん、起きて、僕たちも山に行くんだから……」
「……、えー、山に連れて行ってくれるの……?」
「連れて行くよ!」
「……、嬉しいー、楽しいわねー」
でも、加代は一向に起きようとはしなかった。
仕方なく、誠はベッドに上がり、加代の後ろから抱きかかえて、ベッドに座らせた。
「……、えー、なにー、……、あーん、気持ちいいわー」
「……、そうじゃーなくって、加代さん!」
「あーん、わたしバックも好きよ……」
誠は、慌ててベッドから下りて、加代のはだけた浴衣の裾を閉じた。
「……、分かっているわよ、真理子でしょう……」
加代は、目を閉じたまま、さっき誠が後ろから抱きかかえてくれた胸のあたりを自分で撫でて、小さな吐息をもらした。
「……、真理子なら大丈夫よ! あの子、わたしより、しっかりしているから……」
「凄い、自信と信頼だね……」
誠は、加代の落ち着きを不思議に思った。
「東京でも、ほとんど二人っきりだったから、旦那はいたけど余り家に居なかったから、真理子のことは手に取るように分かるのよ。まるで私そっくり、親子だけど、ちょっと怖いくらい……」
「……、そう……」
誠は、それを聴いて少し安心した。
少なくとも加代はうろたえていない。
むしろ、うろたえているのは自分だと気がついた。
「でも、今の真理子は、わたし以上に、わたしを越えているわ……」
「ほんと、それでこれからどうするんだい……?」
「……、迎えに行きますよ。山、連れて行ってくれるんでしょう……」
「そうだけど……」
「急に雪子ちゃんの家に泊まりに行くって言うから、何かあるんじゃないかと思っていたのよ……」
「……、そう」
誠はひとこと言っただけだった。
「でも、悪いのは、わたし、……、わたしが早く決めなかったから、そのうち何か攻めてくると思っていたわ……」
「……、やっぱり、恋人宣言は通じなかったみたいだね」
誠は、立ったまま、まだ眠たそうな加代を眺めながら言った。
加代は、目を閉じたまま笑って……
「……、さっきみたいにベッドで抱き合っているところを見せたら、信じたかもね」
「それは、あまりにも過激的で……」
誠は、笑って見せた。
加代は、もう一度微笑んで……
「……、もう少し真理子と、この家で二人の生活を楽しみたかったなー」
「そう……」
誠は、ひとこと言っただけだった。
「この頃、真理子と一緒に寝ているのよ。それで真理子たら、小さかった時みたいにおっぱいをじゃぶりながら寝るの、わたしの股の間に足を入れてね……」
加代は、はだけた浴衣の中から顔を出している乳首を指で撫でながら、その時の感触を感じていた。
「それが気持ちいいのよ……、それで時々、おっぱいも揉んでくれたりするのよ。もう、声が出そうで怖いくらいよ……」
加代は、また自分の胸を下から上えと揉んで見せた。
それを見て、誠も……
「今度、僕もおっぱい揉んであげるよ……」
加代は得意そうに微笑んで……
「だめだめ、これは真理子でないと感じられない気持よさなのよー、親子の心の繋がりかな、何であんなに気持ちいいのか分からないけど、不思議なのよ……」
加代は、両手で胸を撫でて見せた。
「でも、真理子ちゃんも、いつまででも、おっぱいしゃぶらないでしょう?」
誠は、自分の入れない世界をやっかんだ。
「多分ねー、でも、そしたら今度は、わたしが女を教えてあげるわ……」
「そっちの方が、怖いよ!」
誠も笑いながら、二人の行く末を案じた。
「早く、着替えて行かないと三人に追いつけないよー、着替え出してあげるから……」
誠は、クローゼットの引き出しを覗いた。
そう言えば、昔、加代が保育園の頃から、小学校の四年生頃までかな、いつまででも寝ている加代の着替えを出したり、脱がして着せたり、加代の面倒ばかり看ていた。早く遊びに行きたかったからだけど……
あの頃から、好きだったのかな……?
「山に行くんでしょう、山の道具と服は、そこの衣装ケース三段にまとめて入っているわ。下着もね……、パンツはTバックにしてね。その方が動きやすいの……」
加代は、また笑って言った。
そして、ベッドから立ち上がって、はだけた浴衣の帯をほどいて、浴衣をすとんと床に落とした。
「こんな私で、悪いけど、もらってくれるかしら……?」
誠は、振り返って、裸の加代をじっと見つめてから言った。
「……、それは、僕のセリフだよ!」




