30. 雪子の家でお泊り会
(雪子の家でお泊り会)
「山小屋の個室、予約できたの?」
真理子は、早速布団を曳きながら雪子に訊いた。
「予約したって、お雪が言っていたわー」
「お雪って誰……?」
真理子は、まだその名前を知らなかった。
「牡丹雪の雪女よー、まだ言ってなかったかなー? 夏の山のとき、霧の中から、あなた達を助けたのが、お雪よ……」
「……、あの赤い傘の人、雪女なの……? なにそれ、本当に大丈夫なの?」
「もちろんよー、誰に頼むよりも確かよ……」
「それならいいけど……」
大野家では昔、民宿も営んでいたので、部屋はたくさん空いていた。
雪子は、普段は一階の鈴子と同じ部屋で寝起きをしていた。
でも、今日は二階の空いている部屋の一つで、真理子とお泊り会だ。
そして、武の部屋は隣にあった。
「武さんも行くって言ったの?」
真理子は、このたくらみに武も巻き込んでいた。
「しぶしぶ、承知したみたいだけど……、山の準備を隠れてしていたから大丈夫よ!」
「じゃー、今日は早く寝ましょう。明日、暗いうちから出発だから……」
「あら、おっぱいしゃぶらなくていいの?」
「バカ、……、でも、少しだけね。よく眠れるから……」
「赤ちゃんね……」
そう言って、二人は枕を並べて、布団の中に入った。
「あーん、気持ちいいわー、股は駄目よー、股は……」
その声は、武の部屋まで聞こえていた。
翌朝、まだ暗いうちから三人は、こっそりと家を出た。
七月の夏休み最初の日に来たときには、太陽が高く登ってバスターミナルも、普通に見えた。
でも、九月も終わりに近づくと、今日はまだ真っ暗な中に、ライトに照らし出されて、明るく浮きあがっている様に見えた。
「お母さん、携帯電話に出ない、まだ夢の中よ……」
「誠さんも、出ないわ……、多分、仕事よ!」
真理子の計画は、三人で夏休みの始めに行った山小屋に、もう一度行って、加代と誠に、迎えに来てもらうというたくらみだった。
「山小屋って、前払いでしょう。わたし、お金、無いわよ……」
雪子の心配そうな顔。
「自分が泊まれるくらいなら、持って来た……」と武。
「あたしは、たくさん持っているわよ。お父さんから奪い取って来たから……」
「じゃー、安心ね!」と、雪子は嬉しそう……
「でも、予約したのは五人だから、もし来なかったらどうしよう。怪しまれるわー」
「じゃー、これもお雪に頼みましょう。連れてきてもらうわー」
「……、できるのー?」
「多分……」