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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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神獣討伐 白い闇

 真っ白な霧の中にハルはいた。

 深い真っ白な霧の中では、視覚的情報は何も入ってこなかった。その白い霧を払おうとしても払えず、まるで目の表面に白い霧がへばりついたかの様な嫌な感覚だった。

 その白い霧の中には、巨大な木が等間隔に生えてたし、植物もしっかり生えていた。霧に入る前とあまり変わらない景色の森が続いていたが、ひとつ違うとすればそれはもちろん濃霧があるかないかの違いだけだった。

 ハルはそんな霧の森の中にいた。


 森の中でハルがしていることは自分の両手に握られた巨大な二本の刀を振るうことだった。常人が両手で扱うには無理がある作りの大きな刀。

 ハルはその刀を霧の中で振るい続けていた。

 二本の刀が凄まじい速さで霧の中を走ると、霧の中にいたある何かを斬っていった。するとその斬られた何かからは大量の液体が周囲に飛び散り、その飛び散った液体は時間と共に嫌なにおいを放った。

 その嫌な匂いから遠ざかる様に霧の森の奥を目指していた。


 ハルが霧の森の奥に進むごとに、霧の中からハルの方に向かってくる何かはどんどん増えていき、彼の行く手を阻んだ。

 それでもハルは二本の刀を使って、その迫りくる何かを片っ端から斬り捨ていく、その霧の中の何かは大小さまざまな大きさをしていたが、ハルにとって大きさはあまり問題にならなかった。

 なぜならハルが刀を一振りすれば、皆等しく、一瞬で真っ二つになったからだった。


 その何かは必死にハルを止めようとしているように見えた。ハルにもそれは伝わっていた。それでもハルは無慈悲に両手に握られた刀を振るうことをやめなかった。


 ハルは自分が斬っているものが何かを考えることをやめていた。

 そうしないとふとしたときに手を止めてしまう可能性があったからだった。ハルはそれだけはしてはいけないと自分を戒め続けた。しかし、それは彼にとって苦痛になり、誰かと交わした約束を破っているような気がした。


「愛せなかった…」


 ふとそんな言葉が無意識にハルの口から零れた。


 自分のやっている行為にハルは絶望する。

 嫌ならやめればいい、すると多くの大切な人が殺される。殺されると人は死んでしまう、死ぬとその人には一生会えなくなる。ならばどうすればいいか、話し合えばいい。

 だが、相手は話が通じない、なら答えは単純だった。

 殺される前に殺せばいい。



 数百年前から活発になったと言われる魔獣たちは人間を襲い、その味を覚えた。毎年その被害は拡大を続けていき、多くの国がそのことで悩まされていた。エーテルがなくなり人間が魔法を使える場所が限られたことにより、魔獣の討伐は難しくなり、彼らの繁栄を許してしまった。

 昔は静かに森の奥や山の奥にひっそりと暮らしていたが、魔獣は人を積極的に襲うようになり、彼らの縄張りは拡大していった。


 そして、その影響がハルの目の前に大きな形を持って現れたのは、神獣によるレイド王国への二回の奇襲だった。これにより多くの人が神獣によって命を落とした。

 ハルはこの事件がきっかけで今回の四大神獣討伐作戦の案を持ちかけた。


 みんなが理不尽に殺されないために、先にこちらから殺す。


 それは。


「違う…」


 ハルはひとり呟いた。


 ハルの刀が目の前にいる何かを捉えると、水のような液体が飛び出て、ハルはそれを浴びてしまう。

 ハルはもう全身がその液体で染まっていたが、そんなことを気にするような状態ではなかった。

 次から次へとハルを殺そうと何かが迫り続けており、それを斬り殺すことに集中していたからだった。


 ハルは相手を殺すとき、できるだけ痛みで苦しまないように、首を一瞬で落としていた。

 それがせめてもの慈悲だと思った。


 しかし、殺される方からしたら同じ死だった。


「………」


 外では月が昇り霧の森にも夜が訪れていたが、ハルのいる霧の中は別世界の様に明るくそして白さを保っていた。それは魔法の力なのかは分からなかったがハルがその事実に気づくことは無かった。それぐらいハルには間を空けずに何かが襲いかかってきていた。

 しかし、それでもハルの身体は疲れることを知らずにずっと霧の中を動き、切り落として続けていた。


 それからどれくらい時間が経ったか分からなくなるくらいにハルが斬り進んで行くと。


 ゴオオオオオオオオオオ!


 一本の光の光線が飛んできて霧の中の森を焼き払った。その光は凄まじい威力で今まで放たれてきた光線とは格が違った。

 光線が走った後には何も残らなかった。


「大型の白虎…」


 ハルが呟く。


 その生物の大きさは五十メートルを軽く超えており、明らかに今まで斬ってきた白虎たちとは纏っている雰囲気が違く、ハルの思考を自分たちに働かせることぐらいの気迫はあった。


 それでも、ハルは。


「ごめん」


 ハルは白虎にそんな言葉をはいた。


 グオオオオオオオオオオ!


 大型の白虎が咆哮し、次の光線を放とうとした時、その白虎は足元から崩れ落ちた。白虎が気づいたときには、すでに前足が斬り飛ばされていた。何十メートルもある巨大な白虎の前脚が地面に転がった。

 そして、白虎が崩れ落ちる時、その下にはすでに両手に刃を持ったハルの姿があり、死神の様にひっそりと佇んでいた。


 グオオオオオオオオオ!


 それでも大型の白虎はそのしぶとい生命力で、口に貯めた光線ごとハルに顔から激突しようとしたが、そのときには、すでにその白虎の頭は胴体から切り離されて宙に飛んでいた。

 大型の白虎が最後に見たのは、切り離された自分の胴体に、刀を一本突き刺してそれを足場にして立っていた、一人の人間の姿だった。


 大型の白虎が一頭、死んだあと霧の森の奥の方から巨大な咆哮が聞こえてきた。


 グオオオオオオオオオオオオ!


 グオオオオオオオオオオオオオオ!


 グオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「本番はこれからか…」


 周囲で巨大な咆哮が轟くなか、ハルは大型の白虎の胴体から降りていた。


 するとその咆哮で周りにいた中型以下の白虎たちがハルのまわりから逃げ始めた。


「………!」


 ハルはそれだけは決して許すわけにはいかなかった、その時、初めてハルに余裕がなくなった。

 ハルは苦しめないで殺すつもりだったがそこからは虐殺の限りを尽くして白虎を排除し続けた。


 それはみんなのもとには行かせたくはないという一心からの行動だった。


 霧の森は最終局面を迎えようとしていた。





























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