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本になりたい少年  作者: つくし
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追加招集

 俺はとにかく強くなりたい。その一心で木刀を振り続けた。思いを届ける、強めるということは鍛錬が必要だ。

 何事にも、考えなしに行動するヴァッフェはひたすら木刀を握った。普段の鍛錬とは異なり、明確な終わりが見えないため、徐々に不安と嫌気がヴァッフェを襲った。気のせい、気が弱いから、そう思い込ませて、押し出る負の感情を押し殺した。

「うぉぉおお!」

 いや、押し殺し、抑え込むのはいけない、吐き出すんだ。時折、ヴァッフェは雄叫びとともに負の感情を外に放出していた。

 強く、もっと強く!…強いって、一体なんなんだ?弱いの反対で、最強って意味だ!最強ってのはとにかく強いって意味で、あれ、結局どういうことだ?

 脳も思考することに慣れていないために、うまく働かなかった。じゃあ、脳の鍛錬もしないとな!

 汗を飛び散らせ、木刀を振り続ける。この時、すでにヴァッフェは一段階、上のステージへとコマを進めていた。木刀を振っていることを忘れるほどに、深く思考していた。

 良くも悪くも、ヴァッフェは同時に思考と行動を行えないらしく、鍛錬を無意識で行うことによって、思考に重きを置く事ができている。要するに、じっとしていればヴァッフェも頭を使う事ができるのだ。

「なんか、バカにされた気がする」

 俺はあの時、感じたんだ。俺たちを盗賊から助け、家に来た軍隊長の並々ならぬ強さを感じさせるオーラを。だから、イメージするんだ、強く。あの強さを。そして、体に刻み込め!

 渾身の一振りで我に返り、木刀を振っていたことを思い出す。しかし、ヴァッフェの体はワープしていない。

 まだ、弱いのか。足りないのか。イメージが弱いのか。いや、根本から間違っていた。強いは単に強いんじゃない。弱いも同じで単に弱いんじゃない。守る側か守られる側に分けられる。今のままじゃまた守られちまう。まだ弱いままだ。今の俺が守るべきもの、何がある。父ちゃんも母ちゃんも今はいない。だから、俺が、最強になるために俺が守らなくちゃいけないのは…。

 滴る汗も引きつれ、ヴァッフェは姿を消した。

「さて、またこの部屋に来たわけだけど」

 二畳程度の個室でリープは寝そべる。

 思いの届け方なんて、どの本にも載っていなかった。思いといえば、おじいちゃんはどういう思いでこの本を僕に?この白紙の本を僕に?本当に見聞を広げるためなのかな…いやいや、そう信じないと、今までを否定することになってしまう。

 思いは物を残して伝えるものなのかな。どうやっておじいちゃんに物として伝えるか。物といえばこの本しかないが、これはおじいちゃんからもらった物なわけだし。

「そうだ」

 リープは立ち上がり、九十四階に向かった。特に何もなく、だだっ広い空間が広がっているだけだった。ヴァッフェの姿は見えない。

「もう、ワープできたのかな」

 これだけ考えても良い方法が思いつかないのに、どうやってヴァッフェはワープできたんだろう。知識もそこそこあるし、考えることに長けていると自負していたために、ヴァッフェに負けたような気分になった。でも、だからこそ、思いを伝えられたような気がする。

 人には人のやり方があるんだ。僕は僕のやり方を試せばいい。僕は他の誰でもない、リープなのだから。

「ここは…研究室?」

 自宅の地下にある研究室にワープしてきたブルーメは、何が起こったのかわからず、混乱していた。

「もしかして、お母さんが見せてくれているの?」

 ビラーマと暮らしていた頃、花には力があると教わった。力というのは様々であり、幻を見せるものもあれば、傷を癒すものもある。その力で、ブルーメは夢を見せられていると思っていた。

「夢の中なら、お母さん返事してよ。お父さんもどこ行っちゃったの?」

 ブルーメはランの花を握り直し、研究室を出ようとする。

 扉を開けた途端、突風とともに何かが部屋に入ってきた。それは黒い体に鋭いくちばし、赤いスカーフを巻いていた。

「危ないところじゃった」

 起き上がりながらカラスは羽で砂埃を払う。

 夢の中だと思っていたブルーメは、母が見せている夢になぜカラスがいるのか、不思議だった。

「夢だと思っていたようじゃが、これは現実じゃ。儂は何が起きたのかを説明するために来た」

 これは現実であること、ワープしてここに来たということ、ワープができたということは魂の主、つまり、お母さんは生きてる…良かった…たとえ嘘でもいいから、誰かにそう言ってほしかった。けれど、これは真実らしく、もう、嬉しい、嬉しいよ、お母さん。

 ブルーメは適切な感情がわからず、変な表情でいた。それでも、感情を理解できるほどに涙が溢れていた。

 カラスは何かを言いかけて、開けた口を閉じ、メモを置いて出て行った。そこには、私がやるべきこと、やってほしいこと、そして、塔のみんなは味方であると書かれていた。

 涙を拭って、鼻をすすり、掛けられていた白衣に袖を通す。勇ましくなったブルーメは研究を開始した。

「エアは三人のこと、どう思う?」

 塔に戻ったカラスは九十三階を製作しているエアフィンに話しかける。

「どうって?」

「政府攻略に役立つとか、おもしろいと思うやつはいるとか」

「今のままでは政府攻略は不可能だろう。みんなおもしろいけど、ヴァッフェは輝く何かを持っている」

「不可能なことをやるつもりなのか?」

「『今のままでは』ね。策はあるよ。そのために動いている。やらなくちゃいけないことだし。成り代わりなのにわからないのか?」

「あえて聞いてあげたんじゃ。正しいかどうか、な。それとヴァッフェがおもしろいとは?」

「彼は物語の主人公になるべき存在。ゲイブに対抗できる唯一の人間だ」

「唯一?」

「あいつは人間としてでなく、能力として対抗できるだけだ」

「そうか。彼らは所詮、子ども。アメとムチが大事じゃぞ」

「わしはムチしかもらってないけどな」

「さて、儂は二人の様子でも見てくるかな」

 胡座をかいて、頭にタオルを巻いて、エアフィンは黙々と作業している。

今いるエアフィンの塔は不完全である。塔だけ作り、飼っていたペットは姿を消した。それも、百階もある天空に届くほどの塔であった。

 なぜ、内装を作ってから、増築しないのかを聞いても、答えてくれなかった。能ある鷹は爪を隠すと言ったところか、何を考えているのかも教えてくれなかった。

 今の私に技術があるのは盗んだからだ。作業をじっと見つめ、自分にないものをその都度メモして、作業が済んだら自分でも試してみる。

 その生活を続けた結果、作業の音で目が覚める体になってしまった。この生活を送っていれば、考えが追いつけば、楽しく話す事ができると思っていた。

 百階の完成を終えると、姿を消した。

 悲しかったと言えば悲しかったし、辛かったと言えば辛かった。けれど、残してくれたこの塔の内装を任されたのだと、自然と受け取る事ができた。だから、少しだけ嬉しかった。今まで培った知識、技術を活かして、共に一つの物を作り上げている気にしてくれるからだ。

 現在、内装を終えているのが七階。進捗は不振である。

 姿を消す前に、私に残してくれたメモがあった。

『政府は闇だ。お前は光となれ』

 この一言を胸に、今日まで頑張ってこれたし、これからも頑張れる。

 今、どこにいるのかもわからないあの人に少し先の未来を教えてもらった。だから、三人がここへ来ることを事前に知っていた。もうすぐ、私は光になれるんだ。

「ここはヴァッフェがいたはずじゃが、リープがおるな?」

 九十四階にカラスが現れた。誰も来ると思っていなかったために、驚きの声が漏れてしまう。

「ヴァッフェは出来たみたいです」

「一番心配しておったが、うまくいったようだな」

 最低限の報告だけ済ませ、リープはしていたことに戻る。

「順調か?」

 振り向かずに頷く。カラスも深く追わず、部屋を後にした。

 リープはひたすら祖父の本を読んでいた。何も書かれていない本を読むのは、読書が好きなリープにとって、不思議な感覚だった。読んでも読んでも、内容が入ってこないからだ。これまで、白紙であるが故に読もうとしてこなかった。向き合おうとしなかった。思いを届けるには、思いを受け取らないと。

 とにかく、読む、という行為にだけ集中した。他ごとは一切考えない。

 そうして、リープは読み終えた。そして、リープは祖父の思いを理解した。

 ペンを取り出し、旅立ちの日の記録を始める。リープは姿を消した。ひたすら本に向かって書き殴っていたため、気づいていなかったが、居心地の良さは体が覚えていた。

「ワープ、成功?」

 祖父の書斎に着いたリープはポツンとしていた。ということは、つまり…みんな、生きていたんだ、よかった。

 不思議と涙を流すことなく、二日目を記そうとした時、リープは再び塔に戻された。

「もう少しでできるから、そこで待っててくれ」

 九十三階にいたエアフィンの元に戻ってきていた。話を聞くと、この階と各地を結んで、ワープゾーンの部屋にするらしい。四つのガラスケースが配置されており、完成していないとここに戻ってくる間に、空間の狭間に閉じ込められてしまうらしい。なんてこった。遅れてワープできて良かった。というより、説明の時に教えてくれませんか。

「ヴァッフェとブルーメさんは?」

「ブルーメはまだ戻らない。向こうで頼み事をしている。ヴァッフェはまだ帰って来ていないよ」

 さすがに戻るのが早すぎたか。

 僕の条件だと、少しやりにくいな。書き残そうとすればワープできるけど、書き残すものがなければできない。もう少し長居すればよかった。

「ヴァッフェが来たら説明するから、ゆっくりしてていいよ」

「手伝いますよ」

「知識だけの君に何ができる」

 以降、二人の間に会話は生まれなかった。黙々と作業するエアフィンの背中をじっと見つめている。その背中はどこか温もりを感じた。

 ヴァッフェはワープできたことに安堵し、疲労がどっと押し寄せてきたため、その場にしゃがみ込んでしまった。

 袖で汗を拭い、乱れた呼吸を整える。

「できちゃった…」

 しばらく放心状態が続いた。

 木刀を握り、守るべき人を思い浮かべ一振り。ヴァッフェの体は塔の九十三階へとワープした。

「完成だ」

「何が?」

 九十三階の完成と時を同じくして、ヴァッフェが戻ってきた。

「ヴァッフェも割と早く帰ってきたんだね」

 その言葉の真意がわからなかったが、とりあえず照れた。

「これから作戦会議を始める」

 そう言い、エレベーターで押したのは百階。

 等間隔だった他の階と比べて、九十九階から百階までは少し間隔があいている気がした。

 部屋の広さに不釣り合いな椅子五脚と中央に机が置かれ、机上には球体が浮いていた。

 三人は椅子に座り、エアフィンが机上の球体を操作すると、見たことのない光景が映った。

「何から話していいかわからんが、とりあえず、今写しているのは政府の内部だ」

「隠していないとまずいんじゃ?」

「これはわしの発明で見ているのではなく、政府内部にいるわしのペットがこちらに送信しているんじゃ」

 囚われているのか、政府関係者なのか。どちらにせよ、こちらに情報を提供していることから、味方だろう…ペット?

「見て分かる通り、内部には見張りが五万といるし、そもそも内部にたどり着くには、険しい道のりを超えなくてはならない。ここからわかることは、この道のりを毎回通って出入りしているとは考えにくい」

「別ルートがあるということですね」

「ああ。まず、内部までのルートはこちらで見つけておく。見張りをどうするかだが…」

「俺が全員ぶっ倒す!」

 ヴァッフェの言葉は力強かった。

「ヴァッフェなら、この数でも太刀打ちできるだろうが、君の出番はここではない。ここは…彼が来てから話すか」

「彼?」

「言ってなかったか?わし、リープ、ヴァッフェ、ブルーメに加えて、もう一人、この作戦に参加してくれる人物がいる」

「ここへはどうやって?」

「彼はもうワープを習得し、今は自宅にいるよ」

 リープとヴァッフェは顔を見合わせる。

「彼が見張りの相手をしているうちに、君たちは王室を目指してくれ」

「質問いいですか?」

 リープは姿勢良く手をまっすぐに上げた。エアフィンは黙って頷く。

「エアさんも来るんですよね?」

「わしは…」

 言葉を詰まらせる。

「わしは行けないんじゃ」

「そんな、人数不利も甚だしいじゃん」

「行けない理由が?」

「万が一、いや、億が一にも、この作戦がうまくいかなかった時、あれでこの腐り切った国を終わらすために、ここにいなくてはならない」

 二人が振り返ると、そこには砲台が置かれていた。

「成功すれば使わずに済む。実は、これは私の戦いでもあるんだ。私情に参加させて申し訳ないと思っておる。君たちが訪れた今が好機なんじゃ。今後、こんな機会は滅多に訪れない。それに、この国を壊すことはできればしたくない。だから、最終手段ではあるが…」

「うまくいけばいいんでしょ?」

「よくわからないけれど、そんなもの使わせないですからね。おじいちゃんが生きていると知った今、死ぬわけにはいきませんし。それに、まだ知らないといけないことだらけです。作戦がうまくいったら、それ、撤去してくださいね」

 落ちそうな顔を、少年らの言葉で上げさせられた。

「ということでわしは行けない。ここから全力でサポートする」

「王室に向かったらどうすればいいんですか?」

「おそらく軍隊長のゲイブが出てくるのだが、彼の相手をヴァッフェに努めてほしい」

「「軍隊長!?」」

「知っているのか?」

 知っているも何も、の顔で見合わせる。あのオーラの、盗賊を姿を現しただけで退けてしまうような人とヴァッフェが戦うのか?さすがのヴァッフェも…

「ぐんた…ゲイブを倒せばこの国で最強になれる?」

「うーん、一人を除いて、ね」

「上には上がいるのかぁ」

 案外あっさりしていた。闘志もみなぎっている。

「政府って悪者なの?」

「そ、そうだけど?」

 またもや言ってなかったらしく、そんなエアフィンに二人は驚く。

 政府って、国民の味方じゃないの?説明を聞いていて、うすうす感じてはいたが、政府に乗り込む僕たちが悪者サイドかと思っていた。

「表向きは国民の味方。裏では被人道的なことを行っている。知らなくていいことだ」

 目を逸らし、エアフィンが呟く。

「ヴァッフェがゲイブとの戦闘中、二人は王室に向かい、道中に囚人の部屋がある。囚われた人々の救出を頼む。これはブルーメの花の力を借りるつもりだ」

 花には力があるのか。今頃、ブルーメさんは頑張っているんだ。

「くしゅんっち」

 久々にこんな数の種類の花を前にしているからか、花粉が舞っている。アレルギーではないものの、粉が鼻の粘膜に触れるため、どうしてもムズムズしてしまう。

「ワープなんて本当にできるんだ」

 母が生きていたことは嬉しいし、会えるのなら協力したい。けれど、いざ配合してみると難しいもので、思うように育たない。

 数時間、研究室にこもっているが、何一つ成果に結び付けられるものはできていない。なのに、楽しい。お母さんがいたこの空間で、自分も同じように花に真剣に向き合えているこの時間が楽しい。

 私は、花の素晴らしさを多くの人に知ってもらいたい。そんな思いで今まで花を調べてきたし、これからもそうする。そして、お母さんのように…私も…

「そろそろ切り上げて戻ってこい」

「はにゃっ!?」

 ブルーメの脳内を言葉が走った。驚きのあまり、マヌケな声を出してしまう。

 辺りを見ても、誰もいなかった。この感覚、前にも…

「文字通り、脳内に言葉の信号を走らせた。すでに疲労が許容量をオーバーしている。戻ってきて休みなさい」

 ブルーメは研究室を軽く整理すると、言われた通りワープで塔に戻った。

「そして、王室には一人でだが、リープ、君に任せる」

「王室?」

 エアフィンは地図の一箇所を指して言う。

「ここだ。政府のトップ、言い換えれば国のトップがいる。君の頭で話をつけてきてほしい」

「話でどうにかなるんですか?」

「行けば分かるさ」

 エアフィンの横顔が懐かしく見えた。

「皮もなければ肉もない、骨だけの脆い策だが、君たちの健闘次第で成功の確率がグッと上がる」

 エアフィンが立ち上がる。

「ブルーメを戻す。今日はもう休もう」

 戻ってきたブルーメは疲れきっていた。

 どんなことをしていたか聞こうと声を掛けようとしたが、すでに眠ってしまっていた。

 僕もヴァッフェも、その日はぐっすり眠れた。

「発明家らしくなってんじゃん」

 男はエアフィンの背後から声をかける。

「あんたを呼んだのは…」

「言わなくてもわかる。報酬は弾むんだろうな?」

「思考を盗むな。報酬は要求に応じる」

 男は決まっているのに、わざと時間をかけて悩んだふりをする。

「俺はお前がほしい」

 男はエアフィンを包み込むような、闇のオーラを出している。それを跳ね返すように、エアフィンからは光のオーラが出ていた。

「いつも通りガードは硬いね」

「あんたの力を借りた時、その望みを受け入れる。ただ、限界まで待ってほしい」

「わがままだねぇ、エアちゃん。力を貸した時ってのはいいけど、俺は好きなタイミングで手出すぜ」

「この国が救われればそれでいい。当日は頼む」

 男は闇のオーラとともに姿を消した。

「実は、彼は気まぐれでね」

 翌朝、百階で朝食をとりながら、味方になるもう一人の話をしている。

「そいつ、役に立つの?」

「そこそこの付き合いだ。信頼はしているが、約束は基本守らない」

「信じてしまっていいんでしょうか?」

「互いの利害が一致している時は大丈夫だ」

「作戦決行までには間に合うんですか?」

「彼も祖母が政府に囚われている。カラスを通じて連絡してきた。だから、間に合うように来るはずだ」

 僕と同じ状況だ。

「あと、この国の風習や政府に不満を抱いている点も似てるかな」

「この国の風習?」

「成り代わりのことだ。この国、ジャッジ家が統べるこの国には、命を落とすと物に成り代わるという風習があるだろ?」

 三人は頷く。

「そんなもの、実際にはない」

 三人は驚く。

「そもそも命を落としたら、なんで物に代わるんだ。命はそのまま消えていくはずだ」

 三人は傾げる。

 朝食をたいらげて、口を拭きながら席を立つエアフィン。

「成り代わりはタイムカプセルのようなものだ。大切な人に託し、再会する時に返すんだ。いつからか、それが形を変えて言い伝えられてきたのか」

 部屋を出ていくエアフィンを、三人は表情を変えぬまま見ている。

 エレベーターが閉まるくらいに、朝食後、九十三階に来るよう伝えられた。

 三人は朝食に手をつけず、エアフィンの言葉を整理していた。命を落とした者が、物に成り代わるという風習はないということについて。

「今の、信じるか?」

「半信半疑、だけど、エアさんが嘘をついているようには見えなかった」

「私は信じていいと思います。エアさんのおかげで物事が良い方向に進んでいるわけですから」

 確かに、良い方向に進んでいるが、進まされているような気がしなくもない。それに、ジャッジ家が統べているなんて聞いたことがなかった。そもそも、政府の情報なんて知らなかったし、知る由もない。情報の多くは内部にいるペットを通じて得ているのか?

「ブルーメさんは、昨日何していたんですか?随分と疲れていたようですけど」

「花を作っていました」

「花の力ってやつか」

「はい。でも、うまくいかなくて、母のやり方を真似ているのですが」

「ブルーメはブルーメだよ」

「え?」

「ブルーメはやりたいようにやったらいいよ。なんかこう、型にはまったやり方じゃなくて、自分流というか…俺の父ちゃんさ、めっちゃ強かったらしいんだけど、父ちゃんには父ちゃんの強さがあるし、俺には俺の強さがある。それと一緒。ブルーメにはブルーメの咲かせ方があるはずだよ」

「ヴァッフェさん…」

「良いこと、言えるんだな」

 ヴァッフェは照れを隠す。

「ありがとうございます。元気出ました。自分なりの咲かせ方、探してみます」

 グーサインで返す。

 一同は朝食を済ませ、九十三階へ向かった。エアフィンの姿はなかったが、少ししてから現れた。九十二階を作っているらしい。忙しい人だ。

 ブルーメはやることが決まっているため、先にワープした。ヴァッフェはやることが単純明快で、ただ強くなることが目的らしく、少し遅れてワープした。

「リープには今回の策のリーダーを任せる」

「そんな、大役を僕が?」

「脳筋ヴァッフェ、お淑やかブルーメ、気まぐれな彼、誰がまとめてくれる?」

「エアさん」

「だから、わしはサポート専念で、現地にはいない。現地の判断に任せることも、通信が切断されることもある。緊急事態に供えての任命だ」

「…わかりました、引き受けます。まだ来ていない彼について、詳しく知りたいのですが…」

「付き合いはあるのだが、わしもいまいち掴めておらん。気まぐれで、興味のある方向にしか進まんのじゃ」

「やる時はぁ、やるよぉ」

 聞き慣れない声の方を見ると、ハットを被り、ステッキを回す少年がいた。

「君にしては早いな」

「お腹空いちゃったのよぉ」

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