表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【なろうラジオ大賞3】参加作品

ひねくれ望遠鏡

作者: 鷹野 進


 いつかのことだった。


 冬の晴れた土曜日。

 朝練で弓道場に行けば、袴姿の榊先輩があぐらをかいて座っていた。


「……仮にも女子なんですから、慎みを」

「なんだ、鳴海。開口一番、小言か」

 覗き込んでいた筒から目を離し、俺を見る。


 ため息が不可抗力で溢れる。

 弓道場に上がって、神棚に一礼。榊先輩を振り返れば、熱心に空へ筒を向けていた。


「何ですか、それ」

「うん? ひねくれ望遠鏡」


 ひねくれているのは、榊先輩ではないのか。


「失礼なやつだな。私は清く正しく楽しく生きている」

「……で、しょうね」

 あっさりと思考を読まれたことは、気にしない。


「鳴海も覗いてみろ。面白いぞ」

「はぁ……?」

 今は朝方だ。空に星なんて見えない。


 押し付けられるまま、筒を手にする。滑らかな木の手触り。ひと目で年代物とわかる、細い望遠鏡。


「龍でも見えるんですか?」

 望遠鏡を覗き込む。

 丸い視野に見えたのは、どこかの王城。


「んっ?」


 窓が開けられた部屋がある。


 茶髪を三つ編みにした翠目の青年と、十代前半だろうか。茶髪に茶色の目をした少年が、何やら話している。


 無論、話し声は聞こえない。


 翠目の青年が、手に持った羽根ペンで少年を差す。茶髪の少年は眉を寄せて、ティーポットを手に取った。


 望遠鏡から目を離す。

 遠くには、青空と木々が生い茂った〈紫苑の森〉。


 どこにも、西洋風の王城は存在しない。


「……どういうことですか?」

「見たままだよ」

 さらりと榊先輩が答えるが。

「意味がわかりません」


 にんまり、と彼女が嗤う。


「言っただろ。ひねくれ望遠鏡って。気まぐれに世界の端っこを見せてくれる」

「どうして、そんな謎なものがここに?」

「うん? ちゃんと、鳩缶に入っていたぞ」


 元は土産のサブレが入っていた黄色い缶。今は弓の道具と雑多なものと謎が詰まっている。


 今まで取り出せなかったのは、俺の力不足か。


「いや。ひねくれているから、気分がいい時しか出てこない」

「……あっさりと、考えを読まないでくれませんかね」

「わかりやすい、鳴海が悪い」


 理不尽だ。


「世の中、真っ直ぐなものほど曲がって見えるんだよ」

 

 にやり、と榊先輩が嗤った。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議さがあり、また雰囲気が素敵です(*´ー`*) 休日の朝練のスローな会話が心地いいです。読ませて頂き有り難うございました♪
[良い点] コラボ…!(((o(*゜▽゜*)o))) [気になる点] ちゃんと鳩缶に入っている…鳩缶に入っている時点でちゃんとしていない物確定。 [一言] こうきましたか〜ʕ•ᴥ•ʔにやり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ