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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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神獣討伐 帰還途中

 ハルが抜けた少数精鋭部隊は、アスラ帝国の剣聖フォルテを先頭に監視塔までの道を使役魔獣を走らせて帰還している途中だった。


「ハル、大丈夫ですよね…?」


 ライキルがエウスの隣で不安そうに言った。

 エウスはその質問に少しだけ言葉を詰まらせた。最後のハルはどこか余裕がなさそうに見えたからだった。


「当たり前だろ、ライキルもずっと隣で見てきただろ、ハルに敵う奴はこの世にいねえよ」


 エウスはライキルをうわべだけ安心させるための虚言を吐いたわけではなかった。それに彼女もその質問自体に彼女自身の答えがもうすでに出ていると見えた。


「ハハ、その通りだなエウス、ハルが死ぬならこの大陸の人間は全員霧の中の魔獣に殺されて終わりだな」


 エウスとライキルの前にいたフォルテが軽く笑いながら言った。彼は冗談ではなく本気でそう思っているようだった。


「でも、ハルだって人間ですよ…ひとりは辛いですよ、誰か支えてあげる人がいなきゃ…」


 ライキルが馬型の使役魔獣の首をそっとなでながら言った。


「…そうだな、でも今俺たちにできることは、ここから無事に帰ることだけだろ?」


「ええ、そうですね…」


 ライキルはぎこちない無理やりな笑顔をで返事をしていた。


『ハルも人間か…』


 エウスはライキルの言ったことが正しいと心の中で思った。

 人間は不完全な生き物だから、どこか必ず欠落している部分がある、この世界に生まれた時点でそれは決まっていたのだろう。きっと全ての生命たちは不完全でなければならない理由があったのだろう。そうでなければきっと神は全ての生き物を完璧に創造しただろう。

 だから完璧そうに見えるハルも足りない部分はあった。エウスはそんなハルの足りない部分を補ってやりたいと思っていた。

 それでも、今ハルにできることが彼をひとりにすることだと思うとエウスはやるせない気持ちでいっぱいになるのだった。


「みんな、そろそろ、魔法が使えなくなるから注意しろ!」


 フォルテが後ろの騎士たち全員に向けて注意を促した。

 濃霧から離れていくにつれて体にマナが流れなくなっていくのを全員が感じ始めた。そしてマナの存在を完全に感じなくなったとき、事態が一変した。


「なにぃ!?全員速度を上げろ後ろから複数の魔獣が迫って来てるぞ!」


 フォルテが叫ぶと全員がその言葉と共に使役魔獣を加速させた。


『奴ら、人間の狩り方を知っているな、タイミングがあまりにも良すぎる』


 魔法が使えなくなったとたん後ろから追ってきた魔獣たちにフォルテは嫌な予感がした。しかし、魔獣たちは様子を見てるのかすぐには襲ってこなかった。


 グオオオオオオオオオ!


「なんだ!?」


 騎士たちは後ろから轟いた咆哮に一瞬怯んだ。


「なるほど、仲間を呼んだな…」


 フォルテが天性魔法の波に神経を注ぐと、左右からもフォルテたちを囲おうと駆けてくる魔獣たちを探知した。


『こうなると周りに何体伏兵が潜んでいるかわからないな…』


「よし、全員このまま全力で監視塔まで駆け抜けろ!左右にいるの魔獣たちは振り切れるはずだ、後ろの魔獣は俺が全て引き受ける!」


 そう言うとフォルテは使役魔獣の速度を落として部隊の後ろに移動した。


「使役魔獣を頼むぞ!」


 最後尾にいたエルガーの精鋭騎士にそう言うとフォルテは使役魔獣から飛び降りた。


「ご武運を!」


 精鋭騎士がそう言うとフォルテの使役魔獣と共に走って行った。


「さあ、俺が相手してやるよ、光栄に思いな魔獣ども」


 フォルテがそう言うと左右から少数精鋭部隊に詰めて来ていた魔獣たちがフォルテの方に進路を変えてきたのを彼は自分の天性魔法で感じ取った。


「まあ、どれだけ来ようが無駄だがな」


 フォルテが静かに呟くと背中から皮の鞘に入ったフランベルジュを取り出す。皮の鞘から取り外されたその剣の刃は波打った形をしていた。

 フォルテの周囲には五メートルを超える白虎たちが彼の周囲を取り囲んでおり、彼の逃げ場はすでにどこにもなかった。




「フォルテ大丈夫かよ…」


 エウスが心配そうな表情で後ろを見たが、すでにフォルテの姿は遠く離れて見えなくなっていた。


「大丈夫ですよ、フォルテさんなら何と言ってもアスラで二番目に強いお方ですから」


 エウスの後ろにいたエルガー騎士団の精鋭騎士のひとりが自慢げに言った。


「そうだよな、フォルテは剣聖だもんな」


 エウスは精鋭騎士の言葉でフォルテもまた化け物であることを思い出した。




 白虎たちがフォルテに襲いかかろうとした瞬間、白虎たちはその動きを止めた。

 そして白虎たちは周囲をキョロキョロ見渡し、自分たちの存在を確認し合って耳を何度も動かしていた。

 そのとき、一頭の白虎が隣の白虎に爪を立てて襲いかかった。

 白虎たちは自分の耳に得体のしれない音を聞きその音のする方に反射的に爪を振るっていた。

 襲われた白虎は大きな傷を負って襲いかかって来た白虎に反撃したが、お互い仲間だということを目で確認すると争いをやめた。すると次に隣の白虎が急に爪を振るうと隣の白虎の皮膚を切り裂いた。

 そのような仲間割れが一斉に起こり白虎たちの陣形が崩れるとフォルテはその隙を狙って白虎たちに剣を振るった。

 フォルテがフランベルジュを両手で持ち白虎の足を狙い切りつけ、一気に引き抜くとその波状の刃が一瞬で何度も白虎の足を削った。白虎がよろめいたところをフォルテは白虎の首を狙って再びフランベルジュを叩きこみ一気に引き抜く、すると白虎の首から大量の血が地面に零れ落ちた。

 フォルテは仲間割れをする白虎たちの首を次々と出血させていく。

 多くの白虎はその音で混乱していたが、数頭の白虎はその音を気にせずに、フォルテに向かって突っ込んで来た。


「まあ、慣れてくる奴もいるよな」


 フォルテに向かって白虎が牙をむいて走って来る。

 フォルテはフランベルジュを静かに構える。

 白虎が食い殺そうとかみつくが、フォルテはそれを紙一重でひらりとかわすと全く同じように首を切りつける。そしてだんだんと白虎たちが音に慣れてきたのか傷だらけの白虎たちが次々とフォルテめがけて襲いかかってきた。

 しかし、フォルテはその白虎の群れをいとも簡単に捌いていく。白虎たちはフォルテにその数の多さで何度も波状攻撃を仕掛けるがフォルテにかすり傷すら与えられなかった。それに比べてフォルテは白虎たちに囲まれながらも確実に彼らを絶命させるように首だけを狙って致命傷を与えていった。


「やはり、ハルには遠く及ばないな…」


 気が付くとフォルテの周りには白虎たちの死体が辺りに横たわっており、大きな血の水たまりがそこら中にできていた。


「………」


 フォルテは周囲の状況を見てしばらく黙って何か考え込んでいたが、そのあとすぐに監視塔に走り出した。

 彼が去ったあともそこには魔獣の死体がただ残っていた。







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