神獣討伐 開幕
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六大王国のひとつ、エルフの国【スフィア】その国の王宮の一室にひとりのエルフの男性がいた。
鮮やかな金髪に翡翠色の瞳、透き通った肌や美しい外見から少し人間離れした何かを感じた。エルフにしては背が低いが人族と比べると高身長にあたる背丈をしていた。
彼はエルフ特有の長い耳の左耳だけにピアスを三つしており、端から順番に金色のピアス、青色のピアス、赤色のピアスをしていた。
彼は庶民が着るような質素な水色の服装をしており、絢爛豪華なこの一室には似合わない服装をしていた。
彼はそんな豪華な部屋の窓の外の景色を眺めながら紅茶を飲んでいた。窓の外にはこの宮殿と同じ敷地内にあるスフィア王国の大きな王城が建っており、実に実用性に優れた城のつくりをしていた。
そして、彼はふと空を見上げた。そこには雲一つない晴天の青空が広がっていた。
「始まったね、彼らの物語が…」
彼は誰もいない一室でひとり呟いた。
そこに部屋のドアからノックの音がして、ひとりのエルフの騎士が入って来て彼に言った。
「女王様の準備が整いましたのでこちらへ」
彼が騎士についていき、謁見の間の前まで来た。そしてその扉が開かれるとその奥にひとりのエルフの女性が待っていた。
騎士が謁見の間の扉を閉めると彼とその女性と二人っきりになった。
「レキ様!」
エルフの女性がレキと言われた彼の元に駆け寄っていった。
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濃霧の中に入ったハルは静かに歩いていくが、目の前は全く何も見えなく目をつぶっているのとたいして変わらなかった。
そこでハルは鞘に入った刀を片手で一振りした。すると一瞬で空気が押し出され凄まじい風が吹き荒れた。
「…!?」
しかし、ハルの目の前の霧は全く晴れなかった。確かにハルはそこら辺の霧を吹き飛ばすほどの強風をくりだしたが霧はその風の影響を受けずにただ辺りに依然として流れ続けていた。
「本当に晴れない霧だな…」
真っ白な世界の中でハルはひとり呟く。
「使うか…天性魔法」
ハルがそう言ったあと、彼は普通に歩き出した。
そして濃霧で全く見えないはずの数メートル先にある巨大な木を事前に避けて霧の森の奥に進んで行く。
「変わった木だ…枝が曲がってるな…」
何も見えない濃霧の中でハルが上を見上げてそんなことを呟く。
目を開けても何も変わらないためハルは目をつぶって歩いていた。それでも目の前にある巨木たちなどの障害物には一度も当たらずにハルは前に進み続けた。
しばらく、ハルが濃霧の中を歩き続けていると遠くから獣の咆哮が聞こえてきた。
「…………」
すると遠くの方のどこからか獣の咆哮ではない別の大きな音が鳴った。
ハルは少しだけその場から早歩きで歩いた。
バー―ン!!!
次の瞬間ハルの後ろの地面が轟音と共に削り取られ、近くの巨木に大きな穴が開いた。
そんな異常な破壊と音がしても、ハルは後ろを見向きもしないで霧の奥の中央を目指して歩き続けていた。
今度は複数同時に大きな音が鳴った。ハルは再び早歩きで歩き出した。
そのすぐあとに後ろでは轟音と大量の光が飛び散り、近くにあった巨木の根元の幹に完全にぽっかりと穴が開いた。
ギギギギギギギ!
巨木が自身の重さに耐えられずにハルの方に倒れてきた。
ハルは二本の刀を片手で抱えて、もう一つの右手を空けると倒れてきた巨木をその空いている右手で軽々受け止めた。そのまま、ハルはその巨木を自分の横に投げて捨てた。
大きな音と共にその巨木が倒れると何事もなかったかのように彼は再び歩き出した。
周囲で多くの獣の咆哮がとどろき始めた。ハルが濃霧の奥に進むにつれて彼の周囲に飛んでくる光と轟音の数がどんどん増していった。
その光はまさに雷であったが、その光はいくつもの稲妻が束ねられたような密集した形の光線で飛んできていた。その威力は人間なら影も形ものこらないほど強力なもので、ハルの後ろでは何やら倒木する音などがたびたび聞こえていた。
ハルがそんな遠くから飛んでくる雷の光線をよけながら進んでいるときだった。ハルが飛んでくる複数の光線を避けると、避けて逃げた場所にはもう複数の光線が飛んできていた。しかし、ハルはあらかじめ知っていたかのようにそれを避けると、次の瞬間ハルの逃げ場がないように周囲全体を光が包みこんでいた、上から横からまさに四方八方逃げ場がないように光線が計算して放たれていた。
「………」
ハルが片手で持っていた鞘に入った大きな刀の一本を上に振り上げた。その振り上げた刀のスピードは一瞬だった。
バン!!!
一瞬の大きな音と衝撃波が周囲に広がった。
その衝撃波でハルを包み込もうとしていた光の光線が全て弾き飛ばされて一瞬で消えた。
ハルは振り上げた刀を下ろすとその刀の刃が剝き出しになっていた。
そしてハルは背負っていたバックを下ろして、もう一つの刀の鞘を取り外した。
「悪いな…」
ハルが小さく呟いた。彼の両手には首落としと皮剝ぎの二本の大太刀が握られる。
「この森にいる生命には全員死んでもらうぞ…」
ハルがそう言うと一瞬でその場からいなくなる。
そして、近くに隠れていた体の高さが二十メートルはある神獣の首に刃を突き立てる。
「死んでもらうぞ!!」
ハルが声を荒立てながら突き刺した刀を振り抜けると神獣の首が落ち大量の血が降り注いだ。それを合図に周りにいた神獣がハルめがけて襲いかかってきた。
「覚悟しろ!!!」
ハルが普段見せない怒りの表情で目を見開き叫ぶ。しかし、彼の目は涙ぐんでいた。そして、その怒りは決して魔獣たちに向けられたものではないように見えた。
それは自分の悲しみを隠すようなそんな怒りだった。
ハルはその怒りに身を任せて神獣たちに刀を振るい続けた。




