11. プールで給食と女子水泳部
(プールで給食と女子水泳部)
七月になって、去年新設されたばかりのプールに水が入れられ、プール開きを待つだけになっていた。
この地方では、プールのある中学校は珍しい。
夏が短く日中の気温も低いせいかもしれない。
「水着持って来たー?」
雪子は真理子に言った。
「本当にプール入っていいのー?」
「先生の許可は取ってあるわー、二人だけの水泳部ねー」
「給食はどうするのよー?」
「パンと牛乳持って、向こうで食べましょうー」
「私、まだ寒くって入れないわよー」
「真理子は、見ているだけでいいわー、早く行くわよー」
「えーえー、私、他の給食も食べたいー」
「いいから、いいからー」
二人は、駆け足で教室を出た。
プールの更衣室に来ると、雪子は勢いよく服を全部脱ぎ棄てた。
真理子は初めて雪子の全身の裸を明るい昼間に見た。
「えー、何これ、真っ白じゃないー」
真理子は、自分の着替えるのも忘れて、雪子に近づいた。
「えー、なにー、早く着替えていくわよー」
「ちょっと、触ってもいいー?」
「いいけど、いつも私の裸、見ているじゃないー」
「でも、ちょっと、綺麗よー、綺麗すぎるわー」
真理子は、そっと胸のあたりを撫でた。
「凄いー、つるつるで、ぷよぷよしている……」
「あーん、真理子の手、冷たくて気持ちいいわー」
「私、服、脱がしてあげるー」
雪子は、真理子のセーラー服をめくりあげて、ブラジャーのホックを外して二枚一緒に上に持ちあげて脱がした。
雪子は、裸にした真理子を眺めて……
「真理子の裸も綺麗よー」と言って、いつものように裸の真理子をぎゅっと抱きしめた。
「えー、雪ちゃんの体、熱いわー」
「だから、今から体、冷やすのよー」と言って、真理子から離れて急いで、水着に着替えた。
雪子は、一度プールに体を沈めると、再びプールサイドに上がってきた。
真理子は、プールに入らず、手を入れただけで、「冷たい、……」と言って、雪子の所に逃げてきた。
「無理に入らなくてもいいわよ。給食、食べましょうー」
雪子は、バスタオルで体を拭きながら、プールサイドに座った。
真理子は、プールサイドのコンクリートの上にバスタオルを敷いて、その上に座った。
「なんか、ピクニックみたいねー」と真理子。
まだ夏にしては、太陽の力も弱々しく、少し冷たい風がプールの水を波立たせていた。
次の日も朝からいい天気で、暑かった。
「早く、早く、プール行くわよー」
そう言ったのは真理子だった。
「今日は、元気いいわねー、なにをそんなにはしゃいでいるのよー」
「いいから、いいから……」
真理子は、手提げ袋から給食を入れるタッパーを出した。
「そんなの、持ってきたのー」
「これなら普通に給食、食べられるじゃない」
「考えたわねー」
「雪子のも入れてあげるから、外で一緒に食べましょう」
「ありがとうー、気が利くわねー」
二人は、給食を幾つかのタッパーに詰めると、走ってプールに向かった。
今は、給食の時間とあってか、寂しいくらい人気のない静かなプールだった。
更衣室に着いた二人は……
「今日は、私が脱がしてあげるー」
真理子は、いち早く雪子のセーラー服のファスナーを下して、めくり上げ、
ブラジャーと共に脱がし、スカートとパンツも下した。
雪子は真理子に裸にされると……
「じゃー、真理子のは、私が脱がしてあげるー」
雪子は、真理子と同じように、セーラー服を脱がして裸にした。
真理子は、雪子に裸にされると、今日は自分から雪子に抱き着いて、体を擦り合わせた。
「雪ちゃんの体、熱いわー」
真理子は、昨日と同じことを言った。
「真理子ちゃん、癖になっちゃったねー」
「えーえ、裸で、女同士で愛する人の気持ちが分かってきたわー」
真理子は、尚も雪子の体を抱いて、ぼそっと呟いた。
「……、どんなふうにー?」
「こんなにふわふわで柔らかくて、すべすべで、綺麗で、気持ちのいいもの、他にはないでしょうー、もう食べちゃいたいくらいよー」
真理子は、さらに体を擦りよせ、体を雪子になじませて、胸の上に唇をつけた。
「真理ちゃんも、柔らかくて、綺麗よー」
雪子も真理子の体に擦り合わせた。
「あ、うーんー、気持ちいいー、なんか体が熱くなりそうよ……」
真理子は、込み上げてくる熱いものを、目を閉じて感じていた。
雪子は、まだ離れようとしない真理子を突き放して……
「……、早く、着替えましょー」と、着替えを急いだ。
時折吹く初夏の風は、少し冷たくプールの水を波立たせ、夏の太陽は真上で容赦なく暑さを降り注いでいた。
雪子は早速、プールの中に体を沈めると、すぐに上がって来て、体を拭きながら真理子の所にやってきた。
真理子は、プールサイドにバスタオルを広げてタッパーに入った給食を並べていた。
「美味しそうねー」
「これなら本当にピクニックみたいでしょうー」
「うん、うん、楽しいわー」
雪子は、パンを取ってバスタオルの上に座った。
「そう言えば、真理子のお母さんと、私のお父さんとお父さんの弟、幼馴染だそうよー、それに、いい仲だってー」
雪子は、唐突に加代さんと大野家兄弟の経緯を話した。
「へーえー、そんな話、一度も訊いたことないわー、お父さん、具合はどうなの、入院しているんでしょうー?」
「相変わらず、寝ているわー、目を覚まさないのよー」
「……、それも辛いわねー」
「真理子のお父さんは、生きているんでしょうー?」
「そう、離婚しただけだからー」
「寂しくないのー?」
雪子は、給食のパンをかじりながら訊いた。
「昔から、余り家にいない人だったから、でも家に居るときは、よく美味しいお店に連れて行ってくれたわー、それが嬉しかった」
「じゃー、いいお父さんじゃない。でも、どうして別れたの?」
雪子は、給食のおかずを食べながら訊いた。
「お母さんが、都会では合わなかったみたいで、故郷に帰りたいと言ったときに、お父さんが離婚しようと言ったんだって……」
「ただ、それだけー?」
雪子は、牛乳を飲んだ。
「でも本当は、お父さんに女の人がいたのよー」
「そう言ったの?」
「言うわけないでしょうー。でも、わかるのよー。ぜんぜん、器用な人ではなかったから。私でも、なんか変って、思ったことあったものー」
真理子は呆れ顔で、波立つプールを見た。
「……、怖いわねー」
「故郷に帰りたいと言ったのも、本当はお父さんの本心を確かめたかったのかも知れないわー」
真理子も、パンを取って口に運んだ。
「真理子は引っ越し、いやじゃなかったのー?」
「ちょっとはねー、でも東京の家、雰囲気、暗かったし、お母さんがいいなら、いいかなって思って……」
「お父さんには、付いていかなかったのね?」
「いかないわよー、それに一緒に来いとは言われなかったしー」
真理子の視線は雪子を見ていなかった。
「……、俺と一緒に来い、って言われたかったのねー?」
「そう……、でも、どちらにしても行かなかったしー」
「女の人がいたからかもねー?」
「たぶんねー」
真理子は、残りの牛乳を一気に飲み干した。
「そのお母さんと仲の良かった弟さんは、どこにいるのー?」
真理子は給食のおかずを口に駆け込みながら訊いた。
「あなたのお母さんに振られて、自暴自棄になって、国外逃亡したみたいよー」
「それほんとうー?」
「でも、もうじ帰ってくるけどねー、そしたら、お母さんに訊いてみてよ、まだ好きかどうか?」
雪子もおかずを駆け込みながら訊いた。
「えー、そんなこと訊けないわよー。でも、その弟さんは、どう思っているのよー?」
「……、まだ好きでいるみたいよー」
「ほんとー、どうしてわかるのよ―?」
「だって、雪ん子だものー」
「はーあー、……」
もうすぐ、梅雨も明ける七月、田んぼの緑がいっそう輝いて見える。
この地方では珍しく、梅雨末期の集中豪雨もなかったようだ。
リンゴ園では、摘果作業が忙しい。
桃もやっている農家では、そろそろ出荷の時期で忙しい。
どの農家でも、天候が安定していることが、何よりも嬉しかった。