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本になりたい少年  作者: つくし
2/11

集会所

 今日も私は花に水をやる。これがやりたいことなのかはわからない。けれど、他にやりたいことがないのも事実である。仕方なく、命に養分を与えている。

 この日課は母がいなくなってから始めた。元々、母がやっていたから、それを引き継いだ。

 母は死んだのか、殺されたのか、消滅したのかわからない。急に突然、ポツリと姿をしたのだ。それを父から聞かされた。

 私は悲しかった。悔しかった。毎日思い出しては眠るまで泣いた。夢にまで出てくるのだから、目が覚めても泣いていた。

 数日経った頃、父が部屋に入ってきた。私のことを察してか、一輪の花を持ってきて、何も言わずに出ていった。一枚のメモも置かれていた。

『花の名前はラン。美しい淑女、優雅、という意味を持つ。ビラーマの成り代わりだ』

 この国には優秀な人材が命を落とすと、ものに成り代わるという風習がある。私は信じていなかったし、嫌いだった。人は死ぬと消滅するものだと思っていたし、死んでまで近くにいられても悲しさが増すだけだと思っていた。

 でも、今、その考えを撤回する。私も同じように優秀になって、命を落としても、側にいてほしいと思われる人になりたいと思った。

 しかし、時が経った今、その気持ちは薄れていた。花について調べ、他人に説明できるほどに知識を身につけた。でも、これだけで成り代われるとは思えなかった。だから、どうしていいか。私は迷い人である。

「ブルーメ、街へ種の調達を頼めるか?種類はセンスに任せるよ」

 今は父と"音楽隊"という名前で花屋を営んでいる。父は元々音楽家だったため、母と相談してこの名前にしたらしい。

「お父さんは指揮棒が楽器に成り代わるの?」

「そんなに優秀じゃなかったし、今はもうやめちゃってるから、成り代われないかな」

 父は嘘つきである。話し下手というべきか。私が寝ているのを確認すると、夜な夜な音を出さずに楽器を触ったり、指揮棒を振ったりしているのを私は知っていた。

 歳を重ねようと夢を見ることのできる国だ。死ぬというその時が来るまで夢を追うことができる。そして、死ぬことでその成果が讃えられる。生きている時間が大切であると言っているようだ。

 でも、母は死んだ。おそらく私は信じきれていないが、成り代わりを見せられ、数年も会えていないとなると、本当のことだと思ってしまう。

 柄にもなく、脳内で思考が埋め尽くされていた。だから、ぶつかったことにも気づかなかったし、それが幼い少年であることもぶつかってから気づいた。

「ごめんなさい、考え事をしていて」

 少年は体格差に敗れ、尻餅をついた。それもそのはず、リープは走っていたから。その勢いが自分に返ってきたのだ。

「こちらこそごめんなさい。急いでいたので」

 リープはお尻の土を払い、落とした写真を拾うと、再び政府へと駆けていく。

「今の写真って……」

 リープは写真を拾ってからすぐに駆け出したのに、ゲイブの痕跡すら残っていなかった。街の人に聞いても、みな口を揃えて見ていないと言う。足が速いんだ。瞬間移動なのか?空を飛んでいるのか?

 それから数分して見知らぬ女性とぶつかった。

「これ、マンガで読んだな。ラブコメの始まりってやつかも。でも、あんまりタイプじゃないかも」

 にしても、思い詰めた表情をしていた。リープの脳内部屋にぶつかった女性の写真が飾られた。すでに祖父母はもちろん、ヴァッフェ、アタゲ、スティー、ゲイブのもある。加えて、黒く塗りつぶされたものが二つあった。

 それにしても、隊長はどこに行ってしまったんだ。政府へまっすぐ向かっていないのか?

 政府は国の中心に位置している。壁をくぐり、森を抜け、川を渡り、堀を越えた先にある。一般市民は入ることが禁じられている。それに、誰一人として侵入を許せないほどに厳重である。だから、リープは急いでいた。中に入られる前に、隊長に会わなければ。

 急がなければならないのだが、何かを思い出したかのように、失速し、やがて止まった。

「僕っていつから体育系になったんだ?」

 間。

「人を探す場合は…そうだ、高所へ行こう」

 周囲を見渡す。

「あった!」

 それは高く、雲をも貫通していた。細長く、アンバランスな塔は政府へと続く道の九十度東に位置していた。やや遠いように見えたが、数週間の鍛錬に比べれば大したことはなかった。

 その塔は近づけば近づくほどに高さを際立たせた。リープの視線は段々と角度をつけていく。ちょうど着いた頃には、首の角度が耐えきれず、そのまま後ろに倒れてしまった。

「わしの家に何か用かい?少年」

 顔が見えないのに、声が聞こえてくる。二つの大きな山の奥から声が聞こえてくる。僕はこれを知っている。人体についての本を読んだ時に出てきた。この山は、いや、膨らみは。

「おっぱいだ」

「わしの名前はエアフィンだ、エロガキ」

 まだ顔は見えない。これは絶景だが、険しい山だ。思春期の到来を感じさせる。すると、それは突然姿を現した。それも、エアフィンの谷間から。

「家に入らんから何があったかと思えば、少年が倒れとったんか」

「こいつ、わしの乳をジロジロ見てくるんだ」

「育ち盛りの男の子はそういうもんじゃ。大丈夫か?少年」

 信じられなかった。今まで読んできた本の常識を遥かに逸脱していた。どの動物図鑑にも載っていない。なんなら、おつかいの時にもよく見るが、話すカラスなんて初めて見た。おそるおそる、リープはカラスに触れる。

「あれ、硬い?」

「第一声が『喋った!』じゃないのは二人目ね」

「それも気になってたんですけど、このカラスって……」

「わしが作ったロボットだ」

 姿勢を正したリープは、エアフィンの顔を初めて見た。脳内部屋に写真が二つ飾られた。リープは土を払いながら、自己紹介を済ます。

「リープ、どこかで聞いたような」

「なんでスカーフ巻いてるの?」

「これがないと喋れないんだ、ほれ」

 エアフィンはカラスの赤いスカーフを取ると、聞いた事のある鳴き声を発した。身体がメカメカしいことをのぞくと、性質は本物のカラスと変わらなかった。

「これもエアフィンさんが作ったんですか?」

「わしじゃないよ」

 首を横に振り、エアフィンは答えにくそうな顔をすると、話題を変える。

「名前はエアでいいよ。それより、何か用があったんじゃ?」

 リープは人探しのため、高い場所を探していたところ、この塔を見つけたことを話した。

「人探しならうってつけのものがあるよ」

 エアフィンの後に続いて塔に入るリープ。正面の扉が開くと、筒状の空間があった。初めてのエレベーターには、好奇心より、恐怖心が勝っていた。

 この国の建物は基本的に平屋であり、縦に長い建物は本で読んだことしかなかった。縦に長く建てられる技術を持つ建築家が少ないのがその理由だ。そのため、エレベーター自体が珍しかった。

「重力が、強い」

「初めてだもんね。少し気分が悪くなるかも」

 リープは重力すら楽しんだ。本では味わえない感覚、貴重な体験だったからだ。

 体調に異変がないまま、最上階の九十九階に到着した。扉が開くと、巨大な球体の部屋がリープを待っていた。目と口を大きくまん丸く開いたまま、エアフィンについていくと、中央にも球体があった。

「これはスフィアスコープと言って、国中を見渡せる望遠鏡だ」

 リープが知っている望遠鏡は筒状で、一度に広くを見ることができないものだった。スフィアスコープは部屋の大きさに不釣り合いなほどに小さかった。

「地上に当たる光を受け取って、この球体の部屋が反射することで見ることができるんだ。光を調節することで、ズームもできるし、角度も変えられるよ。少し席を外すから、見つかるまで探してていいよ」

 カラスを肩に乗せ、エアフィンは別の階へ行った。

 リープはおそるおそる覗いてみた。覗いて背筋に悪寒が走った。それもそのはず、この高さから見た地上はとても遠く、その高さに恐怖してしまったのだ。

 次は覗かずに、光の量をある程度調節してから覗いた。驚いた。本当に国中を見ることができたからだ。端から端まで。人々の動きまで細かく見られる。これならゲイブ隊長もすぐに見つけられ…る、あれ、空間が抉り取られてる?この場所は…

 その場所の周辺を大雑把に探していると、抉り取られた空間に向かっているゲイブを見つける。しかし、手遅れだった。

 抉り取られた空間のある場所というのは、政府が位置しており、今から全力で向かっても間に合わない。

 あのまま走っていたら追いつけていたのかもしれなかったのか。手段を間違えた。

「言うの忘れてたけど、政府から政府の場所を見えないようにと、言われていてね」

 背後の扉が開き、パンをかじるエアフィンが出てきた。袋の中のパンを一つリープに渡す。

「ありがとうございました。おかげで見つかりました」

「それはよかった」

「僕は見つけた場所へ向かいます」

「ここで会ったのも何かの縁だ。また会えることを祈っているよ」

「こちらこそ、近未来なものがこの国にあったなんて知りませんでした。用事が済んだらまた来ます」

 パンを片手に、エアフィンの塔を後にする。ゲイブに直接接触するのは諦めた。今から向かっても間に合わないし、門番に話しても子どもだからという理由であしらわれそうだし。ゆっくり他の方法でも探しながら向かおう。

「どうした少年、元気ないのか?」

 思い詰めた表情のせいか、おじさんに声をかけられる。リープは気づいていなかった。無視する気はなかったのだが、それがおじさんの機嫌を損ね、怒りを買ってしまった。

「無視はひどくないか?俺、怖いよ?強いよ?そこらの冒険家が逃げるレベルよ?」

 その言葉通り、周囲の人間は散っていった。

 おじさんはリープの肩を力強く掴む。その時、初めてかけられた声が自分に向けてのものだったことを知る。恐怖のあまり声が出なかった。謝りたいし、助けを求めたいし、けれど、声帯は言うことを聞いてくれなかった。震える身体を持ち上げられ、おじさんと向き合う。

「あ、う、あ…」

 背中の刀にも手が届かない。せっかくアタゲから身を防ぐためにともらったものなのに。僕の旅はここで終わってしまうのか?まだ知りたいことも、経験したいことも、実践してみたいことも山ほどある。

 このまま顔面をぶん殴られ、壁にぶつかって、粉々に。二度と本を読むどころか、立つことも呼吸すらもできなくなる。

 振りかぶったおじさんの手を見ると、リープは目をつむり、歯を食いしばった。

 いや、だめだ、死にたくない。死ぬのなんて嫌だ。殴ってみろ、少しでも抵抗してやる。お前なんかの機嫌に僕の人生捧げられるか!

 身体をこわばらせ、飛んでくるであろう拳を待っていたが、待てど待てど飛んでこない。リープは顔の力を弱め、おそるおそる右目を開ける。そこにおじさんはいなかった。

 リープは遅れて自由落下し、尻から地面に落ちた。しばらく呆然としていた。一体、何が起こったんだ。誰が何をしたんだ。周囲には誰もいない。

 何が起きたかはわからないが、無事なのは確かだ。わからないことを考えるよりもやるべきことがある。リープはポケットの写真があるのを確認すると、頭上から紙が降ってきた。

「冒険家…募集…?」

 初めて聞く職業だった。紙の端には地図が書かれており、今いる場所から割と近かった。このまま政府に向かっても、立ち往生するだけだし、情報収集がてら行ってみようかな。

 地図が示した場所は地下のさらに地下、エアフィンの塔とは真逆で、地下深くにあった。薄暗い階段を降り、現れた厳重な扉に手をかける。

「見ない顔だ。招待状は?」

 中から野太い声がする。環境が環境なだけ合って、驚いて後ずさってしまった。

「招待状は?」

 機械のように同じことしか話さない。リープはおそるおそる声を返す。

「どんなやつですか?」

「募集の紙、ない?もういい?」

 何かに焦っているのか、こちらの返答なしに先に進めようとしてくる。リープは扉の中央にある空間に持っていた紙を入れる。すると、重低音を奏でながら、重々しい扉が開いた。開く速さに合わせて、リープは足を踏み入れる。こんな暗く淀んだ場所だから、きっと、さらなる暗闇が…

「もっと飲みやがれ!」

「てめぇこそ足りてねぇんじゃねぇか?」

「この任務どうだ?」

「報酬イマイチだと思う」

「うちのパーティーにも花が必要だと思うんだ」

「無理だろ。どこのパーティーも野郎しかいないんだぜ」

「オーナーのパーティーにはいたことあったんだろ?」

「あの人についたんだ。花と呼ぶには無理がある人だろ」

 そこに広がっていたのは、居酒屋兼集会所だった。アルコールのにおいと元気な声が飛び交う。こんな世界があったなんて、ジメッとしていて、狭いのに、とても広く感じる。

 視線を色んな方向に飛ばしていると、一人の男が声をかける。

「子どもがこんなところに。酒飲めんのか?」

「ここ、顔パスが招待状なきゃ入れないとこだぜ。ああ見えて手練れかもしれねぇ」

 男は立ち上がると、座っていた姿からは想像できないほど大きかった。軽くリープの四倍ほどだ。それは身体だけでなく、オーラも同様に大きかった。しかし、リープの顔は躍起に満ちていた。

「あのガキ、やる気だぜ」

「ゴローに一万!」

「俺は五万賭けるぜ!」

「ガキを信じて、十万賭けてやる!」

 リープは背中の刀を構える。思い出せ、ヴァッフェとの稽古を。そして、盗賊との戦闘を。

「お、ガキから動き出したぞ!」

 目をつむり、全神経を研ぎ澄ます。

「びびったか?」

 子どもであることを利用するんだ。相手は格上。だからこそ、自分の腕を過信している。勝機はそこだ。

「ゴローのやつ、一瞬で終わらせる気だ!」

 ゴローは握った拳をリープの顔の前に持ってくる。拳骨ではなく、もはや岩石だった。それが近距離でぶつけられればひとたまりもない。

 ゴローがその拳を動かすのを、周囲は息を飲んで待つ。リープはこの時、すでに負けていた。ゴローは格上なのだから、油断も隙も与えるわけがなかった。そして、ゴローの間合いに入って命あるものはいない。だから、リープは負けていた。乱入がない限り。

 先ほどまでの盛り上がりが嘘かのように観客は静まり返っていた。鼓動が聞こえるほどだ。

 ゴローの手がうねりを上げ始める。音は段々と大きくなり、この時、リープはもう逃げ出せないのだと悟った。空間自体が揺れ始め、とてつもない殺気を帯びていた。

「来るぞ!」

 一人の観客が声を上げたが、それは来なかった。来るはずがなかったのだ。だって、ゴローは気を失っていたのだから。

「俺の店で暴れるのは何度目だ」

 助かった…のか。

 店内に突如として、フードを深く被る人物が入ってきた。ほんの少し見える顔から、とてつもないオーラを感じる。ゴローが石ころのように思えるほどだ。

「こいつを表に出しておけ。それともう入れるな。パーティーのやつらもな」

「御意」

 店内にいる人、みなが言葉を失っていた。もちろんその中にリープも含まれている。飾られた人形のように誰も動くこともできず、その空間で、その人物だけが動けていた。

 その人物はどういうわけか、リープの元に寄ってきた。やばい、僕も怒られる。やられる…!

「来てくれたのか!」

 かけられた声は予想の斜め上だった。しかし、リープは圧によって意識を失ってしまう。

「あれ、俺なんかしちゃったかな」

 気絶から復活したのは、数十分後、ソファの上に寝転がっていた。部屋にはリープしかいない。気絶前の記憶を掘り起こすと、身の毛がよだった。

「寒いか?」

 身体を震わせていたところに、その人物は現れた。声をかけられるまで気が付かなかった。

「ここは?」

「俺が招待したのに遅れてしまってすまない。ここは冒険家の集会所、アドベンチ屋だ」

 名前そのまま!?

「名前に文句を言ってきたやつは、一人残らず地獄へ送った」

 嘘です。めっちゃかっこいいです。憧れます。尊敬してます。

「冗談だよ、そんな顔青ざめないでよ。本当は"シュピル"って言うんだ。それで俺はここのオーナーのドヒだ。よろしくな」

「リープです。読書が好きです」

「本が好きなやつは久々に聞いたな。どんなの読むんだ?」

「本なら何でも。堅苦しいのから、カジュアルなものまで」

「そうか、そうか」

「聞いてます?」

「難しい話は苦手でね」

 ドヒは指の骨を鳴らしながら、鼻をほじっていた。ほじり出したものを明後日の方向へ飛ばすと同時に、少年が入ってきた。

「わりぃ、気づかなかった」

 少年は口を開かないまま、料理を二人分テーブルに置いた。リープは会釈すると、返してくれた。オーロラソースのかかったミルフィーユサンドという料理らしい。

「こいつはうちのコックのコヘンだ。口を開かないから感覚で受け取ってくれ」

 コヘンは再び頭を下げる。コヘンが部屋を出ていく前に、ドヒはミルフィーユサンドを頬張っていた。顎で食え、と指示されたリープも口へ運ぶ。

「あいつはこの国で一番のコックだ。作れないメシはない」

 ドヒは何かに追われるように急いで料理をたいらげた。小指の爪で歯をこする。

「リープをここに連れてきた理由だが、コヘンと友達になって欲しいんだ。優秀すぎるが故に、人身売買の商品となっていたんだ。だから、心を閉ざしたままなんだ。どうしようか悩んでたところに、君が絡まれているところを見つけてね。好奇心がありそうなにおいがしたから、助けたついでに招待状を落としていったってわけ」

「僕なんかでその役が務まるんでしょうか?」

「俺の鼻がそう言ってる」

「鼻は話さないですよ」

 ドヒは汚れた指を舐めると、鼻を指差した。

「明日以降、受付には顔を見せれば通れるようにしとくから、暇があれば遊びに来いよ。ここは冒険家が集まる。リープの知らない世界を知っている奴らばかりだ。そのついででいいから、コヘンと会ってやって欲しい」

「でも僕、済ませないといけない要件があって…」

 間。

「何の用で政府なんかに?」

 ドヒの声が明らかに低くなる。圧に負けず、リープは答える。

「写真を届けたくて、ゲイブ軍隊長の落とし物なんです」

 リープは写真を見せる。

「こ、この女性は…!?」

「知ってるんですか?」

「俺のタイプだ!」

 間。

「というのは冗談で、ゲイブとは古くからの知り合いだから、俺が渡しておくよ」

「それ本当なんですか?」

「本当だって。今度あいつに会ったら俺のこと聞いてみてよ、知ってるって言うから」

「信じ難いですが…」

 渡せる可能性が少しでも高いということで、ドヒに写真を託した。ドヒはフードを深く被り、そそくさと部屋を出ていった。

「コヘンをよろしくな」

 去り際に一言を残していった。

 僕も一旦、外に出ることにした。コヘンとコミュニケーションを取ることが目的なのだが、つい先日外の世界と触れ合った自分にできるのだろうか。とりあえず、頻繁にシュピルに通うことにした。

 店のホールに出ると、相変わらず騒がしかった。騒がしいのと、いざこざのせいで気が付かなかったが、壁や天井に隙間なく紙が貼られていた。

「情報過多のレストランだな」

 紙には主に依頼やメンバー募集について書かれていた。その中に、ひっそりとメニューが書かれた紙を見つける。おにぎり、ピザ、ケーキ…以降は紙が重なって読めない。

 店を出る時、カウンターのコヘンと目が合ったが、すぐに逸らされてしまう。

「彼は固く閉ざされているよ」

 壁、いや、箱がいきなり声をかけてきた。

「箱?」

「俺はボックス。顔は覚えた」

 リープは気味悪く感じながら、階段を上る。

 目を開けるのが困難なほどに、地上が眩しく感じた。だからこそ、目が合っていたことに気がつかなかった。

「あ!見つけました!」

 どこかで聞いたことのある声だった。そして、ラブコメの幕開けだと、ウキウキしながら、焦点を懸命に合わせる。ほら、見たことある顔がどんどん近づいて…くる!?

「ちょ、まだそんな仲では…」

「見つけましたよ!人殺し!」

 自分に言われていると信じたくないリープは、周囲を見渡したが、彼女の視線は間違いなく自分に向いていた。二人を中心に静けさが生まれ、やがて雑音を呼ぶ。

「今の聞いたか?」

「人殺しって聞こえたな」

「あの男の子が?」

「聞き間違いだろ」

 雑音がさらに雑音を呼ぶ。ここまでの騒ぎになると思っていなかったブルーメは顔を赤らめた。

「つ、ついてきてください」

 リープの腕を掴んで、雑音をかき分け進む。ブルーメは自宅へと向かった。

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