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本になりたい少年  作者: つくし
10/11

二足歩行

 連れ去られた人たちの救出に成功した翌朝、リープ、ブルーメは家に戻り、少しの間留守にするとこを伝えた。

 まだ幼いため、センマはリープを送り出すのを躊躇った。国中であればまだしも、国を出るとなれば話は別だ。リープは仲間のためだと伝えていたが、途中途中で脱線してしまい、旅の話をしてしまう。

「それでね、それでね…」

「もう、またリープはおばあちゃんを困らせるんだから」

「あ、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって」

「いいのよ。そんなに楽しくいられるお友達ができてよかったわね」

 センマはブレーキが掛からなくならないほどに楽しく話すリープを送り出すことを決めた。

「そんなに良い子たちはあんまりいないのよ?だから、大切にね」

「ありがとう、おばあちゃん!帰ったらまた話すからね」

 可愛い子には旅させよ。可愛いから仕方ないわよね。おじいさんはこんな私を許してくれるかね。

「それはダメだ。父として認められん」

「どうして?」

「…そうやって、愛する人がいなくなるのはもう嫌なんだ」

「大丈夫!」

 同情を誘ったのだが、勇敢な娘のセリフにミザキはやや驚いた。

「私は帰ってくるから!お父さんの知らないお花とか木とかもお土産に持って帰って来るから!私を信じて、お願い?」

 かわいいー!!だから、女の子は苦手なんだ。何でもかんでも可愛さで惑わせて来るから。一人娘だから余計に際立つし。

「仕方ない。でも、危険な目に遭ったら、裏切ってでも逃げるんだぞ。それだけは約束を…」

 話の途中でブルーメは店を飛び出そうとした。

「やなこーった。もう、守られるだけの女の子はやめたの。じゃあ、行ってきます」

 ビラーマ、見ているか。ブルーメはこんなに成長したぞ。私と言えば…君がいなくなってから何も変わっていない。政府に肩入れしてしまうくらいには落ちてしまっていた。私も変わらなくてはいけないな。もう一度、君を守れるように。

 なんとか承諾を得たリープとブルーメはシュピルで待ち合わせをし、その後ヴァッフェの家へ向かった。

 店頭には店番をしているアタゲがいた。

「お、お久しぶりです。アタゲさん」

「リープじゃない、久しぶり。その子は…彼女さん?」

「はい、そうなんです」

「ち、違いますって!なんでややこしいこというんですか」

 間。

「ヴァッフェのこと、任せていただけますか?」

「あの子は大丈夫。強い子だもの。私とあの人との息子だもの。報告を受けた時は驚いたけど、少しでも元気な顔を見られる様になるのなら、信じて待つのが母親ってものよ。だから、お願い。ヴァッフェを救って」

 優しく、温かい表情の裏には、涙が流れていたのを、リープは感じ取った。

「ツァオバーは行かなくていいの?」

 エアフィンの塔でハットとステッキの手入れをしていたツァオバーに話しかける。

「僕はもうこの歳だし、自由に動いていいでしょ」

「一言ないと心配するものだよ?」

「それでも、うちは大丈夫だから」

 ツァオバーは自宅に、メモを貼り付けたロバを置いてきた。メモには『武者修行してきます』とだけ書かれていた。

「君たちはどうするんだ?」

 リーブとコヘンに声をかけるも、しばらくしても返ってこない。

「聞こえているのか?君たちはどうするんだって聞いているんだ」

 それでも、二人は返事をしない。

「戻りました。…何してるんですか?」

 リープとブルーメが戻ると、エアフィンとツァオバーがなんとかして閉ざされた口を開こうとしていた。

「何を言っても口を開かないもんだから、力づくで開けようしているんだ」

「そんなこと逆効果にしかならないですよ!」

「でも、この子たちがどうしたいかわからないままじゃ、動きようがないだろう」

「コヘンは昨夜、一緒に行くと聞きました。リーブは…」

 リーブは一回頷いた。

「だそうです」

「面倒なやつらだな…コホン、向こうに着くまでの飲食料を用意しておいた。それからこれも渡しておく」

 リープは小さな箱を渡された。上部だけ開いている。

「それは今製作している階のものを自由に取り出すことができるものだ。君たちがワープしていたのと同じ原理で作った。念のために飲食料とか使えそうな発明品を置いておくつもりだ」

 へー、便利なものだ。

「今回は一方通行となっているから、そっちから何かを送ることはできないから覚えていてほしい」

 準備を済ませた、リープ、ブルーメ、ツァオバー、コヘン、リーブの五人はヴァッフェ救出のため、ナチュラル国へと向かった。

 初めての国外に胸躍らせる五人を待っていたのは…

「何も…ない?」

 国を出ると、一面草が生い茂っているだけだった。リープは動物がいたり、冒険家がいたり、見たことのないものがあったりするものだと思っていた。しかし、実際には家を出た時よりも、面白そうなものはなかった。

「退屈な旅になりそうですね」

「危険なことがないだけマシだ」

「ここに花を咲かせたらとても綺麗になりそうですね」

 朝に塔を出て、一日中歩いていたが、景色は全く変わらず、ずっと草を見ていた日になった。

 陽が落ちる前に、各自テントを張って、休暇を取る。危険が全くないとは限らないので、交代で見張りをすることにした。

「私も見張ります!今までのかわいいだけの女の子だと思わないでください!」

 自分でかわいいと思っていたのか。間違ってはないけど。

 最初に見張りをすることになった。特に面白いことはなかったが、国を出た、というストレスを無意識に体が感じているのか、余計に疲れた。

 焚き火の中、持参した本を読んでいると、隣にリーブが座ってきた。

「寝られないのか?」

「ふかふかのベッドで寝てたから」

「王族は違うな」

 間。

「僕以外とは話せないの?」

「したくないことはしない、話したくないから話さない。それだけ」

「そうか」

 間。

「両親の話、今聞いてもいい?」

「リープがいいなら」

「僕は大丈夫だよ」

 間。

「実は僕の親じゃないんだ。というより、普通の人間じゃないから、僕を作った人が親なのかな」

「怒涛の情報にやられてるけど」

「今のは僕のことだから、このまま話すよ。リープも会ったラーピとソアミは実は、リープ、君の親なんだよ」

「本当なのか?」

「信じられないのもわかる。記憶が消されてるからね」

「待って、理解が追いつかない。ちょっと整理させて」

 リープは時間をもらい、自分でなんとか落とし込もうとする。

 リーブが言っていること全て正しいと仮定すると、昨日見たラーピとソアミは、実は僕の両親で、リーブは作られた人間で、僕の記憶は消されてて。だめだ、これに関してはもう信じるか信じないかの二択のようなものだ。でも、どんな人であろうと、僕に両親がいたという方が嬉しい。

 リープはリーブのことを信じるという択を選んだ。

「続きを聞かせてほしい」

「記憶が消されてると言ったけど、言い方を変えれば盗られたんだ。僕はそれが誰なのかを知っている」

 間。

「スティーという人物だ」

「それって、今から会う…」

「そう、だから、それまでに今のことをリープに伝えておきたかった。どういう敬意であれ、リープの記憶を盗った人物だ。たとえ協力してくれるとしても、何か裏があるかもしれない。完全に信用するのはやめた方がいいと思う」

「それをみんなに伝えるのは?」

「顔を合わせた時に、疑いの目を向ける数は少ない方がいい。僕たちだけに留めておくつもりだ」

 それもそうだ。たとえその人が悪い人であろうと、ヴァッフェを救ってもらうために会いに行くんだ。悪く思われないようにしないといけない。

「そろそろ交代の時間だぞ」

 背後からかけられたツァオバーの声に驚いてしまう。

「そんな驚かなくても」

「ち、ちょうど寝落ちそうだったので」

「そうか、リーブだっけか、僕の次の見張りだから、少しでも寝ておけよ」

 二人はテントに入り、眠りについた。

翌朝、持参した食料にコヘンが手を加えてくれた朝食を食べた。コヘンの腕っぷしを知っていたリープとブルーメは鼻を高くしていた。

「そうなんです、コヘン君は料理が得意なんですよ!」

「作れない料理がないんですよ!」

「なんでお前らが得意気なんだよ」

「まぁまぁ、コヘンと口を聞けないからって嫉妬しなくていいですよ」

「リープってそんなキャラだっけか?」

 和んだ朝食をとっていると、リーブの皿の上にあった料理が消えていた。リープの袖を引っ張り、何もない皿を指さす。

「コヘン、おかわりある?」

 コヘンは首を横に振る。

「だって、国に着いたら食料調達できるし、少し我慢しよう」

 リーブの隣に座っていた犬が首を縦に振る。

「ほら、ワンちゃんも納得しているよ…ワンちゃん!?」

 リーブはリープの言葉で犬がいることに気づき、驚いてリープに隠れた。犬は立ち上がり、お辞儀をすると走ってどこかへ去っていった。

「犬って二足歩行でしたっけ?」

「僕が知ってるのは四足歩行だ」

「しかも、律儀に頭を下げていきましたね」

 一同は犬が去っていった方を見つめる。見つめていると、小さくなるはずの影が段々と大きくなっている。こちらへ近づいてきているのだ。その影は一つではなく二つあり、どちらも人型だった。

 リープたちは立ち上がり、近づく影に対し、警戒体制をとる。

 そこに現れたのは先ほどの犬と一人の少女だった。一人と一匹は何度も頭を下げ続けた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 リープたちは構えるのをやめ、腰を下ろした。

「クスターが、あ、この子の名前です。クスターが料理を勝手に食べてしまったそうで」

 リーブを見ると何度も頷いていた。

「ビノが道を覚えていないからでしょ」

「クスターの鼻を頼りに国を飛び出したのに、全く使えないからでしょ」

 クスターと呼ばれる二足歩行の犬と金髪の少女はポコスカ殴り合う。

「お、落ち着いてください。あなたたちは何者なんですか?」

「ビノたちはナチュラル国から飛び出してきたんです。色々とあって…」

「ビノは親とケンカしたんだ」

「二足歩行で素通りしてたけど」

「犬が普通に話してますね」

「話すカラスがいたから、そこまで驚かないですけどね」

 確かに、と頷く一同。

「今、ナチュラル国って言いました?」

「はい、そう言いました」

「都合良いな」

 ビノは首をかしげる。

「僕たち、ナチュラル国に用があって向かってるんです」

「そうだったんですね!…あー、でも…」

「でも?」

「残酷なことが苦手なら、今は来ない方がいいと思います」

 間。

「ナチュラル国は毎月十日になると、えーと、簡単に言うと」

「人や動物が死ぬ」

「そんな直接的に言わないでよ」

「ナチュラル国王は平等主義で、いかなる生物に対して、平等に扱わなければいけない。不平等な扱いをして、それが政府の耳に入ると、次に迎える十に斬首される。老若男女、人間動物関わらずだ」

「物騒なお国ですね」

「君たちは…ジャッジ国から出てきたのか?」

「はい、昨日出ました」

「目的によっては、日を改めたほうがいいかもしれん」

 リープたちは自己紹介と共に、スティーという戦闘員を探しに向かっていることを話した。

「仲間のため、というわけか」

「生半可な理由じゃないことだけはわかってほしいです」

「よし、手を貸そう。犬の手も借りたいというだろう」

 すると、クスターはしゃがみ、地面の匂いを嗅ぎ始めた。

「こっちだ」

「えー、鼻効くんじゃん」

「ビノが反省したら帰るつもりだったが、話が変わった。リープたちの仲間を救わなければならない」

「ごめんなさいね、ビノさん。お花は好きですか?」

 ブルーメはリュウキンカをビノに見せた。ビノは花火のように明るく、大きな笑顔でブルーメの足に抱きついた。上目遣い、且つ眩しい目で見つめる金髪の少女にブルーメはメロメロだった。

「抱っこ!」

「こら、ビノ。迷惑をかけるんじゃないよ」

「私は大丈夫ですよ。これで喜んでくれるのなら」

 ブルーメはリュウキンカをビノに渡し、抱きしめ上げた。

 ビノとクスターを加え、リープたちはナチュラル国へと歩き出した。しばらく歩いても、昨日と変わらず、延々と原っぱが広がっていた。退屈を感じ始めたリープが口を開く。

「クスターさんはどうして立ってるんですか?」

「これには深いわけが…」

「転んだだけです」

 ブルーメに抱かれているビノが答える。

「元々は四足歩行だったけど、前足を滑らせて、骨折しちゃったんです。獣医師の判断で前足を半分ほど切断することになり、それ以降歩くことができませんでした」

 確かに、よく見れば前足、今では腕のほうが正しいか。短くなっている。

「ビノはクスターと散歩できないのが寂しくて、どうにかして歩いて欲しくて、一緒に外にいた時、鳥とぶつかってしまったんです」

 鳥?

「それから、どういうわけか、クスターは歩くだけじゃなく、人間の言葉も理解できるようになったんです」

「獣医師は前例がないということで、とても不思議がっていた」

「おもしろいのが、動物は飼い主に連れられて病院へ行くのですが、クスターは一人で行けるんです」

 ビノはケラケラと高笑いし始めた。つられたのか、コヘンも口角を少し上げていたが、バレるのを防ぐために右手で抑えていた。

「それが毎度のことだから、当たり前に一人で行って、診察して、会計して、気づいたら帰ってきてるんです。もう、犬じゃなくて、人なんですよ」

「世の中、面白いことがあるんですね」

 リープはまだまだ知らないことがあることを知ると、いてもたってもいられず、歩くスピードをあげる。

 話していたからか、その日のうちにリープたちはナチュラル国へ辿り着くことができた。ビノとクスターとは入り口で別れを告げ、リープたちはスティーを探しに政府へと向かった。

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