政府内部
私がリープを旅立たせてから1ヶ月が経過した頃、政府の人間が家を訪れた。リープには伝えたなかったが、しばらくの間、会えなくなることを許してほしい。
何が目的で政府の人間が来たのかは理解している。だから、事前にリープを旅立たせた。昔、夫がそうしたように、今度は私がリープの代わりになる番。私が、まだ幼く、弱いリープを守る番。
「センマさん、成り代わりの件で、伺いました。ご同行願います」
旧暦の六月十五日、成り代わりを知る家系の最年少を一人連れていく。この成り代わりは古くからの言い伝えではなく、ここ近年で突然変わってしまった風習のことである。
昔はこんな悲しいことではなく、目標を作るという良きものだったのに、何故こんなことに。
センマはマントを羽織り、周りから視認されないようにされた。まだ、街は落ち着いている。この日は何が起こったのかと、街はパニックになる。しばらくすれば落ち着くのだが。
政府を目の前にすると、近くの民家に入る。階段を降り、地下の道が政府の内部へと続いている。
初めて政府内部に来たが、豪華な造りで、けれど、禍々しさを肌が感じ取っていた。体が拒絶したため、立ち止まると、政府の人間、黒服の視線が自分に集まる。
「私も歳だから、もう少し優しくしてほしいな」
何も返さず歩き出した。仕方なく、重い足取りでついて行く。
自分と同じように、連れてこられた人が何人かいた。中には街で見かけたことのある顔もちらほらと。
螺旋階段を上り、大きな扉の部屋に入れられた。黒服の言葉を盗み聞くと、ショーケースと呼ばれる部屋らしい。実際にここで体を痛めつけられたり、虐げられたりすることはないが、行き先によっては、それもあり得る。
たった今、私たちは商品となったのだ。
「あの…」
弱々しい声がした。女性は涙を流し、「息子が、息子が、」と呪文のように言い続けていた。
今のこの状況を知る人物は少ない。
「どうかしましたか?」
穏やかそうな男性が女性を宥めている。商品になった時点で人権を失ったも同然、優しくしても、良いところに買われる保証はない。けれど、さすがのセンマも同情がはたらき、男性と共に女性の相手をする。
「何も言わず、出てきてしまって、どうなるんですか、私たち」
「成り代われるんです。私たちは選ばれたのです。優秀な人材だと認められたのです」
「でも、私、武器を売っていただけで、これといった才能は…」
「きっとその商売がお上手なのでしょう。自分では気付けないものです」
この男は何も知らない。まるで、飼われている犬かのように、政府のことを信じきっている。
「ですよね?センマさん」
「は、はい、こうして政府直々に迎えに来たということは、そういうことかと」
なぜ私の名前を?これからの自分の行く末をわかっているのだから、名乗る必要もないし、義理もない。この人とどこかで会っているのか…?
「息子さんも、お母さんが成り代われて鼻が高いと思いますよ。うちにも一人、娘がいましてね」
「でも、別れも何も言えないままなんて、嫌です私」
「そんな、今から死ぬんだから、別れなんていらないでしょ。あなたが悲しむわけじゃあるまいし」
「でも…」
「うるさいなぁ、胸張りなさいよ」
この男は何が目的で女性の相手をしていたのか、掴めない人間だ。
少し声を荒げたため、黒服に注意されていた。
会話に入っていて気づかなかったが、同じようなペースで人がどんどん入れられている。今のこの国にはこんなに成り代わりに関わっているのかと、驚いた。十数人かと思っていたが、すでに数十人を超えている。この国が拡大している理由はこれか。
センマが周囲を見ていると、見覚えのある顔を見つける。見覚えのあるなんてレベルじゃない。1ヶ月前に旅立たせたリープが立っていた。けれど、どこか様子がおかしい。
「リープ…なの?」
様子がおかしいリープは、扉の影から中の様子をうかがっていた。でも、どこか明るさが足りない。人間として、何か欠如しているような。センマと目が合うと、逃げ出してしまった。そして、入れ替わるように王族が姿を現す。
「あ、あのお方が…」
先ほどの男性は、黒服に注意されてから様子がおかしくなっていた。充血する目、垂れ続けるよだれ、食らいつくように王族に興味を示している。
偵察に来ただけなのか、王族は黒服に耳打ちをすると、出ていってしまった。
黒服は周囲を見渡し、人を探し始める。目当ては私とぐったりしている男性だった。私たちは王室に連れて行かれた。
玉座に座る男性と、隣に座る女性、女性の膝下で眠る少年。リープに似た少年だ。
「久しいな、覚えているか?」
口を開いたのは男性、つまりこの国の王だ。私の横の男性は離せない状態になっていた。
「いえ、いつお会いしましたか?」
「ヨーパは他の国へ売り飛ばされたよ」
夫の名前?他の国へ行ってしまったの?
「悲しいな。息子の顔を忘れてしまったのか?」
息…子…?息子?むすこ?ムスコ?いや、嫌だ思、思い出したくな、思い出したくない、やめ、て…
思い出すことを体が拒絶しているが、脳が記憶の探索を始めた。盗られていた記憶が戻ってきてしまった。
「思い出せたようだね、改めて、久しぶり、母さん」
「あんた…こんなことしていたのね」
「任せられたからね」
「久しぶり、お母さん」
「ソアミ…」
「覚えててくれて嬉しい!」
「そうだ、僕たちにも子どもができたんだ」
目を覚ました少年が立ち上がり、頭を下げる。
「リーブだ。賢い子なんだよ」
耳を疑った。容姿が似ているだけかと思ったが、名前まで寄せているなんて、なんでこんなことを。リープはあんなに寂しい思いをしていたのに。
隣の男性が意識を取り戻していた。
「家族団欒はまたの機会に…君たちをよんだのはか、成り代わりについて深く知っているからだ。今のものではなく、過去のもの。そして、顔を合わせるのが初めてではない。聞くまでもないが、君たちは僕たちの味方だよね?」
「は、はひぃ」
「母さんは?」
わかっている。この人たちは狂っていることを。わかっているけれど、今は従う他ない。センマはゆっくりと頷いた。
「嬉しいよ、母さん。それと、ミザキ君、君には失望したよ。君のせいで少し良くない方向に傾いてしまったからね。これからの活躍に期待しているよ」
「は、は、はい」
話が終わると、再びショーケースに入れられた。精神が衰弱しており、みなぐったりと寝そべっていた。
先ほどの女性ほ、何かを握って、それを見つめていた。握る手には何もないのに。
「息子の手は、まめだらけでした。子どもとは思えないほどにたくましく、強い子でした。私を守るためにって…毎日毎日…」
顔を落とす女性。
「センマさん、でしたっけ。これから私たちはどうなるんですか?」
事実を伝えるべきか否か。私にはわからなかった。
「わからないです。けれど、国のためになるのは確かですよ」
「国のため、国のためって、国は家族を引き離すようなものなんですね」
会議室にて、王のラーピ、リーブ、軍隊長ゲイブ、数人の黒服と兵士が話し合っている。
「今回は多く集まりましたね」
「うむ。段々と、風習が広まっていることで、商品の確保につながっておる」
「ここまで来ると、成り代わりの物を用意しなくていいんじゃないですか?」
「いや、それがそういかない状況でね」
ゲイブは足を組み直す。
「近々、彼女が動く」
「今、なんですね」
「たとえ、彼女が動こうとも、素性は割れているし、ゲイブ君含め精鋭部隊も組んだ。よっぽどのことがない限り問題ないだろう」
「精鋭部隊の長は誰に?」
「僕でしょ?」
椅子を回転させていたリーブが口を開く。
「リーブ君に?まだ早いのでは?」
「やつとは違って、リーブは優秀だ。精鋭は最終手段となる。軍隊が抑えてくれれば、出番はない」
「尽力します」
出席者はゲイブを残して退出した。彼女、エアフィンについての資料に目を通す。
「過去に政府への侵入あり。ペットの命と引き換えに逃亡。現在は行方不明、か」
これといって興味深い情報はないか。今回も尻尾巻いて逃げ出すに違いない。政府に反抗する者は誰であれ許さない。国民に幸福を与えるのが政府の仕事、政府への反乱は国民の幸福を盗ることにつながる。そんなやつは死だ。
どんな策で来るかはわからないが、油断だけは禁物だ。相手に隙を与えてしまえば、場の流れを与えてしまうからな。
「もうすぐ飼い主が来るみたいだぞ」
ゲイブはショーケース横の小部屋にある、鳥小屋に話しかける。
「お前を捨てた飼い主がな」
そいつは話さない、一言も。いや、話せなかった。
「話せないよな、お前はカラスだもんな。カーカーで話さないと通じないか?」
カラスはゲイブをにらみつけて、わずかながらに抵抗する。それを気に入らなかったゲイブはカラスの近くで囁く。
「一」
カラスは五感を失った。何も見えず、何も聞こえず、何も匂わず、味もしない。自分の状況が何もわからない。孤独の世界に閉じ込められた。
「ニ」
それでも、なぜか聞こえてくるカウントアップの声。孤独であるが故に、カラスの体は震え、汗が噴き出ている。無に対して恐怖しているようだった。
ゲイブが口を開いて、声帯を震わせようとした時、部屋の扉が開いた。途端に、カラスは五感を取り戻し、大量の汗をかいていることに気づいた。そして、おぞましい恐怖が遅れてやってきた。
「人質…鳥質か、残しておいた方がいいよ」
ゲイブはため息をつく。
「経験則からしか物事を判断できない俺と比べて、未来が見えるっていいな。そうだ、侵入者は何人かわかるか?」
「四人」
「四人!?誰が来るかもわかるのか?」
「うん。だけど、言いたくないから、言いたくなったら言うね」
子どもの扱いは難しい。子どもだからなのか、人工物だからなのか。俺も扱い難しかったのかなぁ。気ままに自由に生きるのが好きだから仕方ないか。
百階にて、食事をとる少年をエアフィンとリープは見つめている。
「僕はぁ、ツァオバーって言うのよぉ、よろしくなぁ」
ねっとりとした口調で、ペースを掴みづらい。
「ツァオバーがもう一人の?」
「そうだ、少し変わっているが。ちなみに、彼の持っているステッキは祖父の成り代わりだ」
おじいちゃんの…
「僕からしたらぁ、みんなの方が変わってるよぉ」
「そんな、ロバみたいにゆっくり食べないで、さっさと食いきれ」
「ほらぁ、すぐ急かすぅ」
感情が読みづらいけど、子どもだし、きっと悲しんでいるはず。この子以外にも、この国には同じような子がたくさんいるはず。みんなのためにも作戦を成功させなくちゃ。
「そんなぁ、子どもを見る目しないでよぉ」
「歳近いんじゃないの?」
「ツァオバーは体は小さいが、わしの一つ下だ」
リープは驚いた顔で謝罪する。ツァオバーはいつものことだと、あっさり許してくれた。
「そうだな、リーダーとして、戻ってきたら二人にツァオバーを紹介してやってくれ」
「リーダァー?この子供がぁ?」
「リープは頭がいいし、冷静な子だ。知力はわしと同等か、広い分野ではわしを超える」
「人は見た目によらないねぇ」
ツァオバーが言うと、やけに説得力があった。
「ツァオバーは手品師をしているんだ。今は色々と役に立ちそうな手品を覚えてもらっている」
「僕はぁ、じぃじを超える手品師になるんだぁ」
フォークを握った右手を天高く突き上げる。
「リープも祖父の成り代わりを所持している」
「同じぃ?」
リープは本を見せる。ツァオバーの反応の無さに少し悲しんだ。
「リープはワープして、知識を蓄えてきてくれ」
頷いてエレベーターに乗る。
「よくわからないけどぉ、頼りにしてるからなぁ、リーダァー」
リーダーという言葉の響きに慣れておらず、反応に困っている間に扉が閉まっていた。
「まだ、作戦を伝えてなかったね」
「ああ、子どもが参加しているなんて思ってなかった」
「やっぱり話し方変えてただろ、あと声も」
「初対面だし、信用できていない段階で素はさらしたくないからな。ただ、もう信用できるに値した」
「リープの目か?」
「あれは宿った目だな」
「リープは今後どちらで生きていくか、それとも、共生するかどちらだろうね」
「共生、見てみたいねぇ」
それから数日間、リープたちは政府攻略のため、準備を進めた。リープは戦闘において活用できる知識を。ヴァッフェはゲイブに対抗できる強さを。ブルーメは力のある花の研究を。ツァオバーは…
「ツァオバーさんはこの作戦で何をするんですか?」
「聞いてなかったな」
「僕は見張りの相手をすればいいんだろ?」
あれ、こんな話し方だったっけ?
「ああ、ツァオバーのステッキで見張りを翻弄してもらう」
「尽力するよ」
「内部に入るためのルートは見つかったんでしょうか?」
「実は元々ルートは知っていたんだ」
一同はスフィアスコープを覗き込む。
「政府近辺のこの民家の地下を通して、通信を行っていたんだ。この通信自体は、もしかしたらバレているかもしれないが、内容までは把握できていないはずだ。この道を通れば政府に侵入できる」
「政府の方も使われるのに、バレないように変装とかするんでしょうか?」
ワクワクした口調で聞いたが、変装はしないと言われ、ブルーメは少し悲しそうにしていた。
「このマントを羽織ってもらう」
試しに、とエアフィンがマントを羽織ると、その場から姿を消した。ステッキを回し、落ち着いているツァオバーと焦る三人。
「え、ワープした?」
「ちげーよ、政府のこと話してたから見つかったんだろ」
「ど、どうしましょう、それなら私たちも…?」
室内で走り回っていると、消えたはずのエアフィンが、しれっと立っていた。本物か確かめるべく、胸を凝視していたヴァッフェをブルーメが軽蔑の視線を送る。
エアフィンは羽織っていたマントを手に持つ。
「そんな慌てるなよ」
「初めて見たものに敏感になれる子どもが羨ましいね」
「このマントは羽織ると、光の反射を防ぐことができる。つまり、視認できなくなる」
「透明になれるということですね」
「簡単に言えばね。これを着れば侵入の知らせを遅らせることができる」
バレることは前提で進むんだ。
「僕らが各自で動いていた間、エアは何をしていたんだ?僕たちにやること任せて、一人サボっていたわけじゃないだろ?」
「もちろんだ」
エアフィンは持ってきた箱からヘルメット、メガネ、ジョウロを取り出した。
「これらは、君たちの役に立つものだ」
リープにはヘルメット、ヴァッフェにはメガネ、ブルーメにはジョウロが与えられた。手を差し出すツァオバーに対し、エアフィンは頭を指さす。
「やる気なくなった、帰る」
ツァオバーの肩を掴み、口に柿を突っ込むと、黙って席に戻った。
「今、渡したのは君たちのの……力を最大限発揮できるように、わしが発明したものじゃ」
三人は受け取ったものを観察している。被ったり、振ったり、齧ったり。
「おい、齧るな。これ、説明書だから、ちゃんと使えるようにしとけよ」
ヘルメットは被ることで思考を許可された人間と共有することができるらしく、ヴァッフェで試してみた。
「エアさんのおっぱいって大きいよな」
しかし、慣れない文章に苦戦していたヴァッフェは気づいていなかった。のだが、"おっぱい"というワードに体は無意識に反応していた。
「おっぱい」
ピクっ。
「おっぱい」
ピクっ。
「おっぱ…」
「さっきから俺の欲望が暴れてるー!」
「あぁ、揉みたい、揉みたいなぁ。一回くらい良くないか?減るもんじゃないし」
「文字に酔ってんのかな…でも待てよ、一回くらいなんて、俺の欲望はそんな甘くない!たっくさん揉みたい!」
ヴァッフェは溢れ出る欲望を必死に抑えるために頭をポコスカ殴っていた。横にいたブルーメは顔を赤く染めながら、説明書を読んでいた。しかし、その目は文章を全く追えていなかった。
「リーダァー、セクハラだぞ」
「僕は何もしてませんよ」
「それ、僕たちに伝わるんだから」
ヘルメットを指さし、ツァオバーが言う。ヴァッフェは暴れているし、ブルーメは赤面のままだし。ツァオバーは若干呆れていた。
エアフィンは表情を変えていないことから、思考を共有できるのは、侵入する三人だけか。
「あ、止んだ」
未だに自分の欲望だと思っているヴァッフェはメガネをかけていた。全くと言っていいほどに似合っていなかった。
ヴァッフェが与えられたメガネは、視力に応じて、客観的に空間を見ることができるものだった。空間の仕切りがないと使えないが、室内でなら部屋の作り、人や物の配置が即座にわかる。状況把握には適したものだった。
「なぁ、エア、最年長の僕が保護者にならざるを得ないと思うんだけど、空気の粒子みたいなこの子らを見きれる自信ないよ」
エアフィンは何も言わずに、柿を渡す。
ブルーメだけ、身につけるものではなく、手に持つものだった。普段使っているジョウロとは少し異なり、水を入れるのではなく、花弁を入れるらしく、取っ手にはボタンがついていた。
説明書によると、花の力を広い範囲に撒きたい時に使うものらしい。試しに、完成した睡眠の力-ハナカイドウ-を使ってみた。ボタンを押すと、ジョウロの先から花粉が空気中に放出された。
研究をしていたブルーメには耐性がついていたが、他の三人は健やかにお眠りしていた。みんなのかわいい寝顔を拝めて、お得な気分にブルーメはなった。
エアフィンたちが目を覚ますと、時と場所と場合を弁えて使うようにと、少し叱られた。これからは気をつけよう。
「明朝、陽が昇る前に行動を開始する。各々、わしからの信号を受信するための小型通信機を耳につけておいてくれ。こちらも全体マップを見ながら指示を送るが、現地での判断はリープに任せる。わしとリープで意見が食い違った時は、迷わずリープの判断に従ってくれ」
とうとう明日か。うまくいくと思うべきなんだけど、どうしても不安な気持ちを拭いきれない。子どもだけで結成されているし、人数不利だし、いくら明日のために準備してきたとしても、何が起こるかわからない。僕にできるのか、僕にリーダーが務まるのか。
「安心しろ、失敗させない」
眠りにつく寸前で、誰かの声がした。意識が不安定なため、誰かわからなかった。杞憂は少なくしておきたいという思いから、ヴァッフェの寝言であると思い込んだ。
僕には頼れる仲間がいる。いざとなったら頼ってしまえばいい。だから、同じように、頼ってほしい。
来る当日、眠い目を擦りながら塔を出た。各自マントを羽織って、政府近辺の民家に向かう。
互いを視認できないため、各自に異なる花の匂いを体につけ、認知していた。
明け方だからか、今回の件が絡んでいるのかわからないが、街は静寂に包まれていた。
政府近辺の民家に着き、物音に細心の注意を払って、地下へ向かう。見張りがいたが、こちらには気づいていない様子。
「なんか、花の匂いがしないか?」
「俺の屁の臭いだろ」
「お前の主食は花か」
見張りが無能で助かった。バレることは少々覚悟していたが、この調子なら大丈夫そうだ。埃が舞う中、地下通路を進む。
「くしゅんっち」
かわいらしいくしゃみだ。このかわいさをしばらく堪能していたいのだが、さすがに音を立ててしまったら…
「お前の屁、かわいい音だな」
「腹に羊飼ってるからな」
「よくわからんけど」
想像以上の無能で助かったー。ここまで来ると何してもバレないような気がするが、気を緩めるのは良くない。
朝が早いだけあって、僕らはいつもより睡眠が少ない。たまに足元がふらついてしまうせいで、誰かに体を当ててしまっていた。コソコソと声が聞こえる。
「誰だよ、俺に当たってるの」
「ごめん、眠くて」
「話したらダメですよ、バレちゃいます」
「あの見張り、無能だから大丈夫だろ」
「油断するなよ」
リープ一行は政府内部へと、さらに進んでいく。
「ライ、気づかれてないかな」
「レフ、名演技だったぜ。うまく騙せたはずだ」
「ライ、あんなに隠れているつもりなのに、バレていたとわかったらどんな顔するかな」
「レフ、俺らも油断しちゃいけない。リーブ隊長は四人と仰っていたが、まだ来る可能性もある」
「ライ、油断はしていないよ。そうだね、僕らは僕らの仕事をしよう」




