ヒロインだって頑張る。後編
後編が長くなってしまったけど、書きたかった事を詰め込みました。
「ミカリス様のお役に立てて良かったです」
久しぶりにマリアーナと顔を合わせたフローラが少し寂しげに笑った。
「それで、フローラはどうしたいの?」
マリアーナは静かにフローラを見ていた。言いたい事は山程あるけど、まずはフローラの意思を確認した方がいい、と思っている。
「私は、またマリアーナ様のメイドに戻れたら、と願ってます」
本気半分、虚勢半分だろう。
養父の逮捕に養母の心労を思えばフローラは養母の側に居たい筈だ。
マリアーナは自分の意見は言わず、フローラが本心を語れる様、少し首を傾げた。
「……私」
やっとフローラがポツリ、と言葉をこぼす。
「私、男は嫌いです」
そっちかぁ、とマリアーナは頭の中でため息を吐いた。
「男って、俺のものになれ、とか俺の言う事をきけ、とか逆らうなって言う癖に浮気はするし、別れる、って言ったら殴ったり泣きついたりストーカーしたりして……」
マリアーナが思わず眉間に指を当て、大きなため息を吐いた。
「前世ではろくでなしばかりだったのね」
「本当にクズばっかで」
「でも、ミカリスお兄様は……」
違う、と言おうとしたらフローラが前のめりになって、溜まっていたものを吐き出す様に喋り始めた。
「でも、ミー君は腹黒でおっかないけど、クズじゃない上凄くクールでかっこいいし、イケメンだよ」
言葉が前世のものになってるが、マリアーナも前世持ち。此処は気にしないで兎に角聞こうと頷いた。
「ゲームではミー君、ちょっとやばい性癖だったけど、絶倫のユー君より激しく無かった」
その情報は知りたくなかった、とマリアーナは遠い目をしたが、ゲーム設定と現実をごちゃ混ぜにしないでおこうと気を引き締めた。
暫くフローラの話を聞いていたが、フッと疑問が頭をよぎる。
「フローラ、ミカリスお兄様はなんて言って貴女に協力を頼んだの?」
「えっ?デブリ男爵が犯罪に手を染めているから、だよ」
「その前に。多分、決定的な事を言っている筈よ」
ミカリスの話の手法を知っているマリアーナは、意識に残らない様にしながら決定的な事を言っている筈だ、と教えた。
「えっと。お茶を淹れるのが趣味?」
「違うわ、もっと……」
マリアーナと2人で首を傾げながらフローラは一生懸命思い出そうとした。
「あ、簡単じゃないけど、私にしか出来ないって言ってた」
漸く男爵に腹を立て過ぎて薄れていた記憶が蘇って来て、フローラが決定的な事を思い出した。
「フローラにしか出来ない事?」
「結婚してくれって」
あの策士!と叫ばなかったマリアーナは偉い。
「……ミカリスお兄様は、間違いなくフローラ様を妻にする気です」
突然、マリアーナがフローラに様をつけた事にフローラは驚いたが
「無理っしょ。私は男爵家の養子で、男爵は犯罪者になったんだもん」
と、言って笑った。
真っ当な意見だが、普通とかけ離れた一族で、権力もある。
出来ないことの方が少ない。
「あのお兄様が一度口にした事を無かった事にする筈はありません」
「えっ?マジ?」
「マジです」
「無理無理無理」
慌てたフローラがもの凄いスピードで首を横に振る。
「でも、ミカリスお兄様には嫌悪感なかったのでしょ」
さっきからずっと、フローラはミカリスをミー君と呼び、笑顔さえ浮かべながら話していた。
「でも……」
「フローラ様はクズな男は嫌いでも、有能なミカリスお兄様は大丈夫なのですから」
「それはそうだけど」
きっと身分の事やデブリ元男爵の事などを考えている様だが、ミカリスにとっては些細な事。
マリアーナは笑顔で大丈夫だと言った。
世間は少々騒がしかったが、フローラが無事復学した学園を卒業する頃には問題視する者も居なくなり、ミカリスとフローラの婚約は成立した。
「マリが後押ししてくれたお陰だよ」
ミカリスが笑顔で礼を言う。
「フローラ様は少し、恋に臆病になっていただけですから」
ジルコン公爵令息夫人になったマリアーナがクスッと笑う。
「それに、本気になったミカリスお兄様から逃げるなんて、レベル1の勇者がレベル999の魔王に勝つより無理ですから」
「酷い例えだな」
ユリアスが呆れた様な顔をすると、ミカリスがクスクス笑う。
意外なほど純愛を貫く策士の笑顔にマリアーナはホッとした。
「マリアーナ様、お久しぶりです」
遅れて入って来たフローラがマリアーナの姿に目を輝かせながら挨拶をした。
立ち姿が優雅になったフローラ。
公爵夫人になる為の教育が身に付いてきたのだろう。
「フローラ様、お久しぶりです」
マリアーナも笑顔で応対しながらそっと
「ゲーム設定は本当でしたね」
と、囁いた。
フローラは困った顔をしながらも小さく頷いた。
「でも、愛されてるから大丈夫です」
2人の淑女の密かな会話を知らないミカリス達は穏やかに会話をしている。
何気ない日常が、かけがえの無いものだと改めて思う。
人生には断罪もざまぁも要らない。
2人は微笑みながら、愛しい人に寄り添った。
fin
何気ない日常が本当は大切なんだ、とつくづく思います。
次の話はループものにしたいと思ってます。
お付き合い頂き、ありがとうございます。
感想やいいねを押して下さった皆様に心からお礼を。




