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本になりたい少年  作者: つくし
4/11

瞬間移動

 リープが出てから、俺の心は穴が空いたかのように、スースーと空気が通るようになった。母ちゃんに聞くと、これは喪失感というものらしい。それほどリープとの日々が充実していたのだ。

 それでも、いつも通り、陽が沈めば昇る。朝が来れば体を起こし、養分を蓄え、いつものように商売に向かう。

 向かう途中、嫌な予感を抱かせられるほどに街がざわついていた。

 これは、あの時と…

 ヴァッフェは物を売らずに、Uターンで家に戻る。店前に人だかりができていなかったものの、アタゲは店頭にいなかった。おかしい。いつ来客しても対応できるように、常に店頭にいるはずなのに。

 ヴァッフェは慌てて家の中を探した。いない。裏庭へ回った。いない。またしても攫われてしまったのだと思い、家を飛び出そうとする。

「今日は相当早いね」

 立ち止まり声の方を振り向くと、優しい顔の母がいた。ヴァッフェは心配損だったと後悔して、顔を赤らめて再び街へ向かった。アタゲは持っていた紙袋を強く抱きしめる。

 アタゲが攫われた日から心配は常に付き纏っていた。嫌な予感を抱くと、母の姿を目にするまで落ち着かなかった。一緒に行動すればいいのだが、そうはいかない。商売とは、進行形で事が進むものだ。接客のために店にいないといけないし、かといってこちらからも売りにいかないと発展していかない。

 街は依然として騒がしかった。この騒がしさは数日続いた。加えて、日に日に街の人が減っているような気がした。気のせいだと思っていたが、閉店の看板がこんなに多く立てられていることは今までなかった。

 以前のような事があったため、安全であると判断した相手にしか売らないことにしていた。単にものが売れればいいという発想は捨てた。自分の行動で、どこかの罪もない誰かが傷つけられる可能性があると考えると、慎重にならざるを得ない。

 ノルマを達成し帰ろうとした時、また嫌な予感を抱いた。急ぎ足で家に向かうも、そこにアタゲの姿はなかった。店頭にも、家の中にも、裏庭にも。いつものように外出しているだけだと、少し心配しすぎているところもあると、その日は探しにいかずに、孤独の夜を過ごした。

 その日、アタゲが帰ってくることはなかった。

 翌日も、目を覚まして家を見回るも、アタゲの姿はなかった。こんなに帰りが遅いのはさすがにおかしい。遅いのなら一言あるはずだ。

 ヴァッフェは閉店の看板を立てると、街へ探しに出た。次は森へ、洞窟へも向かった。しかし、どこにもアタゲはいなかった。

 結局、一日中探し回ったが、見つからなかった。空腹のまま、家を飛び出したため、腹が雄叫びを上げ続けている。肩を落としながらも、アタゲを探していたヴァッフェの視界に見覚えのある少年が入ってきた。よく見ると、女の子を連れていた。ヴァッフェは沈んだ顔を無理矢理明るくすると、兄貴ヅラで少年に声をかける。

「よぉ、弟子、何をしているんだい?っと、そちらのお嬢さんはどなた?」

 リープは数日ぶりではあるが、久々の再会に一瞬明るくなった。が、隠れた感情を汲み取り、真剣な眼差しを向ける。

「どうしたの?」

「質問の答えになってないじゃないか」

「だって、助けてって顔してるもん」

 面が割れたように、ヴァッフェの沈んだ顔が浮かび上がる。

「実は…」

 母がいなくなったことを話すと、隣の女の子が泣き出した。

「そんな、探さないといけないですね。手がかりはあるんですか?」

 首を横に振る。

 溜めて解放されたかのように、ヴァッフェの腹が雄叫びを上げる。リープはヴァッフェを連れて、再びシュピルに入った。

 コヘンになるべく早く作れるものを注文した。すると、それはなるべく早く出てきた。

「いただきます」

 コヘンの料理を前にしても沈んでいた。

 リープは二人を互いに紹介する。すると、料理を口にしたヴァッフェが叫んだ。

「うまーーーい!」

 出されたのはハンバーグだった。そもそも子どもが好きなものである上に、コヘンが作ったものだ。口に合わないはずがない。

 ハンバーグって、こんなに早く作れるものだっけ?リープは昔読んだレシピ本を思い出していた。

「なんでこんなうまいんだ?」

 まだ口に物が残っているのに口を開くヴァッフェは汚物を見るような視線を向けられる。加えて、返答がないことに徐々に腹の虫が機嫌を損ね始める。

「俺、お前嫌い」

 衝撃の一言に、コヘンは反抗の表情を浮かべた。少しして、肺一杯に空気を吸い込んで落ち着きを取り戻す。

「ヴァッフェ、なんてこと言うんだ」

「ひどいですよ、ヴァッフェさん」

「だって、何も言わずにあんな目向けてきたんだもん」

「何も言わないのは置いといて」

「置いとくなよ」

「僕も口に入れながら話すのはやめて方がいいと思うよ」

「なんだよ、みんなして俺の敵か?」

 間。

「街がうるさいし、この国に何か異変が起きてるのかも」

「異変、ですか?」

「はい、それにアタゲさんが巻き込まれたのかも」

「どうして母ちゃんばっかこんな目に…」

 ハンバーグぱくり。うまい。

「アタゲさんだけじゃないのかも」

「どれも確証がないな」

 ハンバーグぱくり。うまい。あれ?

「何も考えずに行動しても疲れるだけだからね。ある程度は推測しておかないと」

「でも、現状把握と情報収集のためには行動を起こさないといけませんね」

「俺のために話してもらってるところ悪いんだけど…」

 一同はヴァッフェの顔を見つめる。

「このコック、喋ったよな?」

 一同は頷く。

「もしかして、俺だけ無視されてる?」

「そういうわけじゃ…」

「やっぱ好きになれないや」

 水と油のように相容れない二人はそっぽを向く。

「とにかく、外に出ましょう。ヴァッフェさん、食べ終わりましたか?」

「た、べ…た!」

 口いっぱいに頬張り、一気に飲み込む。三人は店を後にした。

「これが未来、ですか」

 地上へ出ると、騒がしいのに加え、新たな異常に気づく。

「人、減った…?」

「やっぱそう思うよな!」

 異変は起こっていた。騒ぎに耳を傾けると、消えた、いなくなった、攫われた等、どこの家庭でもアタゲのような被害に遭っていた。つまり、アタゲも他の人も、同じ事件に巻き込まれている可能性が高い。原因を突き止めなくては。

「この国のどこかにいるのなら人探しにうってつけの場所がある」

 リープ一行はエアフィンの塔に向かった。

「リープじゃないか。今日は賑やかだね。何か用かい?」

 声は聞こえるものの、姿はどこにもない。

「何をキョロキョロしている。用があるのなら言うてみ」

 姿が見えないのに、どこに向かって話していいものかと、エアフィンを探す。人を探すのに、人を探さないといけないというのはどういうことだ。

「頭のの中に直接、語りかけられている気がして気持ちが悪いです」

「だって、頭の中に直接語りかけているからね」

 間。

「エアはん、姿表してくださいよ。隠れていないで」

「用さえ言ってくれれば通すから」

「人探しです」

「君は人探しが趣味なのかい?」

 エレベーターの扉が開いた。そこにもエアフィンはいない。

 エレベーターに乗ると、ボタンを押していないのに、勝手に動き出した。はしゃぐヴァッフェと隅にしゃがむブルーメ。初めてのエレベーターに対する反応を楽しんでいると、九十八階に着いた。

「直接頭に声が響いた感想は?」

 気持ちのいいものではなかった、そう伝えようと口を開いたが、それよりも先に口を開かれた。

「おっぱい…」

 夢の詰まった、膨らみのある、柔らかい声で呟く。呟いて、ブルーメのを見る。静かに目をつむり首を横に振った。

「い、今の視線と反応はなんなんですか」

 ブルーメは胸元を隠し、なんとも言えない表情の顔を赤らめていた。

「母ちゃんのよりでっかいの初めて見た…それ本物かいたたたたた」

 鼻の下を伸ばしすぎたヴァッフェをカラスがつつく。

「何すんだよ」

「そうだ、育ち盛りの男の子はこういうもんじゃ、命令を解け」

 信じられない光景に赤らめた顔のまま目を点にするブルーメ。

 命令を解かれたカラスは、つついたところを羽で撫でた。硬いが故に、余計に痛む羽目になってしまう。

「このカラス、なんでかたいんだよ」

「ほう、三人目か」

「いやいや、そんなことより、そのカラス…」

 ブルーメはカラスを指差し、震えた声で続ける。

「喋ってますけど!?」

 エアフィンは自己紹介とともに、カラスについてヴァッフェとブルーメに話す。

「ほらな、普通、第一声は『喋った!』なんだって」

 ブルーメはすでにカラスと打ち解けており、膝の上に置いて、体を撫でていた。カラスのくちばしがいやらしくのびている。

「落ち着いたようだから、本題に入ろうか」

「実はこの子、ヴァッフェの母親が姿を消したみたいで、一日中探したけど、見つからなかったらしく」

「家のどこにもいなかったんだ。長く空けるなら一言あると思うし」

 エアフィンは顎に手を当て、鼻から息を吹く。

「とりあえず探せていないとこもあると思うから、上行こうか」

 二度目のスフィアスコープに胸躍らせていた。

 二人に装置の説明を行った後、嬉しそうな顔で全員に伝える。

「実は、新たに更なる機能を増やしておいた。それは必要になった時に教える。さぁ、気がすむまで探しなさい」

 スフィアスコープは球体になっているため、一人だけでなく、複数人で利用する事ができる。

 三人は頭を突き合わして覗き込んだ。一望できるとは言え、国全体を見ているわけだ。それもどこに行ったのかもわからないアタゲの行方だ。時間がかかると思っていた。

「どこにも、いない」

 独り言だと思い、スルーする。

「どこにも、いないよ」

 間。

「ちょっと!なんか言ってよ!」

 独り言じゃなかったらしい。

「どこにもいないんだって!」

「そんな早く結論づけられるわけないだろ」

「私もまだ半分も見れていません」

「とにかく、どこにも母ちゃんはいなかった…どうしよう」

 瞳を湿らせてしまう。

「あの、この真っ黒な場所は?」

「そこは政府があるところです。映すなって言われてるみたいです」

「そうなんですね」

「慰めてよ〜」

 ヴァッフェが二人に寄りかかり、重みに耐えられず、ドミノのように倒れてしまった。エアフィンがエレベーターから出てくるのが視界に入る。

「結論出たみたいだね」

 三つの視線がエアフィンに向かう。

「今日は遅いし、泊まっていきな」

 四人はエレベーターに乗り、九十七階に向かった。そこは旅館の大広間のように広い部屋だった。畳のいい香りがする。

「みんな仲良く、川の字で寝よう!」

 四人には広すぎるにも関わらず、中央に寄って眠りにつく。

 少しして、目が覚めた。声が聞こえてくる。それも女の子の泣き声だ。静かに何かを思い出して泣いているような。十分な睡眠を摂れていなかったため、再び目をつむる。

 瞳を開くと、隣にいたはずのブルーメの姿がなかった。嫌な気がして、立ち上がり、大広間を見渡してもいなかった。急いでエレベーターに乗り込もうとすると、九十九階のランプが点灯していた。

「何してるんですか?」

「昨日は途中で終わってしまったので、続きを見ています。ヴァッフェさんを信用していないわけじゃないですよ。始めたら終わりきるまでやめられない性分で」

 スフィアスコープを覗きながら答えるブルーメの隣にリープは座る。

「それ、どうですか?」

「面白いものですよね、これ。こんなにこの国が広かったと気づけたし、人の動きを見るのも好きですし」

 確かに、上から見ると小さく見えるけど、動きを見ながらだと、広さ故に時間がかかる。これがあれば家の中でも外の世界を見ることができるのか。

「え、いない?」

 不安な声が漏れる。

「ど、どうして?」

「どうかしましたか?」

「父が、いつもこの時間に店に向かうはずの父がどこにもいないんです」

「たまたまでは?」

「いえ、記憶がある限り、欠かさず行っています」

「体調崩したとか?」

「風邪をひいたところすら見たことありません」

「寝坊とか?」

 何も返さず、ブルーメの瞳は速度を増して父を探す。しかし、見つけることはできなかった。まだ家にいるだけだ、と伝えても全神経を視力に注ぎ込んでいるのか、届いていなかった。

「熱心に誰を探しているんだい?」

 エレベーターの扉が開く音とともにエアフィンとヴァッフェが現れた。二人の視線はスフィアスコープから外れる。

「昨日の件について、ヴァッフェと街に調査してきた」

「家に行ったけど、母ちゃんいなかった」

「まさかとは思っていたが、同じように街から人が姿を消している。話を聞くとある共通点が発覚した」

 リープは息を呑む。

「成り代わりに関わる人物が消えていた。親だけでなく、子供の場合もある。年齢、性別関係なく、成り代わりを持つ人物、もしくはその血を持っている者がターゲットとなっている可能性が高い」

 成り代わりに関わる人物がどうして?ということは、僕たちも例外ではないということか。

「じゃあ、父も…」

 ということは、おばあちゃんが心配だ。

「それでそんな深刻な顔をしていたのか」

「これって建物の中まではさすがに見えないですよね?」

 エアフィンは待っていましたと言わんばかりの顔で、スフィアスコープに明らかに後からつけられたようなボタンを押した。見てみな、と顎で指示される。覗いてみると、内部を覗き見ることはできなかったが、誰がいるのかは、名前が表示されてわかるようになっている。おばあちゃんは家から出られないから、この機能で見てみれば…

「いない…」

 この機能を言い返せば、名前が表示されなければ、そこには誰もいないということ。センマだけでなく、ミザキの名前もどこにもなかった。

 三人揃って、唯一の家族を失ってしまった。悲しいというか、辛いというか、そういう感情は生まれなかった。というより、信じきれていないから、まだ現実と認識できていない。だから、感情が生まれるわけもない。直接、この目で確かめないと。

「わしが発明するものは嘘をつかん。そこに映らないのであれば、いないということだ」

「なにも、事実を隠さず伝えんでも…」

「外の空気を吸ってきます」

「九十六階を使うといい」

 ブルーメは重い足取りでエレベーターに乗った。

「リープは大丈夫かい?」

「一人になりたいです」

「九十五階へ」

 九十五階は他の階と比べて、とても狭く、二畳程度しかなかった。けれど、今のリープにはちょうどよかった。自宅を思い出して、落ち着けるから。落ち着け…るから。落ち着きたかった。こんなんじゃ思い出しちゃうじゃんか。

 寝そべって目をつむると浮かんでくる祖父母の顔。ここまで優しく育ててくれた。感謝しかない。一言、伝えておくべきだった。二人ともいなくなった今、僕は一人だ。ひとりぼっちだ。

 祖父母の影からヴァッフェ、ブルーメ、エアフィンが現れる。

 違う。一人なんかじゃない。僕には友達ができたじゃないか。今何ができるか、何をするべきか。考えろ、いや、考えるな。動かなくちゃ、動け、動けよ、僕の体!

 露わにしたリープの瞳は別人のように意志を持っていた。

「ずいぶんと早か…一皮剥けた顔をしているね」

「ブルーメさんは?」

「女の子だし、ちょっと時間かかるかもね」

 エアフィンは視線を落とす。

「ちょうどこれからどう動くか話していたところだ、二人で」

「儂を忘れるな、少年」

「カラスじゃん、力になんの?」

「わしの発明…じゃ。そこらの人間より賢いぞ」

「へぇー。立つ鳥跡を?」

「濁さず」

「能ある鷹は?」

「爪を隠す」

「東の反対は?」

「西。次は儂の番じゃ」

「え、西なの?西じゃなくない?北だよね?」

「鳥頭か、お前は」

 不毛な争いを気にも留めずに、エアフィンが口を開く。

「一体、どこへ行ってしまったか、だが…」

「国外、もしくは…」

「おそらく、そのもしくは、の方じゃろうな」

「俺との話から逃げたから俺の勝ちな!俺の方が賢い!」

 ヴァッフェの頭にできたこぶはとさかのようであった。

「ヴァッフェの母親がいなくなって日があまり経っていないし、国内にいる可能性は高い。でも、なぜかスフィアスコープに映らない」

「スフィアスコープに映らない場所と言えば…」

 私は弱い。ねぇ、どうしてランの花なの?どうして死んじゃったの?私、お母さんみたく、強くなれないよ。ねぇ、答えてよ。私が聞いてるのに。

 開放的になっている九十六階でブルーメは外の空気を吸いながら、ランの花に問いかける。

「お母さんがいなくなってから、家のことをやるようになって、店の手伝いもして、お母さんのようになりたかったけど、もう、無理かもしれない。聞いて、お母さん、お父さんが…」

 涙を流しながら問いかけ続ける。

「お父さんがいなくなっちゃったの。お母さんの時みたいに急にいなくなったの。なんで私ばっかなんだろうね。二人がいなくなったら、誰に甘えればいいの…」

 膝から崩れ落ち、鼻をすする。

「泣いてしまっては、せっかくの花の香りもわからなくなるよ」

 背後から優しい声がする。

「わしも、両親はどこにいるのかわからん。もう、死んどるのかもしれんな。故に甘え方もわからんかった」

 間。

「わしと同じように立ち直れとは言わん、人には人のペースってもんがある」

 声は移動し、真横から聞こえる。

「どうしても甘えたくなったら、わしでもいいぞ。代わりになれるとは思わんが。ブルーメは一人じゃない」

 エアフィンはブルーメの頭を撫でようとして、やめた。寂しいままの頭のブルーメはランの花を強く握る。

「もう二度と会えないと決まったわけじゃない。希望を捨てる…な」

 ブルーメの啜り泣く声が急に止んだ。

「いない…?」

 目の前からポツンと、跡形もなく姿を消したのだ。まるで、ワープしたかのように。

 エアフィンは現状を急いで話に向かった。大事な話を伝える前に同じような事が起きてしまえば、面倒なことになる。二人とも成り代わりであることは知っていたが、まさかブルーメの母親もだったのか。

「大事な話が…何やってんだ」

 男どもは小さな輪を作り、ヒソヒソと話していた。

「男の秘密だよーだ」

「くだらないことは置いといて」

「置いとくの!?」

「ブルーメが姿を消した」

 突然の情報に、和んでいた空気が冷え切る。

「消えたって、消えたってこと?」

「そうだ。わしの伝達不足だったのが申し訳ないが…」

「何か、知っているんですか?」

 緊張感が走る。

「怖い顔をするな。わしは君らの味方じゃ。ブルーメが消えたのは、今回の事件とは関係ない」

「と、言いますと?」

 エアフィンはカラスに目配せをすると、勢いよく飛んでいった。

「順序に沿って話していこう。まず、ブルーメの母親は生きている」

「そうなの!?」

 唐突な情報の連続で困惑しているが、良かった、生きていたんだ。

「それをブルーメさんには?」

「言う前に消えてしまった。というより、消えたからわかった事なんだ」

 間。

「君たちの持っている成り代わりは、命を落とした者とイコールではない。魂を分け与えて作られたお守りのようなものだ。だから、常に近くにあるし、手放すと不安になる」

 二人はそれぞれの成り代わりを見つめながら話を聞く。

「魂の主、リープなら祖父、ヴァッフェなら父が君たちの強い思いを受け取った時、力を発揮するんだ」

 間。

「要するに、力を発揮した時、魂の主は生きていることになる」

「ふむふむ」

「ちなみに、力というのはワープだ」

「ワープ?」

「君たちの家に魂の主と最も縁のある場所はどこだ?」

「裏庭」

「書斎です」

「そこがワープ地点となる。逆も然りで、そこからならこの塔へワープが可能だ」

 よくわからなかった。非現実的すぎて、現実で起こった事であると脳が認識できていない。でも、とにかくブルーメさんは無事ということか。

「ただ、この説明をした後なら問題ないのだが、ブルーメはその前にワープしてしまった。これでは行き着いた先で、混乱して外に出てしまう恐れがある」

 そのためにカラスを向かわせた、と続けた。と、ここでリープに一つの疑問が浮かぶ。

「そのワープした先で、政府に連れていかれる可能性は?」

「その空間から出なければ大丈夫だ。結界がはられているから。そこから出たら連れていかれる可能性がある」

 隣のヴァッフェは、木刀を振りながら、父ちゃん、父ちゃん…と連呼していた。

「父ちゃんに…思いを…送っているんだ」

「思いの届け方は様々だ。色々と試してみるといい。ワープした先でしてもらいたい事が…ワープできたら話そうか。そもそもできない場合もあるからな」

 できない場合もある。それは思いがうまく届いていない場合と、魂の主が生きていない場合があるということか。

 緊張が走る中、三人は歩いて散っていった。

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