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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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神獣討伐 二人の想い

 監視塔に設置されたテントの中でライキルは目を覚ました。

 ライキルの目の前にはテントの天井がまじかにあった。寝るためだけに用意されたテントだけあってそのサイズは小さかった。

 監視塔にも寝泊りできる部屋があったがそれは常駐するオウドの騎士たちのためのもので、監視塔は大人数が生活することを想定されていなかった。そのためライキル含めここに来た多くの騎士たちはテントで寝ることになった。

 ライキルがテントの外に出ると、まだ真っ暗な夜が広がり、星が瞬いていた。


「夜か…」


 ライキルが目をこすりながら呟く。

 静寂に包まれている監視塔はところどころたいまつの明かりがついていたが、それよりも月明かりが明るく周囲を照らしていた。

 ライキルはテントに戻って眠ろうとしたが、全く眠れる気がしなかった。


「…歩くかな」


 ライキルは歩いている間、今ハルが何をしているか考えたが、辛いイメージしか湧かなかったのですぐにハルの無事だけを願った。


「………!」


 歩いているとき、ライキルは、ここに戻って来てからガルナの姿を見ていないことに気づいた。


「もしかして、まだ塔の上にいるのかな…」


 ライキルが塔の頂上を見上げるが暗くて何も見えなかった。

 ライキルは塔の中に入り壁伝いに暗い階段を上がっていった。途中、小窓から月明かりが差し込みそれを頼りにした。

 ライキルが塔の頂上に着きドアを開けるとそこにはガルナの姿があった。


「ガルナ!?」


 ライキルが声をかけるとガルナが振り向いた。


「ライキルちゃん…」


 ガルナのフサフサの耳は下がり、ゴワゴワの尻尾は全く動いておらず、彼女からはいつもの元気は感じられなかった。


「ずっと起きてたんですか?」


「うん…」


 ライキルが心配そうに聞くと彼女は小さく頷いた。

 ここまで元気のない彼女を見るのはライキルは初めてだった。


「何かあったんですか?」


「ハルが行っちゃった…」


 ガルナはそれだけ言うと霧のある方を向いた。夜で霧は見えなかった。


「………」


「あの霧を見たとき嫌なもの感じたんだ、初めて怖いって思った…」


 ガルナは少し身震いしながら言った。


「うん」


 ライキルも確かにあの霧はどこか不気味に感じていたが、ガルナの今の怯えっぷりを見ると彼女が感じているものと自分の感じているものが違うことがなんとなく分かった。


「ハルのこと、とめなきゃって思ったけど、ハルは行くって言ったから…」


「うん」


「私は待ってるんだ…ここで」


 ガルナは自分の胸を掴んで苦しそうな表情で言った。


「そうだったんですね…」


 その表情からライキルはガルナがとてもハルのことを大切に思っていることが伝わってきた。


「………」


 ライキルもガルナの隣に行き、遠くの景色を眺めた。


「ガルナはハルのこと好きですか?」


 ライキルはあまりしたくない質問をしたが、それでも彼女がここまで真剣にハルのことを考えていると思うと聞かざる負えないような気がした。


「うん、好きだ、初めて人を好きになった…」


 ガルナは即答した、彼女は恥じらいもなく人を好きになるということに実直だった。


『そっか、そうだよね、やっぱりガルナはハルのことが好きか…』


 初めて会ったときからライキルはなんとなく感じていたがその予想は当たっていた。


「私もハルのことが好きなんです」


 ライキルもガルナに打ち明けた。きっと普段の行動からバレバレだとは思ったがそれでも言わなきゃ本当のことは相手に伝わらない。


「じゃあ、一緒だね!」


 ガルナはそのとき嬉しそうな笑顔で答えた。


「!?」


 ライキルは彼女のその笑顔と答えに衝撃を受けた。ライキルはハルのことを誰にも取られたくはないと常日頃から思っていた。だが、ガルナからそのような独占欲は全く感じられなかった。


『ああ、そっか、ガルナは本当にただ純粋にハルのこと好きなんだ、だから周りのことなんて関係ない』


 ライキルがガルナの横顔を見ると彼女は嬉しそうに笑っている。

 ライキルは心のどこかで辛かった、ハルに求められない自分が、必死に振り向いてもらおうとするが空回りしてしまう自分が。


 でも違った。


『私が勝手に好きでい続ければいいんだ、簡単なことじゃないか…結局ハルが最後に誰を選ぶかはハル自身の問題なんだから…』


 誰かを好きになることは、他の誰かを嫌いにならなければならない、そんなことには決して繋がらない、二人の愛する人が同じでも、ライキルはガルナのことも大好きだった。


「ガルナ、ありがとう!」


「ん?」


 急に礼を言われたガルナは何のことか分からなかったが幸せそうな笑顔のライキルを見た。


「えへへ、どういたしまして!」


 ガルナはライキルのその笑顔を見て自分も幸せな気持ちになって、不安で重かった身体も軽くなった気がした。

 二人はそれから恋の話をした。二人とも相手は同じ人、それでも二人は楽しそうに自分の好きな人のことを語った。

 時間を忘れて二人が語り合っていると遠くの東の空が白んで明るくなって来た。


「あれ!話しすぎてしまいました!ガルナ少しだけでもいいから寝ましょう!」


「うん、でも、私どこで寝ればいいか分からない…」


 ガルナはうとうとしていた。


「私のテントで一緒に寝ましょう、狭いですけどぎりぎり二人は入れます」


「分かった…」


 ライキルはガルナの手を引いて塔の頂上をあとにした。



 ゆっくりと東から昇ってくる陽の光が霧の森を照らす。

 森に光が差し込み植物たちが活動を始め、朝の清々しい風が森中を駆け巡り草木を揺らした。

 草木の葉がすれる音以外は、なにも聞こえない落ち着いた空間が広がる静かな朝の森。

 澄み切った空気が森にいきわたり、爽やかで穏やかな朝が始まった。


 濃霧の中を除いて…。





















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